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陰謀だらけの魔法合戦(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編6)  作者: 月森琴美


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 9月第二週は何事もなく過ぎた。

 第三週に入ると、学園内では体育祭の準備にどこの部でも気合が入る。

 休み時間ごとに響く応援団の威勢の良い声とダンス。

 美術室に置かれた作りかけの入場門と退場門には、飾り文字のまわりに上質な紙で作られた花や葉などがしっかりと固定されていた。

 クラスごとに白いうちわやビニールテープ、模造紙なんかが配られて、応援グッズや垂れ幕が製作されている。

(すごいな。本当にお祭りやるみたいだ)

 昼休み、英司は校内を歩きながらそう思った。

 今日は帝直々に生徒会室で一緒に昼を食べながら、体育祭当日の動きを考えようと言われている。

 もちろん斎も一緒だ。

 体育祭当日は、二つの問題を同時にこなさなければいけない。

 一つは体育祭に出れない雅人の代わりをやって、いかにも彼が参加していますという風にごまかすこと。

 もう一つは三年の先輩たちより課された課題、姫探しゲームだ。

(俺はほとんど雅人先輩の身代わりやんないといけないだろうから、探すのは帝と斎におまかせかもな)

 自分のクラス種目にも出なければいけないし、当日の事を考えただけで頭がおかしくなりそうだ。

 生徒会室に着くと、帝と斎はもう来ていた。

「遅い」

 帝にぎろりと睨まれて、すみません、と答えておく。

『そんなに待ってませんよ。僕も今来たとこなので』

 斎がにこりと微笑みながら、思念を送ってきた。

 気遣いが嬉しくて、英司は彼に笑むと円卓の席につく。

 三人そろったところでお弁当を開いた。

 帝は今日はサンドイッチだ。香ばしいバケットに新鮮な野菜とハムやチキンカツ、玉子サラダなどがはさんである。

「めずらしいですね、帝」

 いつも彼は三段ほど重なった重箱風の弁当箱で、まるで高級老舗のお弁当ですかと言いたくなるぐらい豪華そうなのを持ってくるのに、今日は至ってシンプルだ。

「忙しいから手軽に食べられる物にしてくれと言ったまでだ。これから食しながら話が出来る」

 そう言って帝は、コップに注いだオレンジジュースを一口飲む。

 斎のお弁当はいたって普通で、小さなおにぎりとウインナーや卵焼き、今日はエビフライが入っていた。

 さりげなくウインナーは飾り切りされてタコやカニになっていたり、おにぎりが海苔でサッカーボールの形になっていたりする。

『僕の母さんはキャラ弁を作るのが好きみたいで、でも僕はそんなに可愛らしくされても女子みたいで恥ずかしいからシンプルにして欲しいっていつもお願いしてるんです』

 斎は少し頬を赤らめた。

「へえ、こないだのパイも美味しかったし、お前のお母さんって料理上手いんだな」

 英司は感心しながら言う。

「俺ん家は共働きだし、いっつもインスタントとか買った物詰めたりしてるんだ」

 そう言う英司のお弁当は、斎のより1.5倍大きかった。

 中にはご飯と梅干、おかずはきんぴらごぼうとひじきの煮物、豚カツだ。

「全部昨日の夜スーパーのお惣菜コーナーで調達してきたんだ。今季節がら暑いし、ポテトサラダとか俺、好きなんだけど、マヨネーズ系は次の日腐っちゃう可能性があるって言って買ってきてくれないんだよ」

 英司はトホホという顔をしながら、箸を動かす。

 教室と違って生徒会室なので少し動けば温かいお茶が飲めるが、英司も斎も市販のお茶を持ってきており、飲み物はそれだった。

「で、体育祭の事だが」

 食べながら、帝は二人に話しかける。

「当日、俺達は三つの事を同時進行しないといけない。自分のクラス種目、雅人の身代わり、茉理を探すこと」

「面倒ですよね。どうします?」

 英司がご飯を頬張りながら聞く。

「とりあえず雅人の競技種目参加の身代わりは英司、お前にまかせたい。三年生がクラス席に座っている時間は斎、お前が身代わり人形を作って座らせておけ」

「やっぱりそうなりますか」

『わかりました』

 斎はうなずき、英司はがっくりと肩を落とす。

「俺と斎で茉理を探す。英司、お前も競技参加しない時間は手伝え。斎、身代わり人形を維持しつつお前が動く事は可能だな」

『はい』

 また彼は首を縦に振った。

「茉理を探すルールとして、彼女がクラス種目に参加している間は手が出せない。席に座っている時間か移動中に見つけて生徒会室に瞬間移動する。まあ、そこまでむずかしくはないだろう」

「そうですね。徒競走終わって退場門に入ったら、すぐ見つけられると思いますし」

 英司は同意し、斎は少し考え込む。

「出来るだけ周りに人が多い時に捕まえる方がいいだろう。向こうも狙ってくるだろうし、はち合わせしたら多少の妨害魔法は使ってくるはずだ。だが人ごみの中では、早々攻撃魔法を使えまい。周囲の者を巻き込む事はタブーになってるはずだ」

「でしょうね。確か兄の瑠衣の方が強い攻撃魔法を使うんでしたっけ」

「ああ。兄の方が極大爆炎魔法を使うらしい。だが頭が馬鹿過ぎて、その魔法以外覚えられなかったそうだ。本当にこんな奴が生徒会で使えるのか、理解に苦しむな」

 英司と帝の言葉に、斎は先日確認した彼ら双子のデータを思い出す。

(確か瑠衣の魔力が常識では考えられないぐらいに高かった)

 あんなに魔力があるのなら、とても普段は使えまい。

 そう思っていたが、ふと雅人の忠告を思い出す。

(相手を深く読んだ方が勝つ、か)

 もう一人の怜のデータが頭に浮かんだ。

 魔力が一般人より少し多いぐらいの少年だが、頭は良いらしい。

 ならば当然こっちが競技が終わって退場する瞬間を狙ってくる事はわかっているだろう。

(僕ならどうする)

 斎は必死に考えた。

 プログラムによると、最初は開会式で、そのあとクラス席に移動である。

 この時は退場門は使わずに、その場からグラウンド周囲にあるクラス席まで行進していく予定だ。

 クラス席に着いた時に茉理を捕まえる機会が生じるのだが、向こうもそれは読んでいるはず。

(この時に僕達より早く後野さんを連れていって、僕達の目の届かない場所に隠す)

 間違いなく相手はこれをするだろうと斎は思った。

 日を改めて直樹に細かいルールの説明をされたが、茉理の移動範囲は学園の中等部校舎かグラウンドに限定されており、外部に連れ去ることは違反となる。

 また絶対に茉理が出なければいけない種目には、本人を参加させなければいけない。

(どう考えてもこっちが有利だよな)

 ルールの中で最も難しいのは、茉理にはゲームをしていることを隠すこと。絶対に知られてはならない。

(僕達は後野さんと面識がある。でも北原君たちはまったく初対面になる)

 自分達は茉理と接触さえすれば、何も知らない彼女は警戒することもなくこちら側に来てくれるだろう。

 だが小学生組は、そんな彼女を本人に悟らせずに上手く自分達の目から隠さないといけない。

(あきらかに小学生の彼らの方が、この課題は難しすぎる。一体どんな方法で僕達の目を欺くつもりなのか)

 雅人はそれでも小学生たちが勝つと言い切った。

 斎が黙って考えていると、おいっと肩を叩かれる。

 英司が心配そうに、顔を覗き込んでいた。

「大丈夫か、斎。何か気になることがあるとか」

「気付いたことは遠慮せずに言え。別に大したことでなくてもかまわない」

 帝にもそう言われ、斎はぎこちなく笑みを見せて大丈夫だという意思表示をする。

「何もなければ、この話はこれで終了するぞ。あとは当日やりぬくだけだ」

 帝の言葉に二人は同意し、あとは特にたわいのない会話をして昼休みは終了した。




 放課後の活動も特になく、帝は早めに帰宅する。

 久しぶりに茉理と帰ろうと思ったが、一足遅く彼女の方が先に学校を出てしまっており、あきらめて迎えに来た車に乗り込んだ。

 いつもどおりに邸に着いて、車から降りると懐かしい顔が迎えに出ていた。

 休暇を願い出ていた執事だ。

「おかえりなさいませ、帝様」

 以前と変わらぬ声で彼を迎える姿に、帝は驚く。

「どうした。しばらく休むと言っていたのに、もういいのか」

「はい。ご迷惑をおかけしました」

 休む理由が体調不良のための療養だったため、無理をしているのではないかと心配になった。

「無理をしなくても良いのだぞ」

「大丈夫でございます。森崎医院で、よく治療を受けましたから」

 執事は微笑んで帝の鞄を受け取る。

「今日はお早いお帰りでしたね。生徒会の方はお忙しくありませんでしたか」

「ああ。もうほとんど俺達がする事は済ませたからな」

 そう言って、帝は自室に向かった。

「お時間がおありでしたら、図書室においでください。北原出版社から今月の新刊がいくつか届いております」

「中身はなんだ。また先月みたいに小学生版子ども図鑑全集二十巻とかじゃないだろうな」

 帝は顔をしかめる。

 ちなみに北原出版社は第二の分家系列の出版社で、雑誌や文庫、漫画などを扱っており、近年では電子書籍にも力を入れていた。

「北原文庫の新刊書です。雑誌は科学系のニューコスモとパズル雑誌のパズルン、それと月刊誌の芸能賛歌です」

「わかった。着替えたら見てみよう」

「それと僭越ながら帝様の自室の掃除をさせていただきました。こちらで不要と判断した物は処分させていただきましたのでご了承ください」

 かしこまってそう言われ、帝は捨てられた不要な物が何かすぐに気がつく。

「……あの執事はどうした」

 低い声で問うと、すぐに返事が返ってきた。

「私めが戻りましたので、一筆持たせて別邸に帰しました。元々は藤家にいた執事だったようですね」

「藤家だと?」

 帝の語気が荒くなる。

「お気になさいませんように。藤家が最近態度を大きくさせていることは私の耳にも入っておりますが、いつまでそのような顔をしていられるものか。すでに一族の上の方々の間では問題視されているとのことです」

「そうか」

 信頼している彼の言葉に、波立った帝の心はひとまず静まった。

 気を取り直して自室に入り、汗を流して着替えを済ませる。

 例の白封筒が入っていた引き出しの中はからになっていた。

(今夜はよく眠れそうだな)

 そんな事を思いながら帝は図書室へ行き、新刊を眺めてひと時の休息を取った。





 夏にはまだ明るかった時間帯も、秋が深まるにつれて薄闇に包まれる。

 健全な小学生たちはベッドに入るか、こっそり部屋でゲームをしたりする時間に、初等部校舎の屋上に小さな人影が二つ見えた。

 もう職員も帰ってしまい、宿直の教師しかいなくなったため、屋上に佇む侵入者には誰も気付かない。

「何これっ。超最悪なんですけどっ」

 赤い髪を振り乱し、瑠衣は手持ちの紙をくしゃっと握りつぶすと双子の弟にくってかかる。

「なーんーでー俺の平均点が5点なんだよっ。俺は平均点80点だぞ」

「落ち着け、瑠衣」

 怜はまっく動じず、冷静な顔で言い放った。

「作戦だ」

「だからって俺、頭が超絶残念になってるんですけどっ。それに何だよ、これも。俺の魔力数値がありえない事になってる。これじゃあ俺は人間じゃなくて魔獣じゃないか」

「作戦だ」

「何でもその一言で済ますな。しかもこの証明写真、全然別人だ。これって6年3組の足立のじゃん。あのいけすかないカリスマ野郎の」

「お前にラブレター寄越した奴の顔は、流石に覚えてたようだな」

「くそっ。どうして俺があんな奴に惚れられなきやいけないんだよ」

「そこまで相手をだませたって喜んでたじゃないか。手紙を炎で盛大に燃やすぐらい」

「あーもー、なんであんなのが女子に受けるのかわからん。俺がほんとに女だったら、速攻足で踏みつけて下僕にするぜ。済ました顔で何が紅薔薇の君だ。理解に苦しむ」

「同感だ」

「まったくもう。お前は成績優秀者になってるし。でもお前の写真も違うよな。これって5年の足立じゃん。6年の弟。兄弟そろって薔薇よばわりされてる」

「弟の方は兄のとばっちりだろう。別に本人が名乗ったわけじゃない。周囲が勝手にそう呼んでるだけだ。()()()()()()()()()()()()()という事を、しっかり証明してくれている一例だ」

「おいっ、何か今の台詞、ちょっとひっかかるんですけど」

「お前の気のせいだ」

「いーや、絶対お前の本音が混じってる。くそっ、ひねくれ者で心の中まで真っ黒な弟を持つ兄の苦労を理解出来るケースはどこかにないのか」

「聞いた事がないな」

 怜はにやりと笑うと、ぽんっと兄の背中を拳で軽く叩く。

「ちなみにこのデータは、透明人間先輩に送っておいた。雑用係の先輩にはこっちを。そしてこっちが王様だ」

 何枚か用紙を出して、彼は瑠衣に渡す。

 彼は目を通して、はあっと大きなため息をついた。

「どれもこれも俺がお馬鹿で、お前が秀才。しかも王様には俺が馬鹿すぎて極大暴炎魔法しか使えないことになってる。写真も全部違う奴だ。お前に至っては魔力がほとんどなくて、可哀想な薄幸の病気持ち。雑用先輩には俺達の身長が120センチメートルの発育障害持ちって設定か」

 瑠衣は紙をにぎにぎとまとめて潰し、手のひらの上に乗せて呪を口にする。

 あっという間に紙は燃えて灰となり、秋風に乗ってどこかへ霧散した。

「でもいいのかよ。これ知ったら、あの陰険眼鏡が絶対怒り狂うぞ」

「ああ。面白いだろう」

 怜は口元に満足そうな冷笑を浮かべる。

「自分のデータ管理には絶対の自信を持っているからな、あの人は。だがその驕りが仇になるってことを、存分に味わってもらおう」

「怜ちゃん、怖―い」

 わざと茶化して瑠衣ははしゃいだ。

「あの人は、よもや自分が間違ったデータを三人に送りつけたとは思ってもいないはずだ。完璧な情報を伝達したと思い込んでいる。自身が作った悪性ウイルス除去ワクチンプログラムを破る人間がいるなんて考えてもいないだろうからね」

「お前の方が一枚上だったってことかあ。よく出来たな」

「まあね」

 怜はにやりと笑う。

「そしてあの三人も、まさか眼鏡先輩が送信してきたデータが間違っていたとは思わない。疑うことすらしないだろう。そこを狙う」

「で、俺達の偽データを送ってどうするわけ?」

「相手は当然僕達のことをデータ通りだと思って、作戦を立ててくる。敵に誤認させることで、僕達の計画の成功度が上がる」

「上手く行くかなあ。あっちだってそこまで馬鹿じゃないでしょ」

「少なくとも午前中は大丈夫だ。午後はさすがに気付くと思うが、今度は気付いた内容と午前中に僕達の動きが与えた影響で、心理戦に持ち込めばいい」

「ううっ、何がなんだか難しすぎる」

 瑠衣は赤い頭をがしがしと搔いた。

「深く考えるな。お前は僕の指示通りに動けばいい。こないだの藤の名簿のようにやればいいってことだ」

「わかったよ。作戦はお前にまかせる」

「向こうには僕は魔法がまったく使えない不憫な存在となっている。そしてお前は暴炎の攻撃魔法しか使えない人間として認識されている。本当は僕達がナル先輩以上の変身魔法の使い手で、瞬間移動や防御結界も出来るという事実は、これで隠蔽されたはずだ」

「当日はそれ使ってやるもんね。あとはくまの着ぐるみを用意して、と」

 瑠衣はうーんと腕組みをして考え込む。

「でもさ、本当にあの藤ゆり子様ってこの作戦に乗ってくるかなあ」

「大丈夫だ。僕の得た情報では、あのゆり子様はファンシーな物――テディベアとヒラヒラのフリルが沢山ついた王子服には弱い傾向がある。十分可能だ」

「王子服ねえ。そんなにあの服ってカッコいいのか? 女の思考はさっぱりわからないよ」

「同感だし、わからなくていい。僕達は普段あんな格好してるけど、本質は男なんだからな。絶対に忘れるなよ」

「わかってるって。あと一年がんばったらクリスティ学園なんて転校して、男に戻って普通の中学に通うんだろ。俺、絶対なんか部活やりたいし、彼女だって欲しいもんね」

「僕はいい加減この馬鹿な茶番はやめて、ゆっくりしたいよ。頭の足りない男子に迫られる生活から逃れられればそれでいい」

「お前もけっこう人気あるもんな。無表情のくせして、よくわからん」

「お前ははしゃぎすぎなんだ。無理に可愛い子ぶると、そのうちボロが出るぞ」

「はいはい。気をつけマース」

 そう言って瑠衣はにっと笑った。

「最初は簡単すぎて、超つまんなそうって思ってたけど、なんか楽しみになってきたぜ、体育祭」

「ああ、そうだな」

 二人は拳を片方突き出すと、互いの拳にこつんとあわせる。

「やっちゃいましょう」

「ああ、やるぞ。完璧にな」

 日が落ちた夜の闇の中、二人は互いの顔を見合わせて愉快そうな笑みを交し合った。


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