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陰謀だらけの魔法合戦(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編6)  作者: 月森琴美


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 さわやかな秋風が感じられる、穏やかな休日の午後。

「皆様、ようこそおいでくださいました」

 黒い執事服を着こなした背の高い男が、一礼して一行を出迎える。

 I県の山奥に気付かれた広大な伊集院財閥の別邸。

 生まれて初めてスーツを着た斎は、緊張で身をがちがちに固めながら自分達を迎える男を見た。

 伊集院財閥総帥 伊集院雷導の第一執事 大森大和(おおもりやまと)

 能面のように細長く真っ白い顔には冷笑以外の表情を浮かべたことがないという、非常にいわくつきの青年。

(この人が、雅人先輩と帝先輩の教育係だった人か)

 帝と雅人は幼い頃、とんでもないスパルタでひどい教育を受けたと聞いている。

 おかげで幼稚園時代には女の子のように優しかった性格が歪められ、敵とみなした者には一切容赦しない俺様気質の人格が生まれたそうだ。

 前に立つだけで悪寒が走り、斎は自分の中の恐れと必死に戦いながら前を見る。

「お邪魔するよ、大和。おじいさまはお元気かな」

 雅人は慣れた口調で話しかけた。

 横にいる直樹は相変わらず黒眼鏡を煌かせ、何を考えているかわからない。

 その横にいる英司も斎と同様、着慣れないスーツ姿でかなり顔を強張らせていた。

 自分一人がこの場にいるのではないことで、斎は大分気持ちが落ち着いていく。

 今日は帝を除く生徒会メンバー4人が、招待されて別邸に来た。

 呼ばれなかった帝を思うと胸が痛いが、実の祖父である雷導は帝と顔を合わせたことは今まで一度もなく、会ったことがあるのはこの中で雅人のみである。

(どうしていきなり僕達を呼んだのだろう)

 斎は不思議でしょうがなかった。

 彼も実は雷導の孫である。

 だが今まで一度だって祖父である雷導には会ったことがない。

 毎年様々な催しが別邸で開かれていることは知っている。

 だがそのどれもに斎はおろか斎の両親――彼の母にして、雷導の実の娘である(しずか)さえ呼ばれたことはなかったのだ。

 それがいきなり秋の紅葉園遊会に招待され、今こうして別邸の門の前に立っている。

「お元気でいらっしゃいますよ。他のお客様もご到着なさいました。ご案内いたします。こちらへどうぞ」

 大和はそう言うと、音もせずに踵を返し、4人を門の内側に導いた。

 中には白砂を敷き詰めた純日本風の庭があり、池には鯉が気持ち良さそうに泳いでいる。

 別邸は本邸以上の大きさで建物は洋館だが、どちらかというと明治時代に建てられたレトロな西洋風の建築物に似ていて、日本風の庭とよく合っていた。

 中に入るとそのまま廊下が続いており、中庭に出られるよう別な出入り口が見える。

 大和はそのままずんずん進んでいって、もう一つの出入り口から外へ出た。

「うわっ」

「これは凄いな」

 英司と直樹が、思わずつぶやく。

 中庭は、庭というより自然の大公園といったところだった。

 目に飛び込んでくるのは、美しい道とその横にずらりと並ぶイチョウ並木。

 黄色の葉が地面に落ちて、金色の道となっている。

 その周囲には赤や橙色に色づく美しい紅葉の連なりがどこまでも続き、道は途中で左右に分かれて更に山にまで達していた。

 道のあちこちに着飾った人々がいて、楽しそうに紅葉を眺めながら談笑している。

 更にどこからともなく小鳥のさえずりまで聞こえ、時折可愛いリスがちょこちょこと姿を見せた。

 大和に続いて、四人は金色の道を落ち葉を踏みながら歩く。

(どうしてだろう。銀杏が落ちてない)

 斎は首をかしげた。

 これだけのイチョウ並木なのだ。

 大抵銀杏も黄色い葉と共に落ちていてもおかしくないのに、それが一つも見当たらない。

 そのことを英司に思念で伝えると、彼はうーんと考え込んで思念を送り返してきた。

『多分あれって踏むと匂いが半端なくするだろ? それで魔法で全部除去したんじゃないかな』

『そうなんですね。確かにアレはそうかもしれません』

『この紅葉もさ、うちの近所とかはまだこんなに真っ赤に色づいてないじゃん。ここって北だからもっと遅いと思うんだよな。おそらく魔法で時間を早めて、わざと赤とか黄色にしちゃったんじゃないかな』

『そうかもしれませんね』

 斎は目に映るあまりにも見事すぎる紅葉を見ながら、ふと不思議の国のアリスに出てくるトランプ兵の事を思い出した。

 ハートの女王陛下の怒りを恐れ、彼らは白薔薇を赤薔薇にしようと必死にペンキで塗りたくる。

 そんな光景が脳内に浮かび、思わずこの紅葉にも通じるものを感じて、綺麗な景色が逆に偽りのものに見えてしまう。

 これから会いに行くのは、もちろん女王様ではなく一族の総帥だ。

 だが権威を考えたら、そっちの方が怖いかもしれない。

 ハートの女王と同じくすぐに首をはねることなど造作もないのだから。

 落ち葉を踏んでしばらく歩くと、人口の池が見えてきた。

 池と言ってもかなり大きい。

 学校の校庭の半分ぐらいはあるだろう。

 魚は泳いでいなかったが、池の周囲はやはり見事に色づく秋の紅葉が取り巻いており、水面には色とりどりの落ち葉がゆれていた。

 池の周囲にも招待客と思われる人たちが沢山いて、山々に囲まれた水面の美しさを堪能している。

 斎たちが近づいていくと、皆かしこまって彼らに道を譲った。

 今の4人はただの中学生ではない。

 一族四つの分家を代表する立場なのだ。

 自分たちより明らかに年上と思われる人たちから敬意を表され、斎は居心地が悪くてたまらなかった。

 いたたまれずに人々の間を抜けながらため息をつくと、前から軽い笑い声がする。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、斎君」

 雅人が余裕の笑みを浮かべて声をかけてくれた。

「誰も君にちょっかいなんて出さないから心配しないで。もしそんな奴がいたら、お兄ちゃんに言うんだよ。すぐに燃やしてあげるからね」

「燃やすのはまずいんじゃないか。この辺で火を出して周辺に燃え移ってみろ。盛大な山火事になって後始末が面倒だ」

 直樹が普段と変わらぬ声で会話に入ってくる。

「その時は瞬間冷凍させることにしよう。それなら見事な紅葉を損なわなくて済む」

「それはそれで見栄えが悪いんじゃないでしょうか。せっかくの紅葉の下に、人の氷像。むしろホラーになりそうで想像しただけで怖いです」

 英司がぶるっと身を震わせた。

「ふむ。ではお前が突風で吹き飛ばすというのはどうだろう。紅葉も全部飛ばしてしまえば、客はここに来た意味を失い、自主的にすぐ帰宅する。これなら一番手っ取り早い」

「えーっ、冗談やめてくださいよ。帰宅どころか、せっかくの紅葉をだいなしにしたって袋叩きにあうじゃないですか」

 英司の抗議する声を聞いて、斎は思わずくすくすと笑った。

 それを見て、他の三人も顔に安堵の表情を浮かべる。

「良かった。少し力が取れたみたいだな」

 英司はパンっと片手で斎の背中を叩いた。

「俺も緊張してるけどさ。もうここまで来てびびってもしょうがないし、ま、なるようになるさ」

『そうですね』

「いざとなったら四人で魔法連発して逃げればいいよ。たぶん逃げる隙ぐらいは作れる」

『はい。そうしましょう』

 斎は柔らかな微笑みを英司に向ける。

 そんな感じで会話をしながら歩くと、木造立ての東屋が見えてきた。

 池に面してよく景色が見えるように作られた東屋の中に、見事な彫刻がほどこされた四本の足を持つ卓と椅子が六脚ある。

 そしてそこに車椅子の上に乗る老人がいた。

 彼は日本の伝統衣装たる羽織り袴を見事に着こなし、遠目から見ても背筋を伸ばして王者のごとく座っている。

(凄い。車椅子が玉座に見える)

 その横には朱色を基調として美しい振袖をまとう少女がいた。

 彼女は黒髪を上品に結い上げ、紅葉飾りをつけた簪を挿している。

 横の美しい秋の風景と相まって、彼女の立ち姿は本当に美しかった。

 大和は東屋まで来ると、うやうやしく一礼する。

「御前、分家代表の皆様をお連れしました」

 その一言で車椅子が、彼らの方を向いた。

 短い白髪を丁寧にまとめたその下に、厳めしい額と強く輝く瞳がある。

「お久しぶりです、おじいさま」

 雅人が微笑みながら優雅にお辞儀をした。

 他の三人も彼にならって頭を下げる。

「顔を上げろ」

 低いがどことなく逆らえない威厳を持つ声。

 斎は顔をあげ、真っ直ぐに雷導を見つめた。

「おじいさまには初対面ですので、僕が紹介させていただきます。まず僕の横の彼が、第三の分家代表、森崎直樹です」

「お初にお目にかかります。森崎直樹と申します」

 いつもと変わらぬ冷静な声で、直樹は挨拶する。

 雷導の視線が一瞬直樹を見たが、やがてふいっとそらされた。

「その横が第四の分家代表、山下英司です」

「は、始めまして。山下英司です」

 彼は少し声を上ずらせながら名前を言う。

 やはり少し緊張しているようだ。

 雷導の視線は一瞬だけ英司に向けられたが、やはりふいっと目をそらす。

「最後は第五の分家代表、遠野斎です」

 斎は静かに雷導に頭を下げる。

 そして顔を上げて、また真っ直ぐに雷導を見た。

 今度は真正面から、雷導と目が合う。

(おじいさま、なんだよね)

 斎は心の中でそう思った。

 今まで一度も祖父として孫として何か接点があったわけではなかったが、それでも彼の血を自分は引いているのだ。

 雷導はしばらく斎を見つめていたが、やがてふっと目元を和らげる。

「静の子か。やはり似ているな」

 斎の目が大きく見開かれた。

 まさかまったく関心のない母の名が出るとは思ってもいなかったのだ。

「よく来た」

 それだけ言うと、雷導は車椅子を返して卓につく。

「大和、客人にお茶を」

「はい。ですが御前」

 大和は横に立つ美少女に目線を送る。

「お茶を用意する前に、咲子様を皆様にご紹介してもよろしいでしょうか」

「好きにせい」

 その言葉で、控えめに雷導の横に立っていた少女が一歩進み出てお辞儀をした。

「こちらは藤家当主、藤ゆり子様のお孫様で藤咲子(ふじさきこ)様とおっしゃいます。雷導様のお側でお話相手をされているご令嬢です」

「初めまして。分家代表の皆様、藤咲子と申します。どうぞよろしくお願いします」

 着物のよく似合う典型的なお嬢様といった感じの美少女である。

「これはご丁寧に。僕達の自己紹介は省略させていただきますよ。先程お聞きになっていたでしょうしね」

 一同を代表して、雅人が返事をした。

 斎も頭を下げながら、少し目を細めて彼女に注目する。

(この人が藤先輩の妹か)

 このあいだ先輩たちが言っていた、最近雷導にべったりだという孫娘。

(確かに綺麗な人だし、おじいさまが気に入ったというのもわかる気がする)

 だがあまり好きにはなれなさそうだと思った。

(なんとなく早川さんに似ているな)

 同じクラスの美少女早川響子の事が頭に思い浮かぶ。

 帝の彼女候補に選ばれていたが、選抜イベントで茉理に敗北し、交際相手にはなれなかった。

(自分に絶対の自信があって、僕のことを見下していた)

 生まれつき呪い持ちの斎は、彼女に一族の無能者と罵られたことさえある。

 顔かたちは違うが、この咲子にも響子に似た何かを感じ、斎はあまり近づかないようにしようと心に決めた。




 自己紹介を終え、一同は卓に着く。

 雷導の右にはさも当然であるかのように咲子が座り、左側に雅人が座った。

 咲子の隣には直樹が座り、英司は雅人の隣に、斎は直樹の横につく。

 大和がティーセットとお茶菓子の載ったワゴンを持ってやってきた。

「失礼します」

 後ろにはメイドが二人控えており、彼は自らお茶を入れるとメイドたちに給仕をさせる。

 目の前に高価そうな陶磁器の茶碗と秋を彩る紅葉やイチョウ型の和菓子が出された。

「さ、おじいさま」

 咲子がにっこり笑って雷導に茶をすすめる。

 彼が一口味わうと、雅人も茶器を手にして口に入れた。

「さすがに良い茶葉を使っていますね。美味しいです」

 彼が微笑むと、咲子はやはり笑みを浮かべてもちろんですわと返す。

 二人とも笑顔を貼り付けているが、目は少しも笑っていない。

 こんな中でよくお茶の味がわかるものだと斎は思いながら、儀礼的に茶器を取り、中の緑茶を飲み込んだ。

 しばらく誰もが無言で茶と菓子をつまんでいたが、やがて雷導が低い声で問うた。

「学園はどうだ、雅人」

「特に問題はありません。すべて順調で、つつがなく遂行しています」

「首尾は」

「万事上手く運ぶでしょう。ご心配なきように」

「そうか」

(一体何の話だろう)

 斎は二人の会話についていけず、首をかしげた。

 さりげなく英司の方を見たが、やはり彼も怪訝そうにしている。

「わたしの期待を裏切るなよ、雅人」

「ご心配なく。そんなことはありませんから」

 にこやかに彼はそう言った。

 空になった茶器に、メイドがまた新しい茶を注いでいく。

 斎もまだ飲みかけだったが、新しく二杯目を入れてくれたので頂くことにした。

 お茶もお菓子も最高級、周りの風景も風光明媚。

 これ以上の園遊会は望むべくもないだろう。

(だけど全然楽しくない)

 目の前の男の威圧感、イレギュラーな美少女とのバチバチと火花が散りそうな視線の交わしあい。

 こんな席に一体誰がいつまでもいたいと思うだろうか。

「そういえばおじいさま」

 咲子が甘えた声で、雷導に身を寄せる。

「咲子のお願いはどうなりましたか」

「あれか」

「無理なこととは存じておりますが、どうかお願いいたします。ね、おじいさま」

 彼女はわざと上目遣いに老人を見上げ、誰が見ても引き込まれてどんなお願いでもかなえてしまいたくなるほどのあどけない表情を見せた。

(この仕草。これでおじいさまを操っているのか)

 斎は不快そうに眉をひそめる。

 確かに可愛い。

 もし孫娘にこんな顔でおねだりされたら、大抵の祖父は聞いてしまうのだろう。

 ――たとえそれが無理難題だったとしても。

 雷導も老人ながら、にやりと意味深に笑んだ。

 そして咲子を引き寄せ、よしよしと頭を撫でる。

「可愛いお前のお願いを聞かないわけにはいかないな」

「本当ですか、嬉しいっ」

 彼女ははしゃいだ声で、おじいさまに抱きついた。

「……僕達はそろそろ失礼した方が良さそうですね」

 雅人はごく自然に席を立つ。

 実際のところ彼女のわざと甘えて雷導の寵愛を見せ付ける態度に、はらわたが煮えくり返っているのは明白だった。

 だがそれを表に出さず、彼は優雅に一礼する。

 直樹や英司、斎も合わせて立ち上がり、お辞儀をした。

「今日はお招きありがとうございました、おじいさま。僕達は少し庭を見せてもらってから帰ります。また機会がありましたらお誘いください」

 そう言うと、雅人は踵を返して卓から離れ、三人も後に続こうとする。

「待て」

 鋭い声が、彼らの足を止めた。

 咲子に抱きつかれた状態で、雷導は鋭い眼光を向ける。

「伊集院雅人、森崎直樹。お前達二人に総帥として命じる。次の体育祭、最終種目の旗取り合戦で、藤昇を勝者にせよ」

 二人は同時に振り向くと、じっと雷導を見つめ返した。

「それは私達に勝負にわざと手を抜いて負けろ、ということでしょうか」

 直樹の問いに、雷導はうなずく。

「二度は言わん。わかったな」

「……わかりました」

 雅人は静かに了承の言葉を口にした。

 斎は体中から怒りの炎が燃え上がるのを抑えきれなかった。

(そんな。先輩たちにわざと負けて、藤先輩を勝たせろなんて)

 それは雷導が帝を切り捨てたと同じこと。

 居並ぶ来賓たちの前でクリスティ分家の二人を制したとしたら、藤昇の実力は皆も認めるところとなり、誰もが次の総帥だと意識せざるを得なくなる。

 思わず体が動いて抗議のための砂文字を作ろうとした斎だったが、それより早く雅人に体を抑えられた。

『斎君、駄目だよ。こんなところで』

 そう思念でささやかれ、怒気を静めるよう言われる。

『……』

 よく見ると、英司も直樹に抑えられ、同様の状態になっていた。

「あとでよく話そう。今は落ち着いて」

 そう言われ、なんとか心を落ち着ける。

 おじいさまにべったりと甘えている咲子の口元に、あざけるような勝利の笑みが浮かんでいた。

(腹立たしい。きっと彼女がおじいさまにそうねだったんだ)

 先程の意味深な二人のやり取り、彼女のお願いとはこれだったのだ。

(これを言うために、僕達を呼んだのか)

 斎はなんともいえない気持ちになる。

 分家代表を集め、次の総帥は帝ではなく藤昇を支持する、そう言われたも同然だった。

 本当は突っかかっていって文句の一つも言ってやりたいぐらいだったが、雅人の言うようにここで騒ぎを起こしても何の解決にもならない。

 斎はとにかく自分をなだめ、なんとか平常心を取り戻した。

「では失礼します。おじいさまはごゆっくり楽しんでください」

 そう言うと、雅人は斎の肩に手をかけ、直樹は英司を引っ張ってこの場をあとにした。





 東屋から邸へ来るまでの間、全員無言でさっさと歩いた。

 会話らしい会話は一切せず、そのまま表玄関を出る。

 そこにはいつのまにか大和が立っていた。

「もうお帰りですか。随分とお急ぎですね」

「そうだね。君と違って、僕達はずっとおじいさまの側にいることが役目じゃないんでね。他の用事も色々あるし」

「さようですか。では門までお見送りします」

 そう言って、彼はまた一行の先頭に立って歩き出した。

 見送りはけっこう、と言いたくなった斎だが、雅人にさりげなくウインクを送られ、黙って門まで歩く。

 外に出ると、大和は小さな包みを5つ差し出した。

「本日のお茶菓子です。先程あまり召し上がらなかったようでしたので、包んでおきました。一つは帝様にお渡しください」

「これはどうも。遠慮なくいただくよ」

 雅人はそう言って、包みを受け取った。

「お茶菓子に罪はないしね。ここのお店のはとても美味しいんだ」

「では皆様、どうぞお気をつけて」

「じゃあね。おじいさまの延命作業、がんばってね」

 雅人は嫌味っぽくそう言うと、背を向けてバス通りへと続く道を歩きだした。

 あわてて斎も後に続く。

 一向が見えなくなるまで大和は門の前に佇み、見送っていた。



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