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フィーネ・クリスタル  作者: 青空ミナト


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213/215

その願い


「そして、ギルヴェリアの石。それぞれの宝具ほうぐは、その名をかんする国の中で、国宝として受けがれてきた。国の名前を変えながら。ゲーニッシュ王国はゲルニス帝国、ラウリヌス王国はラウの国、そしてギルヴェリア王国はギルの国に」


「ギルの国じゃと?」


数多あまたの戦いと革命の中で、その名は失われてしまったが。国をおさめる王ですら、もうギルヴェリアの名は知らぬだろう。かつて世界をすくうため戦った勇者ギルヴェリアは、故郷を失った人間を守るため、ラウリヌスのとなりに新たな国をきずいた。それが、ギルの国だ」


 ソルシャインの頭上に、大きなうずが浮かび上がった。黒いうずは、回転しながらその場にとどまり続けていた。


「戦乱と革命、破壊はかいと再生……激しい時の流れの中で国を維持いじする事は難しく、ギルヴェリア国の王もまた、その事を危惧きぐしていた。勢いを増すうずに飲み込まれてしまうように、あらがう事のできない流れは必ずやってくる。そう考えた三代目の王は、国宝こくほうを新たなに移す事を考えた。シラメリアだ」


「シラメリア?」


 アルは、眉間みけんにしわを寄せながら下を向いた。


「海流に沿うように移動を続ける浮島うきしま、シラメリアとう。賢人達によって作られたその島なら、時の流れの中で宝具ほうぐを守る事ができるかもしれない。そう考えた王はギルヴェリアの石を運び、遠い海の神殿しんでん安置あんちした」


「あの神殿しんでんに?どこにあったのじゃ、そんなもの……」


「だが、聡明そうめいな王の願いもむなしく、長い時の中でギルヴェリアの石は失われた。どこへ消えたのかだれにもわからぬまま、失われたという事実すらも、歴史のきりの中に消えていった。盗掘とうくつのしらせがギルヴェリア王国に届いた頃、すでに国の名は別のものに変わり、その体制も大きく変化していた」


 ソルシャインはゆっくりと息をい、腕を組んだまま前を見つめた。頭上に浮かんでいたうずが消え、石を積み上げて作られた四角錐しかくすいの建物が現れた。


「あれは確か…!以前、私達が調査した!」


「ああ!マリーさんがたおれた!」


「ギルヴェリアの石を知る手がかりはなくなり、わずかに残されたものは、各地に眠る思念石しねんせきだけとなった。人々の記憶がザラを通して結晶化した、形の異なる石……あるものはもなき森の中に眠り、あるものは古代人によって作られた遺跡として、時の流れを超えてきた」


「そうか、それでマリーさんは!」


「魔法のさいけ、感受性の強い人間が石に選ばれた時、そこにめられた想いは時を超えて輝き出す。記憶の断片だんぺんとして。私は思念石しねんせきを求めて世界を旅した。ギルヴェリアの石を見つけるために。あの石にはまだ、大きな秘密が残っていたからだ」


「秘密……」


「その手がかりすら、ついに見つける事はできなかったが」


 広がり続ける宇宙空間の中で、ソルシャインは空を見上げた。緑色に輝くオーロラが、空をまたぐように星々の上を流れていた。美しいオーロラの下で、ソルシャインは深く息を吸いながら前を向いた。


「魔法の力が完全に解放された時、大気中たいきちゅうふくまれる成分もまた変化をげる。いや、古代の姿に戻ると言うべきか。封印から解放された、膨大ぼうだいなザラとのバランスを取るためのものが、三つの宝具ほうぐでもある」


大気たいき?どういう事じゃ?」


「そうか。窒素ちっそや酸素、音波おんぱ……目に見えない様々な物質も、空気中のどこかでバランスを取っているなら……」


 ルーナはするどい目つきで前を見つめていた。


「そういう事になる。人が感じ取れる領域は、わずかなものに過ぎない。それぞれの宝具ほうぐには役割があり、ラウリヌスの鏡は空間を、ゲーニッシュのをつるぎは時間をつかさどるとされている。だが、残る一つ、ギルヴェリアの石にめられた力だけが、まだわからない」


「空間や時間じゃと?そんなものをコントロールできるとは、とても思えんが……」


魔石ませきを作り出した古代の賢人達の力は、人の限界を超えていた。平和を願った彼等かれらにだけゆるされた、奇跡といえるかもしれない。信じがたい話のように思えるだろうが、これが、私のき明かした真実だ」


 星々の浮かぶ宇宙空間の中に、沈黙ちんもくが流れていた。重たい空気の中で、アルはこぶしにぎりながら口を開いた。


「あの……おれ!おれの持ってた石、不思議な力があって、突然魔法が使えるようになったんだ!ザラを増幅ぞうふくするらしくて、魔空結晶まくうけっしょうともちがうみたいで!でも、マリーさんにうばわれて、たぶん今はゲルニスに……」


「……」


「おれの石が!首飾くびかざりの石が、そのギルヴェリアの石ってやつなのか?」


「それは私にもわからない。だが、可能性はある。ゲルニスの兵が手引てびきをしていたようだからな」


「なぜ、その事を?」


 レシオンは前のめりになりながら声を発した。


「主要な国々の都市には、私の使いのザルギナをひそませてある。全てを知る事はできないが、断片的な情報は知っていてな。見た目はただの鳥で、ザラもかくしてあるから、まずわからないだろう」


「そうでしたか。そんなものが、世界中に……」


下界げかいの事柄には介入かいにゅうしないようにしているので、ただ知るだけだ。それを伝える相手もいない。だが、その首飾くびかざりの石が、封印をかぎである可能性は否定できないだろう」


「おれの石が?」


肯定こうてい根拠こんきょもないがな。古代において、ザラを増幅する方法は無数に存在していた。貴様きさまが魔法を使えるようになったという事実だけでは、説得力にける部分はある。それほど、ギルヴェリアの石は特別なものだ」


 ソルシャインは腕を組んだまま、レシオンの方に顔を向けた。


「ゲーニッシュのつるぎもな。ジオルサが開天かいてんを進めているのは、ゲルニスから持ち出す必要があるからだろう。封印のへ」


「やはり、他の国にその場所が?」


「私はそう考えている。どこにあるのかはわからぬが、古代の記録から、今のゲルニスの領土にない事は確かだ。このまま時がてば、ジオルサは三つの宝具ほうぐをそこへと運ぶだろう。魔法の力を解放するために」


「ザルナカルラも、か。あれ以上の怪物かいぶつとなると、想像がつかないが……」


 ルーナは腕を組みながら静かにうつむいた。


「本来であれば皇帝こうていが何をしようが、私の知った事ではない。その行動に介入かいにゅうするつもりもなかった。だが、ザルナカルラの復活は、あらゆる生物せいぶつの死を意味する。この山もふくめて、地上の文明をはいへと変えてしまうだろう」


「そこまでの力が……本来ほんらい?では、まさか……」


「レシオン。貴様きさまの望み通り、特別に手をしてやろう」


 ソルシャインは右手の指を鳴らした。宇宙空間の奥から白い光が差し、太陽のように辺りをつつみ込んでいった。優しい光の中で、ソルシャインは腕を組みながら前を見つめていた。


「ジオルサより先にゲーニッシュのつるぎを手に入れ、私の所に持ってこい。その、首飾くびかざりの石も一緒いっしょにな」


「おれの石も?」


「ああ。私がくわしく調べてみる。ギルヴェリアの石の謎がければ、ザルナカルラを封印したまま、魔法の力だけを抽出ちゅうしゅつする事ができるかもしれん。いずれにせよ、ジオルサのたくらみは失敗するだろう」


「そんな事が……それは、ありがたいです。しかしあの男は、まがりなりにも今の皇帝こうていです。よろしいのですか?」


「今のゲルニスの体制を、どうこうするつもりはない。例の、革命の動きもふくめてな。私はただ、破滅はめつを防ぎたいだけだ。まだ作りたい野菜が、大量にあるのでな」


 周囲をおおう光が弱まり、空間の奥から夕陽ゆうひのような美しい光が差し込んできた。細く伸びた雲が頭上に浮かび、茜色あかねいろの景色が辺りに広がっていた。


「古代の賢人達は、平和へのいのりを込めて魔石ませきを作り出した。ラウリヌスのかがみや、ゲーニッシュのつるぎも。ジオルサの野望は、それらを無視したものである事は確かだ」


「じゃあ、おれ達についてきてくれるのか?」


「いや、私はこの山と一体化いったいかしているため、敷地しきちの外に出る事はできない。外に出れば急速に老化が始まり、貴様達の力にはなれないだろう。代わりに、剣の安置あんちされた神殿しんでんの情報を伝える。それと、私のとっておきを貸してやろう」


「とっておき?」


「魔法の力をそそいだ、特別な道具だ。くわしい話は、上にもどってからしてやろう。見たほうが早い」


 ソルシャインは夕焼け空につま先を伸ばして浮かびながら、レシオンの顔を見つめた。


上手うまく位置を利用したな。おそらく、帝都への通り道にハルド遺跡を使うつもりだろうが、使いのザルギナが兵団の動きを感知している。小さな町なら殲滅せんめつできる規模きぼのな」


「本当ですか?」


「国中にかくされた他の転移装置も、同じように警戒けいかいされていると見ていい。ジオルサは革命のもうとしている。開天かいてんであわただしい中、帝都からの指示なしに遺跡に近づけば、たとえ皇子おうじであっても命はないだろう」


「反逆者として、ですね」


「ここの地下に、帝都へとつながる転送用の装置がある。ハルド遺跡には行かず、そちらを使え。ただ、ほとんど使っていなかったので、起動には少し時間がかかる。二日ほどは必要になるだろう」


「ありがとうございます。そこまでしていただけるとは……助かります」


「さて、と……」


「カアアッ!」


 強烈な光が辺りをつつみ、視界の自由をうばっていった。数秒の閃光せんこうの後、光が徐々におさまり、石碑せきひの並ぶ円形の空間が現れた。


「これって……もとの空間に?」


もどってきたようじゃな。足が床に着くと、安心するわい」


「少し、一度に伝えすぎたか。貴様達にも頭を整理する時間が必要だろう。私は野菜の様子を見てから上に行く。石碑せきひでも調べながら、ゆっくりするといい」


「あの…!」


 灰色の壁を背に、アルの足が前へと動いた。


「なんだ?」


「おれ、あの石がなくなってから魔法が使えなくなって……何か、方法はないのか?マリーさんを助けるために、力が必要なんだ!」


「……」


「もう一度、魔法を使えるようになりたい!今までみたいに!」


貴様きさまは、その首飾くびかざりの石によって、通常では考えられない速度で魔法をおぼえていった。ちがうか?」


「あ、ああ!そうだ!」


「なら、簡単に元通りにはならない。万物ばんぶつには全て、地道じみちな法則があり、一足飛いっそくとびができないようになっている。その法則を無視した反動は大きい。貴様きさまの意志とは関係なくな」


 ソルシャインは腕を組んで立ちながら、アルの姿を見つめていた。


「力を再び手にするために、通常、考えられる方法は二つだ。一つはその首飾くびかざりの石を、ゲルニスから取りもどす事。だが、そのためには強い力が必要だ。皮肉ひにくな事だな」


「……」


「もう一つは、瞑想めいそうを中心に、一から魔法をおぼえ直す事。しかし、一度力を失った状態から再び習得する事は、通常の修行よりもはるかに難しい。やまいや事故により失った記憶を、取りもどす事が困難こんなんなように」


「そんな……そんなに難しいのか?」


「ああ。さいのある人間であっても、容易よういな事ではない。そして貴様きさまは、特別な才能のない、凡人ぼんじんだ。指先から水が出るようになれば、充分じゅうぶんだろう。いてくなるまでにな」











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