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フィーネ・クリスタル  作者: 青空ミナト


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212/215

真実を知る者


「うわ!すげえ広さ!」


「地下とは思えんのう!こっちのほうが広いではないか」


「フハハッ!おどろいただろう!山をけずって作った、私のにわだ!」


 うれしそうに笑うソルシャインを先頭にして、アル達は地下に作られた広い空間を進んでいた。灰色の岩肌いわはだかこまれるようにして、作物さくもつを植えつけた畑が奥へと続いていた。高い天井てんじょうには無数の光の玉が浮かび、白い光が辺りを照らしていた。


「おどろいた……水を引いて、循環じゅんかんさせているのか」


「それにあたたかい。上の光が、熱も発しているようだ」


 ルーナとレシオンは、岩で作られた道を進みながら辺りを見回していた。横に広がる畑には、うねのくぼみに長いチューブが置かれ、それぞれのチューブの先には、岩をけずって作られた用水路が流れていた。透明な水の流れに、高く浮かぶ光の玉が反射し、ゆるやかな水流が心地ここちのよい音を作り出していた。

 土の上には種類の異なる野菜が、うねに沿うようにして規則正しく植え付けられていた。その規模きぼは、大きな村の畑と比べても遜色そんしょくがなく、全てを手入れにするにはかなりの時間がかかりそうであった。


「熱と水は、魔法によって管理されている。一度流れを作ってしまえば、それほどこまる事はなかった。やはり、土だ!こいつが難しい!窒素ちっそやリン酸の比率、雑草対策と土壌殺菌、作物さくもつごとの穂肥ほごえの時期……やり始めると終わりがない!」


「畑は、土作つちづくりで決まるとも言うからのう」


「ああ!そこに明確な答えはない!自然と人間のりなす、究極きゅうきょくの学問といえるだろう!農家というものは、実に見事みごとだ!」


「しかし、よく一人でできるよなあ。収穫しゅうかくとか、自分でやってるんだろ?」 


「そうだ。土からり起こす時の喜びは、なかなかくせになる!」


 ソルシャインは笑顔を浮かべながら前を指差した。広い畑の奥に、水をためた池のようなものが見えていた。ややにごった水がためられ、長方形のぼりのような形をしていたが、そのはばと奥行きは、標準的な家が数軒すうけんはおさまってしまいそうなほど大きかった。


「ここから先は養殖のエリアだ!おおまかに区切りを作り、数種類の魚が泳いでいる!」


「でっか~!これ、全部なのか?」


「これだけ広いと、つかまえるのが大変そうじゃな」


「ストレスなく泳ぐとなると、やはりこれくらいの広さは必要だ。エサの調合がなかなか難しく、小魚こざかなを中心としたものから、植物由来のものへと変えられないか、試行錯誤しこうさくごしているところだ!」


「ピシャッ!」


 大きな水面のはしから、魚のねる音が響いてきた。


「最近は菜食料理と発酵酒はっこうしゅにのめり込んでしまい、魚を食べる頻度ひんどは減ってきたがな!その分、魚達もゆったりとした暮らしができるだろう!天敵てんてきもいないからな!フハハッ!」


「畑に魚に、これだけの規模きぼを管理するとなると、相当そうとうな労力がかかりそうですね」


 レシオンは青い髪をらしながら、ソルシャインの後ろを歩いていた。水のためられた空間が終わり、岩の壁にはさまれた一本道へと景色が変わっていった。


「そういう事だ。一日の大半は、この地下空間で過ごしている。晴耕雨読せいこううどくとはよく言ったものだ!この楽しさに気づき始めると、他の事が頭から消えてしまう。異性、かね名誉めいよ……よくたすのもいいが、それらはとてもはかない!若い時におちいりやすいわなだ!」


「なんか、じいさんみたいなやつだな……あ、見た目が若いだけで、じいさんだったか」


「ほう。良いたるじゃな。もしや、あそこに酒が?」


 ロンは白いひげを右手でさわりながら、格子戸こうしどの奥を見つめていた。壁の中に作られた部屋に、たくさんのたると木箱が置いてあった。


「ああ!醸造じょうぞうして、保管してある。時間がつほど楽しみが増すとは、本当によくできている。酒を発明した人間こそ、しん賢者けんじゃだ!フハハッ!」


よくたすのは、わなとか言ってたくせに……だいたいこんなに歩いて、何があるんだよ?」


「フッ!いちいち失礼なやつだ!だまってついてこい!」


 ソルシャインは自信に満ちた顔で振り返ると、すぐに前を向き、歩く速度を速めた。灰色の壁にかこまれた通路の先に、開けた広い空間が見えていた。 


「これって……石碑せきひってやつか?」


 円形の床の上で、アルは口を開けながら立ち止まった。円の形をした部屋の中には、灰色の壁に沿うようにして、無数の石碑せきひが並べられていた。文字のきざまれた石を、天井てんじょうに浮かぶ光の玉が照らし、湾曲わんきょくした壁には様々な動物の壁画が描かれていた。


「レシオン。これは…!」


「ああ。花のみやこ、アクリティア壊滅かいめつの日に落ちた光……まさか、古代都市の歴史か?」


「こんなものが……」


 ルーナはレシオンの隣に立ち、腕を組みながら石碑せきひを見つめていた。


「そうだ。ここには、私が集めた古代の石碑せきひが保管されている。封印の魔石ませきについてもな。一つずつ読んでもかまわないが、いい機会だ。ひさしぶりに見せてやろう」


 ソルシャインは部屋の中央に立ち、右手の指を軽く鳴らした。


「キイイン!」


「うわ、なんだ?」


 白い光が辺りをつつみ込み、アル達の視界をうばっていった。激しい閃光せんこうの中で、アル達はうつむきながら目を閉じた。


「う……あれ?」


「これは!」


 ルーナはこぶしにぎりながら下を見つめた。石の床が消え、白い星々の浮かぶ宇宙空間が、辺りに広がっていた。神秘的な宇宙の光景が周囲に広がり、小さな星々が、ソルシャインを中心にしてゆっくりと外に動いていた。アル達の体はいつのまにかちゅうに浮かび、下へと向いたつま先のそばを、巨大な彗星すいせいが過ぎっていった。


「どういう事じゃ?さっきまで部屋にいたはずが……」


「魔法によって作り出した仮想空間だ!質量のない幻影のようなものだが、このほうが説明しやすい」


 ソルシャインは右手を上へと伸ばした。まっすぐに伸びた指先の上で、体よりも大きな黒い本が浮かんでいた。てのない宇宙の中で指を曲げると、分厚ぶあつい本のページがゆっくりと開いていった。両開きになったページには、どうの長い黒い龍と、剣を持った黒髪の青年の姿が描かれていた。


「これは……まさか、勇者ギルヴェリアの旅か?」


「その通り!レシオン以外は知らぬだろうが、これはゲルニスに古くから伝わる絵本だ。魔法を使う勇者ギルヴェリアが、凶暴なザルギナをたおし、世界をすくう物語だ」


「あれは……あの龍!おれ、見た事あるぞ!」


「ああ。あの長い体、頭の上で光る白い円盤えんばん……ヘウルーダを襲った、化け物なのか?」


「この龍の名はザルナカルラ。古代に存在したとされる怪物かいぶつで、その圧倒的な力で世界をほろぼそうとした。ギルヴェリアにたおされるまでは」


 本のページがいくつもめくられ、地面にたおれる龍の姿が登場した。剣を持った青年は、上半身にだけ銀色のよろいにつけ、りりしい表情で龍を見つめていた。漆黒しっこく胴体どうたいの上では、白いからつつまれた数個のタマゴが、を作るようにちゅうに浮かんでいた。


「勇者ギルヴェリアによってザルナカルラはたおされたが、死にぎわに見せた咆哮ほうこうにより、そのタマゴは世界へとらばっていった。ギルヴェリアは、怪物かいぶつの残したタマゴを探すため、再び旅に出る。世界の平和を守るために。それが、この絵本の結末だ」


 ソルシャインの上に浮かんでいた本が消え、大きなタマゴが現れた。白いからが少しずつ変色し、灰色へと変わっていった。


「だがそれは、ただの絵本ではなかった。歴史の一部を伝えるため、真実にもとづいた内容から作られていた。ザルナカルラは古代に実在し、そのタマゴもまた、長い時の中で眠りについていた。ゲルニスの地下深くで」


「地下?まさか……」


 ルーナはちゅうに浮かぶタマゴをじっと見つめていた。灰色のから先端せんたんに、小さなひびが入っていった。タマゴに入ったひびはたてに広がり、白い光と共にくだけ散った。


てしない時の中で化石かせきになりかけていたタマゴを、百年前、ゲルニスの研究者達が発見した。彼等かれらは時の皇帝こうていめいにより、その細胞を魔法により増殖ぞうしょくし、現代に復活させようとこころみた」


 ソルシャインの頭上で、トカゲのような形をした生き物がもぞもぞと動いていた。


「禁断の研究は極秘ごくひに引きがれ、百年の時を超え、ついに成功した。街を焼き払い、人々の命を消しる最強のザルギナとして、現代に復活をたした。それが、ヘウルーダを襲った怪物かいぶつだ」


「なんと…!どうりで強すぎるわけじゃ」


「……そして、その怪物かいぶつは、完全に消滅しょうめつしたわけではなかった」


 レシオンはこぶしにぎりながら、静かにつぶやいた。


「なに?どう言う事じゃ?」


「歴史とは、かなう事のない人の願いでもある。人々に不安をもたらす真実は、時として希望に満ちたうそへとすげえられる……勇者ギルヴェリアの力を持ってしても、やつをたおす事はできなかった。国同士の争いに勝利するため、あらゆる魔法によって強化された究極きゅうきょくのザルギナ、それがザルナカルラだ」


 ソルシャインは腕を組みながら前を見つめていた。水色の髪が、横向きに小さくれ動いていた。


「その力は、ヘウルーダを襲った複製体ふくせいたいとは比べものにならない。空を飛び、地を焼き、高度な魔法文明のほとんどを焼きくした。そして、ほろびゆく世界の中で、古代の賢人達はある秘策ひさくを思いついた。世界にあふれる魔法の力ごと、ザルナカルラを封印するという方法を」


「やはり、そうだったのか……」


 レシオンはうつむきながら静かに息をいた。星々の浮かぶ空間はゆっくりと広がり続け、ソルシャインの頭の上に、五つの白い光の玉が浮かび上がった。


「自然魔法にもとづいた五つの分類に力を振り分け、根源的な魔法の力を封印する事で、ザルナカルラの活動を停止させようとした。賢人達のこころみは成功し、ザルナカルラは地の底へと封印された。魔法の力を封じた五つの魔石ませき、フィーネ・クリスタルは、その封印を簡単にはけぬよう、世界中に散らばった」


「じゃあ、おれ達が今まで、遺跡で見てきた石は……」


「かつて古代に作られた、封印の魔石ませきだ。風はラフィーナ、火はダイダル、水はシラメリア、大地はラウ、そして、雷はゲルニス。それぞれの石は、世界の各地に封印された」


 ソルシャインの上に浮かんでいた光の玉が、緑・赤・青・黄・紫の色へと、それぞれ変化していった。


「魔法の力と共に。根源的な力を封印された事により、人々の生活から魔法は失われていった。栄華えいがきわめた古代都市は衰退すいたいし、魔法の技術は、一部の遺跡や限られた民族の間の中でだけ受けがれていった。ラフィーナにかくされたへムル遺跡や、海の彼方かなたで暮らすシラメリアのたみのように」


「でも……じゃあ、なんであのかがみが必要なんだ?それにけんも!レシオンが言ってた!」


「ザルナカルラの力は、作り出した研究者達ですらどうにもできないほど、すさまじいものだった。その封印には成功したものの、魔石ませきの効力も永遠ではなく、八千年という長い時の流れによって、封印が弱まる事がわかっていた」


「そうか!それで古代の国々に…!」


 ルーナはけわしい表情でソルシャインを見つめていた。


てしない時の終わりも、いつか必ずやってくる。先を見通す事にけた賢人達は、ザルナカルラの封印に保険をかけた。魔石ませきの封印とは別に、魔法の力をめた三つの神器じんぎを作り出し、力をき放つための宝具ほうぐとして分散させた。ラウリヌスのかがみ、ゲーニッシュのつるぎ、そして……」


 ソルシャインはアルの顔を見つめながら、目を細めた。











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