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フィーネ・クリスタル  作者: 青空ミナト


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210/215

賢者の山


「く~!さすがに寒いのお!」


「ええ!こたえますね!」


「まだ雪は少ないが、突然降り出すかもしれない。少し急ごう!もう少しの辛抱しんぼうだ」


 レシオン達は冷気がただよう向かい風の中を、一列になって歩いていた。青い髪をらして歩くレシオンを先頭に、ルーナとロンが続き、一番後ろではアルとシロルが並びながら歩いていた。左右に立ち並ぶ木々の上にはうっすらと雪が降り積もり、茶色い地面が白く変わり始めていた。


「キュウ…」


「ほら、しっかり歩けって!ったく、体はでかくなったのに、あんまり変わらないな……」


 アルは分厚ぶあついマントで体をおおいながら、シロルの背中に手をあてた。うろこのついた大きな体は寒さでちぢこまり、白いつばさが力なくたたまれていた。


「レシオンよ、あったかくする魔法でも使えんのか?指先がこおりそうじゃわい」


「わるいが、そこまで器用ではなくてな!これくらいなら動かなくなる事はないから、えてくれ!いい鍛錬たんれんになる!」


「ホッ!言うのう!なら、がんばるとするか!」


「ロンさん、あれじゃないですか?家が!」


 ルーナは右腕で顔の前を守りながら、前を向いた。小さな雪の粒が舞う中、道の奥に茶色い家が見えていた。


「お、あれだ!よし、急ごう!」


「ようやく到着か。あったかい茶でも飲めるとよいがのう」


「あ、こら、止まるなって!こんなところで寝たら死んじまうぞ?」


「キュウン…」


 二本の足で立ちながらうずくまるシロルの背中を、アルが後ろから押していた。空からる雪が少しずつ強くなり、白い雪の粒が、かかとの上まで積もり始めていた。







「ボウッ…」


 大きな暖炉だんろの中で炎がゆらめき、かわいたまきが音を立てて燃えていた。茶色い木で作られた部屋は暖かい空気につつまれ、天井に下げられた黄色いランプが、おだやかな光を放っていた。


「ふうっ……あったまるぜ」


「シロルは間一髪かんいっぱつじゃったな。牧舎ぼくしゃがあって助かったわい」


「ザルギナも個体によっては、寒さに弱いようだな!おれも勉強になったよ!ハッハッハ!」


「レシオンが道をまちがえるからだろ?シロルのやつ、氷みたいに冷たくなってたぞ」


 アル達は背もたれのついたイスに座りながらテーブルをかこみ、白いコップに入ったお茶を飲んでいた。赤茶色の表面からは湯気ゆげが立ちのぼり、お茶の熱が、取っ手の先にまで伝わってきた。


「いや、わるいわるい!ルーナが気づいてくれてよかったよ!あやうく遭難そうなんする所だった!ハッハッハ!」


「まったく、みょうに雪が増えてきたから変だとは思ったが……まあ、おいしいお茶をいただけたからゆるしてやろう」


 ルーナは満足まんぞくげに微笑ほほえみながら、白いコップを口へと近づけた。ツインテールの茶色い髪には、先の部分に細かな雪の粒がついていた。


「この調子じゃと、山のほうはもっとっておるかもしれんのう」


すでにこれだもんなあ。レシオン、さっきの山なんだろ?」


「ああ、そのはずだ。入り口は決まっていたはずだが……」


「ええ。村の先にございます」


 黒いひげを生やした男性が、部屋の奥からゆっくりと歩いてきた。厚手あつでのセーターをにつけ、背中まで伸びた髪を一つにたばねていた。


「しかし、おどろきました。まさかレシオン皇子おうじがおしのびでこられるとは」


「無理を言ってすみませんね。どうしても来たかったもので。やはり、難しそうですか?」


「ええ。申し訳ありませんが、たとえ皇族こうぞくかたといえども、案内できない決まりでして。今年の謁見えっけんの時期も終わりましたので、あまり気は進みませんが、ためしの見行けんぎょうを受けていただくしかありません」


ためしの見行けんぎょう?それはいったい……」


 ルーナはテーブルの上にコップを置き、男性の顔を見つめた。


大賢者だいけんじゃに会うために、旅人が行う儀式のようなものです。山のふもとで名前と目的をげ、それが邪心じゃしんや偽りのないものであると判断された時には、山に入る事ができるのです」


「判断?それは、だれがするんですか?」


「山の中に住む、大賢者だいけんじゃです。方法はわかりませんが、どうやらそれが可能らしいもので」


「まるで神様じゃのう。遠くから心でも読めるのか?」


「どうだろうな。邪心じゃしんや偽りのない目的、か……確か、命を落とした人もいたんでしたね?」


「はい。過去には聖職者のふりをした盗賊が、入り口で雷に打たれた事がありました。追いかけてきた兵のかたも、おどろかれていましたよ。それこそ魔法でもない限り、ありない事だと……」


 男性はテーブルのそばに立ちながら、静かに息をいた。


「なかなか危険な儀式のようじゃな。思わず、よこしまな事を考えてしまいそうじゃわい」


「それはロンさんだけだと思いますが……しかし、うそが通じないのは怖いですね」


「よし、ためしの見行けんぎょうは、おれが受けよう。みんなは少し後ろで見ていてくれ」


「いいのか?何かあったら、レシオンだけ攻撃されるんだろ?その、雷とかで」


「仮にそうなっても、なんとか致命傷ちめいしょうふせぐ事はできるさ。それに私利私欲しりしよくでやって来たわけではないからな。ここに来た目的を、つつかくさず伝えてみよう」


「ええ、それがよいかと思います。数は少ないですが、大賢者だいけんじゃゆるされ、山に入る事ができた人間もおりますので。へん皇族こうぞくのお力を利用されようとするよりも、そのほうが良いでしょう」


 男性はうなずきながら窓の外に目を向けた。白い雪が地面へとり、足首くらいの深さにまで積もっていた。


「少し弱くなってきたか……この調子なら、夜には止むと思います。明日の朝近くまでご案内しますので、今日はゆっくりと休んでいって下さい。小さな村でして、あまり豪華ごうかなおもてなしはできませんが」


「いえ、めてもらえるだけでありがたい!雪の中の野宿のじゅくはこたえますからね!皇子おうじだからと、特別な対応はしなくていいですよ。なんて言ったら、余計よけいにプレッシャーになってしまうか!ハッハッハ!」


 レシオンは右手で頭をかきながら、大きな声で笑った。暖炉だんろから伝わる心地ここちの良い熱気が、部屋の中をゆっくりと温めていた。







「サーッ…」


 下から吹き上げるように吹く風が、地面の雪を空中へと運んでいった。さらさらとした雪が風に乗り、レシオンの目の前を通りながら、空へとのぼり続けていた。


「ふう……」


 レシオンは二本の木のはしらの間に立ち、うつむきながら静かに息をいた。灰色のマントが体をおおい、長く伸びた青い髪は、ゴムでまとめた先が背中にくっついていた。太い毛先がツンツンと上に逆立さかだち、ひたい両端りょうはしから左右にかぶさるように、長い髪が首元の辺りまで伸びていた。


「なんだかわしのほうが緊張してきたわい。ほんとにだいじょうぶじゃろうか」


「レシオンほどの腕なら、何かあっても回避はできるでしょうが……賢者けんじゃと言われるだけに、少し心配しんぱいですね」


「せめてザラが感じれたら……ルーナ、ほんとに何もわからないのか?」


「ああ。おそらくシラメリアの時のように、何か遮断しゃだんする結界けっかいのようなものがあるな。まったくザラを感じない」


 レシオンから少し距離を取るように、アル達三人は横並びになりながら、雪の上に立っていた。村の奥にある山の入り口には、アル達の他に人の姿はなく、二本の木の柱の奥になだらかな山道が広がっていた。


「……よし!」


「お、いよいよ言うようじゃな」


「しっ!ロンさん、静かに!」


「山の中にまう、大賢者だいけんじゃソルシャイン殿どのよ!私の名はレシオン!ゲルニス帝国の皇子おうじにして、国のため、自らの意志で旅をする者である!」


 レシオンは顔を上げ、大きな声を発した。こぶしにぎりしめ、真剣な表情で白い山を見つめていた。


「今、我が国は、侵略を望む皇帝こうていの意志により周辺の国々へと戦火が広がり、たみの暮らしが犠牲ぎせいになっている!我が父ジオルサは、魔法の力を封印した五つの魔石ませきの封印をき、聖剣ゲーニッシュのつるぎをその手におさめる事で、古代に失われた魔法の力の全てを、自らのものにしようとたくらんでいる!私は、そのゆがんだ野望を止めたいと考えている!」


 大気たいきつたうように広がるレシオンの低い声が、冷たい山のふもとに響いていた。


「また、ここにいる、アル、ロン、ルーナは、皆ギル国の者である!皇帝こうていの野望に大切な仲間を巻き込まれ、ゲルニスへとられてしまい、その救出のために私と行動を共にしている!大賢者だいけんじゃソルシャインよ!ゲルニスの国の未来のため、ここにいる者達の純粋じゅんすいな願いのために、あなたの知識を貸していただきたい!」


 空へと声を発するレシオンの姿を、アル達は固唾かたずんで見守っていた。


「そして、この山に立ち入る無礼ぶれいを、どうかゆるしていただきたい!大賢者だいけんじゃソルシャインよ!我が願い、聞き入れて下さるのなら、そのご意思を今、ここに!」


 レシオンは口を閉じ、山の頂上をじっと見つめていた。生き物の声は何も聞こえず、とがった山の先端せんたんから吹く風の音が、レシオンの周りに小さく響いていた。







「ザッ。ザッ」


 雪のり積もる山道を、アル達は一列になりながら進んでいた。先頭はレシオンが歩き、後ろにぴったりとくっつくように、ルーナとアルとロンが縦になって並んでいた。


「おどろくほど何も起きんのう。変わった事といえば、雪が少し多くなってきたくらいか」


「ああ、足もとには気をつけてくれ。小さな山だが、上のほうはり積もっているかもしれない。たまに体がまる事もあるからな。ふもとからの景色から見て、もう少しで着くはずだ」


賢者けんじゃか……許可はもらえたという事だろうが、やはり直接会うまでは気がけないな」


 ルーナは小柄こがらな体を素早すばやく動かしながら、レシオンに離されないよう、後ろを追いかけていた。


「ほんとに見てたのか?なんか、あやしいよなあ」


「ただの迷信めいしんだと?」


「ルーナはそう思わないのか?何も起きなければ許可が出たって言うけど、ただ見てなかっただけのような気がするぜ」


「まあ、どうとでも言えるかもしれんのう」


「フフッ。だとしたら、おれの緊張を返してほしいね。ただ、山に入ってから、明らかにザラを感じるようなった。山のいたる所から」

 

 レシオンは後ろを振り返りながら、辺りを注意深く見回していた。


「ああ。少し不気味ぶきみな感じだ。大きくはなく動きもないが、数が多い」


「だれかがひそんでおるという事か?」


「そこまではわからないが、注意はしておいたほうがいいだろう。よし、あれだ!」


「あれは……家?」


 雪道をみしめながら、アルは目を細めた。傾斜けいしゃのついた道の奥に、三角の屋根がついた、茶色い建物が見えていた。アル達は辺りを見回しながら坂を上りきり、白い雪の中にたたずむ建物の前で足を止めた。


「ほう!なかなかおもむきのある家じゃな!」


「ログハウスか。特に変わったところはないが……」


 ルーナは腕を組みながら前を見つめていた。丸太まるたによって作られた家は、縦に伸びた三角の屋根によって雪がたまりにくくなるつくりをしており、屋根からすべり落ちた雪が両端に積もっていた。入り口のドアは、地面から少し高さのある位置に作られ、広いデッキから伸びる階段がアル達のいる地面へと続いていた。


「ここ、って事だよな?」

 

「うむ、窓の奥からあかりが見えるのう」


「よし、まずはおれが入ろう」


 レシオンは薄い雪が積もった階段を登ると、背筋を伸ばしながら、右手で木のドアをたたいた。


「すみません!」


「ドサッ!」


 屋根の上から、白い雪のかたまりが横へとすべり落ちた。レシオンは分厚ぶあついドアを何度もたたきながら声を発したが、ドアの奥から返事はなく、冷たい風の音だけが辺りに響いていた。


「なんにも起きないな」


「さすがに気づきそうなものだが、どこかに出ておるのじゃろうか?」


「レシオン、どうする?」


「このままではどうにもならないな。無礼ぶれいは承知で、入ってみよう」


 レシオンはドアをゆっくりと開くと、家の中へ足をみ入れた。広い部屋の中は茶色い壁にかこまれ、黄色いランプが天井てんじょうからいくつもつり下げられていた。丸太まるたによって作られた壁は隙間すきまがなく、部屋の奥には、レンガつくりの暖炉だんろが備え付けられていた。


「パチチ…」


 暖炉だんろの中ではかわいたまきがゆっくりと燃え、黄色い炎と共に、部屋の中へ暖かい空気を送り出していた。真ん中の辺りには長方形の絨毯じゅうたんがしかれ、こげ茶色の布地を、おだやかなランプの光が照らしていた。


「なかなか広い部屋のようだ。木の材質も、そんなに古くはないな」


「うむ。人はいないようじゃが、それにしてもこのにおいは……」


「ロンさん、あれです」


 ルーナはロンの隣に立ちながら、顔を左へと向けた。 











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