【前世】第24章2話 暗銀 拒絶
同時に――
《ヴィオレット・ヴェイル》
多重魔術障壁が
展開される
空間が紫に染まった
ユジャとカイザーの周囲だけ
空気の法則が変わる
カイザーが地を蹴った
赤鬼の百二十の力を乗せたこん棒が
空気を爆ぜさせながら
ジンの頭上へ振り下ろされる
最強の防御魔法
紫
最強の一撃
赤
二つの色が交差する
その中心で――
……スッ
《月影》
銀の影が消えた
世界と世界の狭間へ
ジンの存在が沈む
身体が影みたいに
こん棒をすり抜けた
ユジャの障壁さえ
煙みたいに抜ける
暗銀の剣士は
その交差の瞬間に
一度だけ
剣を水平に薙いだ
――ザシュッ
ただ一音
紫の壁が
ガラス細工みたいに砕ける
カイザーの胸から
鮮血が噴き出した
ラヴィの笑顔が
一瞬だけ浮かぶ
「……ラヴィ」
「約束……
守れなかったな……」
カイザーの声が沈んだ
赤光が
静かに消える
ユジャは
カイザーを見ていた
だから
気づかなかった
いつ斬られたのか
――パキ……
紫の障壁が
胸の奥から割れる
ユジャが
静かに笑った
「……そう」
一拍
「私まで
斬れていたのね」
紫の瞳が
わずかに細まる
指先が胸へ触れる
温かい
(ああ……本当に……)
ふわりと息を吐く
「酷い幕引きね」
紫の瞳から
光が零れ落ちた
紫光が砕ける
紫と赤が
同時に崩れ落ちた
生命の気配は
もう残っていない
暗銀の剣を握る手が
わずかに震える
「……違う」
声は
ほとんど冷気だった
拒絶
暗銀の剣を握る指が
わずかに震える
まだ
ジンは
奥で抗っていた
一拍
闇の底から
古い声が浮かぶ
――いずれ必ず
こちらへ来る
ジャンの声だった
銀の瞳が
最後に揺れる
違う
違うだろ
俺は――
二度目の拒絶は
声にならない
黒煙が
その思考ごと呑み込んだ
瞳は完全に
闇へ沈んだ
――暗銀の剣士ジンは
口笛を吹く
――ヒュウゥゥゥ……
黒い空を裂き
巨大な黒のワイバーンが降りた
ジンは無言で乗る
光が消える
森が燃える
大地が泣く
ゾフの声が
外部層から落ちてきた
「最期だ……」
暗金の瞳が
微動だにせず
世界の崩壊を眺める
「銀の死神よ
……次は
イヴを墜とせ」
沈黙
そして――
「終わらせろ」
その短さだけで
世界が冷えた
ジンは答えない
答えられない




