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【現世】第23章2話 紫 記録

最初に口を開いたのは

茉莉奈だった


「……私」


蒼の呼吸が落ちる


「前に

一花さんから

少し質問されていたんです」


指先が

胸元の蒼石へ触れる


「ヴィオのことを……」


その瞬間


空気が

少し冷えた


一花は

静かに頷く


「はい」


低い声


やわらかい


けれど

逃げ道は作らない


「今日は

その続きを話します」


翔が

椅子へ深く座り直した


「準備なら

とっくにできてる」


皆を見回す


翠の重さが落ちる


「……いいぜ」


オーガは

何も言わないまま

拳を固く握りしめる


赤はまだ

言葉より先に

熱を抱えていた


夕羅は

頬杖をついたまま

静かに一花を見る


ヴィオだけが

窓の外を見ていた


何を考えているのか

誰にもわからない


だが

不思議と

迷っているようには見えなかった


一花が

ゆっくり指を立てる


「まず

確認させてください」


その声で

場の温度が変わった


「皆さんは

あの体験をした時」


一花の視線が

ヴィオへ向く


「ただの作り物だと

思えましたか」


ヴィオは

答えなかった


答えないことが

答えだった


茉莉奈の指先が

蒼石へ触れる


翔は

椅子の背を握る


夕羅は

笑っているのに

目だけが動かない


オーガの拳には

力が入っていた


一花は

静かに続ける


「あれは

誰かが作った映像ではありません」


氷が

小さく鳴った


「記録です」


その一言で

店の空気が沈む


「皆さん自身が

かつて生きた場所の」


誰も

すぐには息を吐けなかった


知っている


でも

まだ思い出しきれていない


そんな感覚だけが残る

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