【前世】第22章2話 蒼 家族
目が覚めた――
最初に感じたのは
柔らかな布団の感触
それから――
懐かしい香り
白い天井
石造りの部屋
王城の客間だった
マリアが
椅子へ座り
湯気の立つ椀を
そっと差し出している
「安心しました……」
やわらかい声
張っていたものが
少しだけ緩む
「三日間
眠っていました……」
静かな呼吸
「傷と疲労……
それに
心の疲れね」
レイラは
ゆっくり身体を起こす
まだ重い
けれど
寒くはない
「……助けてくれて
ありがとうございます」
マリアは
静かに首を振った
「お礼はいらないわ」
一拍
「あなたが無事――
それが一番」
微笑みは薄い
だが
真っ直ぐだった
スープを一口飲む
温かさが喉を通り
胸の奥へ染みていく
違う味なのに
胸の奥が
懐かしく熱い
それが
余計にこたえた
堪えていたものが
決壊する
「……私はレイラ」
声が小さく震える
「もう……
ひとりなの」
マリアは
静かに息を整えた
真っ直ぐ
レイラを見る
逃げない目だった
「レイラ――」
蒼の声が落ちる
「聞いてほしいことがあるの」
丁寧に
言葉を置く
祈るみたいに
傷へ触れない距離で
「――私はマリア」
静かな間
「私と王子のヴィヴィは……」
少しだけ呼吸を整える
「来週――結婚します」
「え……!」
驚きで
耳が跳ねた
マリアは続ける
「ヴィヴィは……
王子から王に」
微笑みは静かだった
「……私は
隣へ立ちます」
だが
その目は
肩書きへ酔っていない
「新しい名前になっても」
蒼の声は
どこまでも柔らかい
「私は
変わらない」
静かな居場所が
そこにあった
「そしてこの三日間――」
蒼の視線が
揺れずに届く
「シューから話を聞き
ラヴィット族について調べました」
レイラの呼吸が止まる
「あなたの戦い」
「――あなたの想い」
「――それら全てを知った上で
伝えます」
言葉が
ゆっくり落ちた
「私は――」
マリアの声が
ほんの少しだけ
柔らかくなる
「あなたを
家族として迎えたい」
レイラは
椀を握りしめた
指が熱い
「でも……私……」
涙が滲む
「……何も
お返しできません」
言葉が詰まる
息が続かない
「……私
もうボロボロなのに……
本当に
いいんですか……?」
答えが
怖かった




