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【前世】第22章1話 白 居場所

――白の子よ……

どうか生きてくれ


彼女の想いを胸に……


カイザーの声だけが

レイラの歩みを

前へ押し出していた


ラヴィット族の谷を離れて

三日目だった


戦いは終わった


だが――


心の奥では

まだ終わっていない


歩くたび

静かな痛みが揺れる


胸の底で

沈む音がした


ゴ……


ゴゴゴ……


風が草を撫でるたび

あの日の笑い声が

薄く蘇る気がする


足音は

淡く散り


白い耳は

垂れたまま


機関銃が重い


心は

もっと重い


(ほんとに……


私だけになっちゃったんだ……)


薬膳の匂い


子どもの笑い


ラヴィの

少し照れた微笑み


全部が――

戻らない


振り返っても

もう誰もいない


呼んでも

返ってこない


生きているのは

自分だけだと


歩くたびに

思い知らされる


白い耳が

小さく震えた


涙は

もう出ない


泣きすぎた後は


胸だけが

静かに痛い


視線を落とした瞬間――


――ズルルッ


森の奥で

黒い膜が裂けた


気配が

ひと筋揺れる


ダーク星の魔物


次元の層を潜り抜け

隙間から滲む闇


影が跳ねる


殺気が

薄い膜みたいに漂っていた


レイラの耳が

ピン……と立つ


(来た――)


肌の下が震えた


怖い


だが――

止まれない


「……来るなら来なよ」


声は掠れている


だが

目は鋭い


ラヴィから受け継いだもの


あの背中の熱


引き金へ添えられた

指の重み


戦う覚悟だけは

身体が覚えていた


「私は止まらない」


喉が震える


「ラヴィが……


みんながくれた命を

ムダにしない」


――ドドッ!!


火線が

闇を裂いた


黒残滓が

霧になって溶ける


二体


三体


孤独な戦いが

細く光る


(よし……


終わった)


そう思った瞬間――


背後


ズズ……ッ


死角から

巨大な影が立ち上がった


爪の軌道だけが

異様に鮮明だった


(……間に合わない!)


足が止まる


疲れか


それとも――


胸の奥のどこかが

もう

ひとりを拒んでいたのか


閉じる目


迫る死を

受け入れかけた


その瞬間


光が割り込んだ


「……この子は

もう十分に耐えました」


蒼の巫女の声が

森の空気を変える


「これ以上は

私が許しません」


蒼い光が

地面から湧き上がった


優しい


だが

逃げ場がない


守るための蒼だった


光は

包み込むように広がる


傷へ触れるみたいに


壊れかけた心へ

布をかけるみたいに


「大丈夫です……」


祈るような声だった


「もう

ひとりではありません……」


その一言だけで

胸の奥の何かが

崩れそうになる


同時に


紫の光が

魔物へ突き刺さる


一撃で

急所だけを穿つ色


魔物は崩れ

黒煙となった


残ったのは


静かな森と

三人の息づかいだけ


レイラは振り返る


蒼の巫女


紫の魔女


荒れた森の中で揺れる

二つの光が

不思議な安らぎを放っていた


(……助かった)


その実感が

身体へ遅れて落ちる


(私……


ひとりじゃない)


張りつめていた糸が

ぷつん……と切れた


膝が落ちる


視界が遠のく


最後に見えたのは


駆け寄る巫女の

蒼光の柔らかな揺れだった

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