【前世】第20章3話 白 涙
その瞬間
世界が遠ざかった
音も
光も
匂いも
全部
白く溶ける
――ビキィィィン……ッ!!
足元へ
白い紋様が走った
七重の光輪が
脈打って立ち上がる
――ボオォォォォン……
谷が共鳴する
レイラの涙が落ちるたび
白は
一段ずつ
強く跳ね上がった
ラヴィ……
ラヴィ……
返して!
祈りでも
怒りでもない叫び
その未完成な感情が
白を押し上げる
白が
影を押し返した
ヒューガが
初めて息を呑む
「……ほう」
低い声
「……白が
本性を覗かせたか」
間
「……だが――未完成だ」
――ヴゥゥゥゥ……
青膜が再び唸る
ヒューガが
音圧を圧縮した
――ゴゴゴゴゴ……
――ピィ……ピピピ……
谷全体が
巨大な共鳴装置へ
変えられていく
――ズバアァァン!!
青の奔流が渦を巻いた
白が
押し潰されかける
一瞬
空間が青い霧へ包まれた
――ウォォォォン……
ヒューガが迫る
「さあ……」
青黒い瞳が
白を覗き込む
「……次は
白の子ウサギ」
一歩近づく
「お前だ」
ヒューガの指先が
音を裂く――瞬間
――ゴッ!!
音が砕けた
こん棒が
ヒューガの横顔へ
叩き込まれる
――ドガァッ!!
青い音階が砕け散る
こん棒は
大きく弧を描き――
ガシッ
カイザーの手へ戻った
ヒューガが振り返る
夕日に立つ
赤い影
カイザーだった
(間に合わなかった……)
その事実だけが
胸の奥で燃えている
「来たか……カイザー」
ヒューガが笑う
口元から
青黒い血が垂れていた
「……遅かったな」
カイザーは答えない
ただ――
ラヴィを見る
倒れたまま
動かない
その姿だけを見て
拳が
ミシ……と鳴った
空気が熱を持つ
赤い湯気みたいな闘気が
皮膚の外へ滲み始める




