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【前世】第20章4話 赤 残火

「その顔だ!」


ヒューガが笑う


「俺たちの盃は

無効だ」


青い音階が

周囲を巡る


「奪われた側の顔だ――」


低く嗤う


「……苦しいだろう?」


カイザーが

ゆっくり前へ出た


「ヒューガ――」


声が低い


沈んだ熱


「お前を終わらせる」


その一言で

地面が沈んだ


――ゴゴッ……


赤い圧が

谷へ広がる


ヒューガが両手を広げる


――キィィィィン!!


青い断裂線が

無数に走った


音の刃


空気を裂き

肉を断つ


だが――


カイザーは止まらない


肩が裂ける


頬が切れる


赤い血が散る


それでも

前へ出る


一歩

また一歩


音を受けながら

真正面から歩いてくる


ヒューガの目の前まで


赤い影が

ゆっくり迫る


近づくたび

青が乱れる


カイザーの目が

真っ直ぐヒューガを

射抜いた


ヒューガが

低く笑う


「お前に――

壊せるわけがない」


カイザーが踏み込む


音が

足首へ絡む


肩へ噛みつく


それでも

止まらない


こん棒が

静かに上がる


――ズガァァァン!!

――ドガァァァァン!!


低い


重い


赤の衝撃が

ヒューガの胸を貫いた


――間


世界から音が消える


――ビキビキビキィッ!!


青い五線譜が

砕け散った


ヒューガの身体へ

無数の亀裂が走る


「……ラヴィ」


歪んだ笑み


「やっと……

手に入れたのに」


勝ちの定義そのものが

狂っている


カイザーは

静かに立っている


答えない


問いかけも

哀れみも

持ち合わせてはいない


ヒューガの身体が

歪な青い五線譜を

撒き散らして崩れていく


最後に


憎しみとも

悲しみともつかない顔で


カイザーを見る


核心だけを突くように


そして――


静寂


青い五線譜が

音もなく霧散した


同時に

洗脳が解ける


ワイバーンと

青鬼たちが

谷へ戻っていく


その静けさの中で


レイラは

谷を見た


返事はない


誰の声も


もう

戻らない


涙が落ちる


未完成の白が

かすかに揺れた


カイザーは

頭を下げた


赤い影が

ゆっくり沈む


「許してくれ……」


声は低い


だが――


自分を責める音だった


「守れなかった」


一拍


「ラヴィの願いにも

……応えられなかった」


レイラは

泣きながら言う


「ラヴィは……」


呼吸が乱れる


「カイザーさんを

想っていたよ……」


涙が落ちる


「ずっと……!」


カイザーの肩が

わずかに揺れた


大きな手が

そっとレイラの頭へ触れる


赤と白の光が

静かに交わった


「白の子よ……」


夕焼けの熱が揺れる


「どうか生きてくれ」


一拍


「……その未完成な白を抱えて」


夕暮れの谷を

風が抜ける


砕けた青も

残った白も

沈まない赤も


まだ

そこにあった


だが――


戻らないものも

確かにある


谷の匂いは

もう朝と同じじゃない


それでも


生きている音だけは

まだ

谷へ残っていた

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