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【前世】第20章2話 橙 決意

谷が

静まり返る


その中心で――


ヒューガが姿を現した


周囲には

見えない五線譜が走っている


音が線になり

線が檻になる


「やっと来たな……ラヴィ」


低い音圧


「……今日こそ

お前を連れて帰る」


ラヴィの耳が

ぴくりと動く


「あたしは奪われない」


一拍


「あたしは――

自分で決める」


ヒューガの顔が歪んだ


「……ッ!!」


青黒い音が軋む


「決めるのは俺だ」


怒りじゃない


執着だった


ラヴィは

一瞬だけ目を伏せる


怖くないわけがない


死も

敗北も

失うことも


全部わかっている


それでも――


選んだのは

私だ


(カイザー……ごめんね)


心の中でだけ

名を呼ぶ


――ピィ……ピピピ……


ヒューガの指が動く


次の瞬間――


――キィィィィン!!


高周波の刃が

空間を裂いた


――パァンッ!!


ラヴィの銃声が空振る


ヒューガの姿が

残像を残して消えた


次の瞬間には

目の前にいた


「これで終わりだ……ラヴィ」


距離が消えている


「お前には

俺が必要なんだ」


――キィィィィン!!


青い手刀が

ラヴィの腹を貫いた


衝撃で

身体が弾き飛ばされる


地面を滑り


石を巻き込み


血が散った


転がった先へ

レイラが駆け寄る


「ラヴィッ!!」


ラヴィの呼吸は浅い


それでも

目だけは

まだ死んでいなかった


「泣くんじゃない」


息が掠れる


「――あなたは神の子」


一拍


「……あたしの分まで立って」


ラヴィの耳は

もう動かない


風だけが

黒い髪を揺らした


返事はない


もう

どれだけ呼んでも

返ってこない


レイラの目が

大きく開かれた


「いやぁぁぁッ!!」


涙が飛ぶ


「やだ……

ラヴィ……

置いていかないで……」

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