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【現世】第19章4話 赤 呼応

シーズン終了


夜のリビング

バニーが声を落とす


「……まだ迷っているの」


責めない


だが――

逃がさない


「怖いならそう言って」


一拍


「逃げる顔は

あなたらしくない」


オーガは

静かに息を吐く


ミットの傷をなぞり

指先が止まった


「……迷ってるんじゃない」


間


「……覚悟の形を

探してた」


沈黙


一度

深く息を吸う


そして

顔を上げた


「……ありがとう」


短く落ちる


「――決めたよ」


一拍


「日本だ」


胸の奥で

熱が鳴る


「レオンさんに恩返しだ」


さらに続ける


「――失敗しても

逃げない」


部屋へ

短い静寂が落ちた


決意だけが

まだ

そこに残っていた


バニーは

それを聞き届けてから


真っ直ぐ笑う


「よし!」


迷いがない


「――すぐ行動よ!」


指を折りながら言う


「ビザも!家も!言葉も!」


一拍


「全部

私が整える!」


その声は

やさしいのに

妙に頼もしかった


「あなたは

前だけ見ていて」


笑う


「振り向いたら怒るわよ」


オーガは

目を瞬かせる


「……おい」


少しだけ笑う


「最初から

決まってたみたいな顔だな」


バニーは

机の隅のノートを指した


日本の主要スタジアムの気候

食事

移動導線


オーガが対峙する

打者のリスト


几帳面な文字で

書き込まれている


オーガは

しばらく何も言えなかった


バニーが

少しだけ笑う


「あなたが

自分の心に気づくのを

待っていただけ」


「準備は

もう終わってるわ」


ノートを閉じる


「あとは

あなたがそのミットを持って

飛行機へ乗るだけ」


その言葉で


オーガの中の何かが

静かに定まった


ひとりじゃない


その重さだけで

背筋が伸びた


守るものを抱えて

前へ出る


ようやく

身体が答えを返した


――その夜


オーガは夢を見る


夢は

爆ぜるんじゃない


裂けた


裂け目から

冷たい風が吹き込む


その向こうに

誰かの泣き声


――白


――感じる


夕焼けの谷


乾いた風


叫び


光が

割れるみたいに広がる


――ビキィ……ッ


伸ばした手の先で

何かがすり抜けた


届きかけて

届かない


喉の奥で

言葉にならない祈りが焼ける


どうか


生きてくれ


その願いだけが

谷へ落ちた


――目覚める


胸が熱い


痛みじゃない


炎でもない


消えない灯りが

鼓動と同じ速さで

脈を打っていた


外はまだ暗い


だが――


夜は終わりかけている


耳の奥で

ジジ……と

小さな音が残っていた


夢の裂け目が

まだ閉じ切っていないみたいに


オーガは

ゆっくり起き上がる


胸の奥で


赤が


まだ黙ったまま

息をしていた


言葉にはならない


だが

わかる


これは

消える熱じゃない


胸の奥で


赤だけが


静かに燃え続けていた


そして――


遠いどこかで

まだ助けを待つ温度へ


身体だけが


先に

応えていた

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