【現世】第17章4話 黄金と蒼 転機
10月下旬
シーズン終了
球団公式が流れる
<結婚>
<金城ヴィオ♡蒼茉莉奈>
会見場の光が弾ける
パシャッ
パシャッ……
鈴が一礼する
笑顔は崩れない
「おめでとうございます」
声は明るい
だが
明るいだけじゃない
「気づいたら――
いつもお二人は一緒でした」
私はその笑顔を抜く
泣いていない
なのに
何かだけが残っていた
頬の角度だけが
少し合っていなかった
茉莉奈は笑っている
だけど
指先だけが
白くなるほど端で絡み合っている
嬉しいはずの光の海を
彼女は
すべて内側に引き受けようとしていた
逃げない覚悟だけが
そこにあった
私は少し遅れて
RECを落とす
赤い文字が消える
片付けのざわめきが戻る
ケーブル
足音
スタッフの声
その中で――
茉莉奈がこちらへ近づいてきた
小さく頭を下げる
「お疲れ様です
ありがとうございました」
その時――
……ピシッ
空気の膜が割れるような音
消えたはずの液晶へ
別の映像が数秒だけ差し込まれる
蒼い衣
膝をつく少女
寄った画角
指先は震えない
両手が胸へ重なっている
呼吸は浅い
だが
静かだった
唇だけが
祈りを結ぶ
『蒼よ……
魂の糸を……結んで……』
それを見たのは
私と茉莉奈だけだった
私は息が詰まる
レンズを持つ手だけが
動かなかった
指先が震える
カメラはもう切れている
なのに――
像だけが
こちらを見ていた
蒼い祈りが
画面じゃなく
空間へ直接差し込まれたみたいだった
ジジ……
切れたはずのイヤモニから
ノイズが漏れる
照明が
一瞬だけ暗くなる
スタッフが顔を上げる
誰も理由を理解していない
なのに
空気だけが薄い
茉莉奈は
その蒼を見つめたまま
瞬きもしない
そして
確信するみたいに呟く
「……マリア」
その名が落ちた瞬間
ブツッ……
会見場のマイクが
一斉に途切れた
私の背筋を
冷たいものが走る
違う
これは
私だけの異常じゃない
初めて共有された
初めて
同じものを見た
世界の膜が
まだどこかで軋んでいる
ピシィ……
私は
液晶の消えた黒へ目を落とす
そこにはもう
何も映らない
それなのに
黄金と蒼だけが
まだ
消えていなかった




