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【現世】第15章3話 翠 配球
午前
二軍の練習
汗の匂いと
土の匂いと
気合いの匂い
全部が混ざる
俺はバットを握り
ケージへ入った
来た球を打つ
それだけで
やってきた
高校も
大学も
それで通ってきた
来た球に反応する
身体をぶつける
力で押し切る
だが――
プロの壁は
思っていたよりも分厚く
そして冷たかった
扇風機
陰でそう呼ばれているのは知っている
当たらない
芯を捉えられない
力だけで押し切れるほど
この世界は甘くはなかった
それが
一番
きつかった
その時
グラウンドの空気が
一段だけ沈んだ
ゴゴ……
視線が集まる
背筋が伸びる
レオン監督が来ていた
皮膚が
勝手に正される
騒がない
怒鳴らない
ただ
そこに立つだけで
場の温度が変わる
レオン監督は
俺のスイングを見た
無駄のない視線が
一度だけ
俺の身体を貫く
「力はある」
「ただ
芯を捉えていない」
その響きには
圧倒的な現実と
嘘のない重みがあった
「読め」
「――配球を」
配球
その二文字が
頭の中で引っかかった
今までは
それでよかった
来たものに反応して
勝てる場所にいた
だが――
プロは
全部知ってる
弱点も
間も
癖も
だから
振らされる
こっちが振ってるようで
振らされている
自分のスイングが
闇を切り裂く音だけが
虚しく残る
レオン監督は
俺の焦燥を見透かすように
目を細めた
「言葉はいらん」
「来い」
踵を返した大きな背中が
無言で
答えを示していた




