↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/92

【現世】第15章4話 翠 読心

クラブハウスのテレビ


二人で椅子に座った


試合の音が流れる

実状況

観客

ミットの乾いた音


レオン監督が

画面を指す


「オーガ・クリムゾンだ」


一拍


「目を逸らすな」


ベンチに座る男は

静かだった


「3番手の捕手」


「年はお前と同じだ」


同い年


――ドクン……


心臓が

強く鳴った


レオン監督が小さく言う


「あいつは

振らされない」


呼吸が落ちる


「待てる」


一拍


「――読んでる」


オーガは

ベンチで静かに座っていた


捕手として

投手の呼吸を見ている


打者として

捕手のサインを見ている


ひとつの視点じゃない


何層も

同時に読んでいる


次の回


代打でオーガが立つ


球場の空気が

少しだけ変わった


初球


捕手は

真っ直ぐを要求する


オーガは動かない


投手が投げる


――パシィン


乾いた音


オーガのバットが

軽く合わせられる


打球は

一二塁間を抜けた


ライト前ヒット


派手じゃない


だが

迷いがない


レオン監督が低く言う


「見えてる」


一拍


「初球の真っ直ぐを

最初から読んでいる」


俺は

画面を見つめたまま固まる


レオン監督が言う


「こいつは

――見えている」


喉が静かに鳴る


「お前にも

見えてるはずだ」


沈黙


「――人の色が」


俺は

一瞬

息が止まった


俺は

昔から

先に感じてしまう


いや……


人の色を感じる


怒りは濁る


怯えは

薄く消えそうで


迷いは

ゆら……と揺れる


嘘だけは

妙に冷たい


気のせいだと思ってた


みんな

わかるもんだと思ってた


でも

違ったのか


あの日


ヴィオを殴った時もそうだった


衝動じゃない


あいつに

冷たい墨が

じわり……と染みる感覚があった


人として

ダメになる


その瞬間


手が先に動いた


止めるために


レオン監督は

俺を見た


「――読め」


その視線は

見抜いていた


「お前はなれる」


一拍


「間に合う男に」


その言葉が

胸の奥へ落ちた


――コツン


何かが

組み替わる


落ちていた感覚が

止まる


その代わりに


足元に

見えない床ができる


読む


それが

足場になる


落ちないための


上がるための


初めての足場だ


レオン監督が最後に言う


「来季に向けて

オーガと話をしている」


喉が鳴る


「チームを強くするために」


俺は

テレビを見たまま

拳を握った


力を入れるのは

最後でいい


でも

今日は――


握ってもいい気がした


胸の奥で

翠が

静かに鳴る


守るだけじゃない


読む


その先に

間に合う


(俺は変わる)


静かに


だが確かに


落ちるためじゃない


上がるために

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。