【現世】第1章4話 黄金 記憶
意識が
沈んでいく
深い水の底へ
引かれるみたいに
その狭間で
別の景色が
浮かび上がった
巨大な城の廊下
高い天井
黄金の紋章
薄紫の燭光が
揺れている
(……知らない)
(なのに……
懐かしい……)
奥に
誰かの気配があった
見えない
だが
いる
声が響く
「還れ」
燭台の炎が
ふるえる
床の上を
光の波紋が走る
立つべき場所へ
胸の奥を
見えない手が
ぎゅっと掴む
「まだ早い……
その時まで
そこで生きろ」
(……誰だ)
問いかけた瞬間
景色が燃えた
――ゴウッッ!!
視界が
バチン……ッ!!
と弾ける
光が裂け
空間が裏返る
――ズ……ン
鼻腔を刺す
鉄の匂い
喉を焼く
血の温度
肺を圧す
重い呼吸
土が
血を吸っていた
――戦場
男が
膝をついている
髪が乱れ
呼吸が浅い
ヴィオの右腕の金属が
その男の胸へ
ズブゥ……
と喰い込んでいた
血が
ドク……
ドク……
と
脈打つように溢れる
男は
笑っていた
血を流しながら
その顔だけが
妙に穏やかだった
唇が
かすかに動く
ヴィオの耳元で
ほどけるように
「……おそい……んだ……よ……」
知らない声
知らないはずの
声
なのに
心臓が
それを知っていた
――ズン
全身が
凍りつく
次の瞬間――
――ゴウッッ!!
世界が
再び反転した
視界が裏返る
引き剥がされるように
ヴィオの意識が
グッ……
と現世へ引き戻される
胸の奥の黄金が
まだ鳴っていた
ドクン……
それが
問いなのか
答えなのか
ヴィオには
まだわからない
わからないまま
夜の底で
何かだけが
確かに目を開いた
――最初から
始まっていた




