【現世】第1章3話 黄金 覚醒
球場の外
夜風が
汗の熱を
薄く削っていく
汗で崩れかけたリーゼントを
ヴィオは
指先で乱暴に押し上げた
前髪の影が
街灯の下で
鋭く跳ねる
ヴィオは
足早に歩いていた
(……余計なことを考えるな)
(俺は
もっと上へ行く)
頬の痛みが
じわりと熱い
さっきの一発より
胸の奥のざらつきのほうが
気持ち悪かった
街灯の光が
少し歪む
怒りのせいか
疲労のせいか
それとも――
信号待ちで
立ち止まる
赤信号
車列のライトが
白く滲む
胸の奥が
まだ鳴っている
ドクン……
ドクン……
(絶対に頂点に立つ)
青信号に変わる
その時――
ピチ……
線が切れる音がした
ヴィオの眉が
わずかに動く
正面から
母親と
小さな女の子が歩いてくる
少女の手には
紅い風船
「あのね
パパに見せるの」
嬉しそうに
風船を掲げる
ふわ……
風が抜ける
紅が
夜へ浮いた
次の瞬間
少女の手が
ふっと離れた
「あ……!!」
母親の声が
裏返る
少女が
反射で飛び出す
車道へ
(……関係ない)
そう思った
だが
その瞬間
世界が
ズ……ッ
と止まった
(見えない線――)
光が
遅れる
音が
遅れる
世界だけが
後ろへ下がる
ヴィオの体は
もう動いていた
(守る……!)
考えるより先に
踏み込んでいた
少女の体を
抱き込む
小さい
軽い
震えている
その手が
服を強く掴む
離れない
――離さない
その瞬間
胸の奥で
黄金が
ドクン……!!
と大きく鳴った
道路の中央線を
踏み越える
トラックのヘッドライトが
ギラリ……
と光る
来る
いや
もう
来ていた
右腕が
カッ……
と熱を帯びる
皮膚の奥で
チ……チッ……
と火花みたいなものが走る
街の輪郭が
ユラ……
と揺れた
言葉になる前に
冷たい指先みたいな感覚が
胸の奥へ触れる
――遠くで
金と蒼が
触れた気がした
紅い風船が
夜の奥で
ひとつだけ
脈打つ
ドクン……
空気が
止まる
光も
時間も
音も
全部
遅れる
黄金だけが
動いていた
耳鳴りが残る
トラックが
ドグォォォ……ッ!!!
と唸る
(……この震え……
知っている……)
知らないはずなのに
体が
覚えている
触れている
守っている
なのに
――間に合わない
ドギャ……
胸の奥の黄金が
跳ね上がる
少女の輪郭が
わずかにズレた
(……やめろ……)
右腕が
さらに熱を持つ
空間が軋む
現実の表面が
ベリ……
と剥がれた
(違う……ッ!!)
視界が
反転する
――ガリ……ッ!!
ガガガガガァァッ!!!
右腕を
金属が掠める
神経が
ギュゥゥ……
ン!!
と悲鳴を上げた
世界が
バチィィィィン!!!
と割れた
思わず
声が漏れる
「……虹へ……
堕ちた……」




