↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
46/92

【現世】第13章4話 紫 記録出来ない

九月


シーズンは終盤


復帰戦まで

カウントダウンが刻まれている


カチ……

カチ……


見えない針が進む


取材テープは増え

素材は揃い

編集室には

“復活劇”の部品は

もう揃っていた


ヴィオの顔つきは

明らかに変わっていた


作られた英雄じゃない


戻る準備を終えた人間の顔


削ぎ落ちたものが多いほど

顔は本物に近づく


あの会食以来

ヴィオと鈴の関係は良好だった


マスコミには

ふたり揃って言う


「友達です」


即答


迷いも

含みもない


私は

カメラを下ろす


一歩引いた位置で

その構図を見る


(私は

まだ

フレームの外にいる)


ピシィ……


また

空気が鳴る


モニターの時間表示が

一瞬だけ

巻き戻る


違う


そのフレームに

“まだ起きていないはずの映像”が

映っていた


――白


花でも

光でもない


誰かが

こちらを見ていた

気がした


こちらが

見ていたはずなのに


触れていないのに

視界の奥へ

焼きついたまま離れない


私は

再生を止め

画面を静止する


だが

その場面は

どこにも記録されていなかった


巻き戻してもない

早送りしてもない


素材にも残っていない


空気が

ほんのわずかに

薄くなる


世界のどこかで

境界が

爪で引っかかれたように歪んでいる


私は

ゆっくり息を吐く


見ていない


これは

まだ見ていいものじゃない


まだ知らなくていい


答えには

まだ触れていない


だが

私だけが

今にいない


編集室の白い光が

急に遠くなる


手元のペンも

モニターの秒数も


全部

少しだけ

本来の位置からズレて見えた


私は

何も言わない


まだ

読んではいけない


だから

切らない


残さない


私は

その編集点に

ひとりで立っていた


ピシィ……


今度は

近すぎた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。