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【前世】第12章1話 銀 遭遇

王族の城の広場は

朝の光を静かに抱いていた


新王子任命式の前の

ほんの短い静寂


まだ鐘は鳴っていない


まだ誰も

新しい名を口にしていない


それなのに

空気だけが先に

変化の訪れを知っていた


ヴィヴィの指先に残る重み


冷たい金属の感触


ガントレットは

ただの武具じゃない


選ばれた証であり

継がれた責任でもある


「……覚悟はできている」


ヴィヴィが低く言う


「だが

始まる前の静けさだけは

どうにも落ち着かないな」


言葉とは裏腹に

視線は静かだった


逃げていない

揺れてもいない


ただ

場の奥だけを読んでいる


マリアが応える


「大丈夫です」


微笑みは柔らかい


「ヴィヴィは

ヴィヴィですから」


だが

蒼衣の裾は

わずかに揺れていた


揺れは小さい


だが

止まらない


その微細な乱れだけが

マリアの胸奥を語っていた


ジンは

剣を肩に預けたまま

空を読むように黙している


「……澄みすぎています」


呼吸が沈む


「降りますね

――何かが」


シューが

鼻先をわずかに動かした


匂いを読むように

空気を吸う


「おいおい……」


低く唸る


「こいつは冗談きついぜ……」


喉が低く鳴る


「あの夜に感じていた匂いだ!」


シューは立ち上がり

翠の盾を構えた


防ぐための姿勢


まだ何も来ていないのに

身体だけが

先に知っている


ヴィヴィが立ち上がり

空を仰いだ瞬間――


その視線を追うように

全員が顔を上げる


――ピシィ……ッ


音ではない


世界の膜が裂けた感触


空が

意図を持ったように裂ける


青が退く


朝が歪む


「……来ます」


ジンの声と同時に――


影が落ちた


――ズドンッ!!


衝撃が遅れて

広場を揺らす


石畳が砕け

粉塵が舞う


その中心に

ひとつの影が立っていた


外部層から

無理やり

何かが割り込んできたような落ち方


黒の鎧


灰の瞳


見覚えのある輪郭


ジンの喉が

わずかに強張る


「……説明がつかない」


声が

ほんの少しだけ掠れた


黒鎧の戦士は

ゆっくりと顔を上げる


銀髪が

朝の光を受ける


そして微笑んだ


「……久しいな」


声の調子

呼吸の間

目の細まり方


その全部が

ジン自身だった


「私はジャン」


一拍


「お前と

同じ顔を持つ者だ」

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