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【現世】第11章1話 桃色 熱

球団と

所属事務所は

同時刻に

コメントを発表した


<交際の事実は

確認されておりません>


想定通りの

温度のない否定


何度も使われてきた文言だ


語順も

句読点の位置も

完璧


完璧すぎて


現実から

わずかに浮いていた


ピシィ……


ほんの一瞬だけ


言葉と現実の位置が

ズレる


言葉は整う


現実だけが

取り残される


記者たちの端末が光る


画面が並ぶ


記事が更新される


否定文だけが

どこまでも

整っている


だが


整いすぎたものほど


人は

中身を疑う


――フラッシュ


バシャ……

バシャ……


光の海の中で


鈴は

一歩も引かなかった


背筋は伸び


顎は

わずかに上がっている


マイクを

真正面から受け止める


逃げない


伏せない


濁さない


「私は

ヴィオ選手のプレーが好きです」


呼吸が止まる


「ずっと

応援しています」


声は揺れない


語尾も落とさない


それだけ言って


鈴は

深く一礼した


顔を上げた時


笑顔だけが

そこにあった


……だが


視線だけが

ほんの一瞬

行き場を失う


次の瞬間には

もう消えていた


否定もしない


肯定もしない


何も足さない


その笑顔が

答えの代わりに

静かに

場を制した


誰も

踏み込めなかった


記者のひとりが


チッ……


と小さく舌を鳴らす


否定は想定内


だが


納得はしていない


ざわめきが

一段

濃くなる


スクープは

否定された


だが


物語は

否定されなかった


その場に残ったのは


事実じゃない


熱だけだった


――ネオンの奥で


雑居ビルが

ズゥ……と低く息をしている


酒と欲が混ざる場所


金と人が

最も正直に交差する夜


事務所のテレビでは


ヴィオと鈴の特集が流れていた


音量は小さい


映像だけが

やけに鮮明だ


その前に立つ男は


腕を組み

微動だにせず

画面を見ていた


リーゼント

削ぎ落とされた輪郭


仁・シルバー(じん・シルバー)(22)


――影の彗星


この街が

勝手にそう呼んでいた


夜の人間なら

一度は名前を聞く


画面の中の光を


影が静かに測っていた


その瞬間


映像の輪郭が

一瞬だけズレる


だが

誰も気づかない


それでも


男の瞳は揺れない


見ているのは


記事でも


芸能欄でもない


その次に

何が崩れるか


そこだけを

読んでいた


周囲を一瞥し


“次”だけを読んで

視線を外す


ネオンの街では


光っているものほど

早く使われる


そして


使われたものほど

早く

影を呼ぶ

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