【現世】第9章2話 桃色 告白
イベント会社の計らいで
会食の席が用意された
金城ヴィオ(19)
翠川翔(23)
桃園鈴(18)
紫夕羅(20)
仕事としては
何もおかしくない並びだった
実績も
話題性も
数字として成立している
グラスが鳴る
カチ……
会話は
滞りなく進む
必要な笑顔だけが
並んでいた
その途中で
鈴が立った
ここだと決めていたみたいに
自然に立ち上がる
「ヴィオさん……」
名を呼ぶ声は
小さい
けれど
逃げなかった
空気が
しん……と静まる
鈴の目は
まっすぐだった
怯えはある
それでも
逃げない
「私は……
ヴィオさんのファンでした」
喉が
かすかに震える
「……でも」
小さく息を吸う
「ずっと
ファンでいたかったのに……」
声は弱い
けれど
折れていない
「気づいた時には……
応援するだけじゃ
足りなくなっていました」
ふわ……
言葉が
空間に白く咲く
甘えるような響きじゃない
ただ
胸の奥から
そのまま出てきた熱だった
「返事は
いりません……」
鈴は
視線を逸らさない
「選ばれなくても……
伝えたかったんです」
誰も
すぐには言葉を返さなかった
音がひとつ
遅れた気がした
時間だけが
その場に取り残されたように
わずかに沈む
それ以上
何も足さない
何も求めない
席へ戻る
甘い花の香りだけが
ふわ……
一瞬
残った
ヴィオの胸が震えた
胸の奥が
先に応えた
その奥で――
別の名前が
触れかけて
消えた
空気だけが
ズゥ……とわずかに重くなる
夕羅は
グラスへ触れながら
揺れる空気の奥
鈴の横顔を
見透かすように見た
それから
視線を前へ戻す
何も言わない
だが
何も見ていないわけでもない
紫の瞳が
すべてを
過去から測るように
静かに細まる
この熱だけは
どこか懐かしかった
記憶の奥で
花びらのような何かが
揺れた
この色だけは
忘れていない
なのに
名前がない
――だから
何も言わない
ヴィオは
何も返さなかった
言葉になる前に
時間が
グニャ……と歪んだ
沈黙は
拒否でもない
肯定でもない
未選択として
そこに残った
翔は
グラスに触れない
胸の奥の翠が
ザワ……と鳴った
右手が
わずかに震える
無意識に
椅子を半歩
ヴィオ側へ寄せる
ほんの数センチ
だが――
意味はあった
ヴィオと
鈴の間へ
身体の軸を
滑り込ませるような微動
守る
理由より先に
身体がいつも通りに動いていた
ヴィオと
鈴の間に
静かな境界線を引くように
グラスの中身は
減っていない
誰も気づかない程度に
そこへ留まり
全体を見守る
兄貴分としての
いつもの配役で
それで十分だった




