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【現世】第7章2話 蒼 居場所

大晦日の昼

天空病院の礼拝堂


昨夜届いた

一花からの連絡


<明日の昼に来てください>


それだけで

胸がざわついた


そのざわめきが

消えないまま


茉莉奈は

ここに立っている


扉へ手をかける


きい……


小さく鳴る


中は静かだった


冷えている


祭壇の前に

一花が立っていた


穏やかな顔


だが

目だけが静かだった


「来てくれて

ありがとうございます

茉莉奈さん」


声は

柔らかい


けれど

奥が深い


「……何かありましたか」


茉莉奈は

胸元の蒼石を握る


温度が上がる


背筋は冷たい


なのに

そこだけ熱い


「……あなたに

ひとつだけ聞きます」


一花の声は

変わらない


波立たない


「彼のそばにいる時

あなたは

何を感じていますか」


茉莉奈の

呼吸が止まる


胸の奥が

ざわつく


わかっている


答えは

もうある


言葉にした瞬間

何かが変わる


蒼石が

トク……と脈を打つ


「……安心します」


小さな声


だが

それだけじゃない


一花は

急かさない


ただ

待っている


茉莉奈の

呼吸が浅くなる


背筋は

冷たい


なのに

胸の奥だけが

熱い


それでも

目を閉じない


「……違います」


言葉が出た


「安心するのに……

苦しいんです……」


「見ていると

離れたくなくなるんです」


一拍


「……なのに」


「……少し怖いです」


静かに落ちる


理由はわからない


「でも」


指先に力が入る


蒼石が

熱を帯びる


その熱が

自分の鼓動と重なる


顔を上げる


逃げない


「……それでも

目を逸らしたくない」


ひと呼吸


「ずっと……

一緒にいたい……」


沈黙


礼拝堂の空気だけが

揺れずに残る


一花は

ただ

見つめている


「……それが

あなたの魂です」


茉莉奈の手が

蒼石を強く握る


一花は

少しだけ目を伏せた


普段なら

何も言わない


祈りは

答えを与えるものではない


だが――


沈黙だけでは

届かない夜もある


一拍


「魂は

消えません」


一拍


「巡るだけです」


礼拝堂の空気が

静かに沈む


「形を変え

……名を変え

……時を越えて」


茉莉奈の

呼吸が止まる


一花は

ゆっくりと言葉を続けた


「また

重なります」


胸元の蒼石が

トク……と鳴った


「あなたが感じている

その痛みも

懐かしさも

恐れも」


「……まだ

残っています」


茉莉奈の瞳が

揺れる


(……魂が……)


一花は

優しく告げる


導くのではなく

迎えるみたいに


「だから

迷ってもいい」


「怖くてもいい」


「でも……

彼のそばで

心がほどけるなら」


静かな間


「それは

――もう」


一拍


「戻る場所を

知っているということです」


(……私は)


怖い


わからない


でも


答えはもう

自分の中にある


喉の奥が

きゅ……と締まる


ゆっくりと息を吸う


「……そばにいます」


その言葉は

願いじゃない


決定だった


胸の奥が

静かに定まる


一花は

わずかに頷く


その瞬間


一花の瞳が

ほんの一瞬だけ

光を失った気がした


茉莉奈は

気づかない


だが


燭台の火だけが

わずかに揺れた


――チリ


茉莉奈の胸元で

蒼石が

ほんの一瞬だけ脈打った

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