【現世】第7章1話 無色 再起
クリスマス・イヴ
病院ロビー
「怪我から復帰した時――
あなたは
真の二刀龍になります」
退院手続きを終えた
ヴィオの足が止まる
ヴィオは
ゆっくり振り返った
チャプレンは
すでに
こちらを見ていた
天空病院のチャプレン
神楽一花(23)
穏やかな顔
だが
その目だけが
静かに揺れていた
「本日は
祈りだけを捧げて
失礼します」
静かな声だった
押しつけない
けれど
その言葉だけが
胸へ残る
一礼して
去っていく
……ドクン
拍がズレる
ヴィオは
しばらく動けなかった
――数日後
球団施設のリハビリ室
機械音
呼吸音
時計の秒針
時間だけが
削れていく
ヴィオは
黙々と身体を動かしていた
汗が
ポタ……と床へ落ちる
右腕はまだ重い
だが
止めない
そこで
ガチャ……
扉が開いた
空気が変わる
重い足音
ヴィオは
振り返る
レオン・ゴールド監督(40)
無駄のない視線
その目だけで
場の温度が下がる
レオンは
まっすぐヴィオを見る
窓の向こうでは
雪が降っていた
「来季――育成契約」
一拍
「支配下は外す」
静かな声だった
だが
逃げ場がない
リハビリ室の空気が
止まる
普通なら
心が折れる言葉
ドラフト一位
二刀流
スター候補
その全部を
一度外される言葉だった
ヴィオの視線が
わずかに落ちる
白い床
汗が
ポタ……と落ちた
一軍の歓声
満員のドーム
歓声の中で振ったバット
マウンドの景色
全部が
遠くなる
右腕が
ズキ……と疼く
――終わるのか
その言葉だけが
一瞬
喉の奥を掠めた
だが
ヴィオは
ゆっくり息を吸う
右腕を見た
ズキ……
鈍い痛み
だが
まだ終われない
レオンが続ける
「壊れた奴は戻らない」
「お前はどうする」
静寂
ヴィオは
まっすぐ前を見る
「……マウンドも
打席も
まだ譲る気はありません」
短い返事
だが
逃げていない
レオンの目が
わずかに細まる
「……ならば」
一拍
「――這い上がってこい」
その言葉だけを残して
監督は去っていった
扉が閉じる
静寂
ヴィオは
右腕へ触れる
――ドクン
胸の奥が鳴る
育成
終わりじゃない
戻るための
スタートラインだ




