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【前世】第6章3話 黄金 継承

空が

割れた


裂け目じゃない


破断


もっと重く

もっと古い存在が


ズゥ……と落ちてくる


老いた龍神


鱗は欠け

角は摩耗し

呼吸は荒い


だが

視線だけは

揺れていない


龍神の瞳が

ゆっくり流れる


蒼をかすめ

銀の気配を掠め


そのまま

黄金へ辿り着く


龍神は

静かに笑った


「お前さんは

光だけで出来てるわけじゃあねえ」


太い声だった


乾いた山風みたいに

豪快に響く


「優しさもあれば

怒りもある」


一拍


「だから前へ出られるんだ」


ヴィヴィは

息を呑む


龍神の視線が

黄金の奥を覗き込む


光の裏にある影まで

すべて見通すように


「蒼がいる」


「銀がいる」


「翠もいる」


一拍


「……それでやっと立てる器さ」


フハハ……と笑う


威圧じゃない


全てを遊び尽くした者だけが持つ

圧倒的な温かさだった


次の瞬間


龍神の息が

フッ……と吹きかけられる


バチ……ッ


何かが走った


遅れて

背骨を伝って

熱が駆け上がる


呼吸が

一瞬止まる


痛みが引く


だが

翼は戻らない


代わりに――


形が

ギシ……と崩れる


骨が組み替わる

鱗が剥がれる

感覚が切り替わる


空の記憶だけが

指先に残っていた


俺は

地面に伏したまま


人の身体に

変わっていた


混乱はない

恐怖もない


ただ


何かを失ったことだけは

身体が先に知っていた


呼吸が浅い


重心が違う


背にあるはずの重みが

消えている


その空白だけが

スゥ……と全身へ広がった


マリアが駆け寄る


ヴィヴィが

息を呑む


――龍神は

もう一度

黄金を見る


「……もう長くは持たねえな」


その声に

恐れはなかった


「だから持って行け」


一拍


「わしの役目も

この命もな」


不敵に笑う


別れ際ほど

堂々としていた


「お前さんが

次を持って行け」


そう言って――


龍神の身体が

黄金の粒子になって崩れていく


風へ溶けるみたいに

静かに散って――


空だけが

やけに広かった


だが

消えない


黄金は

空中で

ゆっくり集まり始める


光が重なり

形を変える


腕を覆う

ひとつのガントレット


それが


ボロボロになった

ヴィヴィの右腕へ宿った


黄金が

脈打つ


ドクン……


ヴィヴィの右腕が

強い光を吸収していく


「――ッ!?」


反射で

腕を引く


だが

外れない


黄金は

ギシ……と音を立てながら

右腕へ噛み合うように宿った


ヴィヴィの瞳が

大きく揺れた


俺は

地に伏したまま

空を見上げた


風が

ひと筋だけ

頬を撫でる


軽い


背にあったはずの重みが

どこにもない


翼を動かそうとして


――何もない


胸の奥が

ズゥ……と沈む


それでも――


もう決めていた


黄金が立っている


蒼がいて


銀がいる


なら

前に立つ


飛べなくてもいい


それが

俺の誓約だ


空は

静かに閉じていった

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