【前世】第6章2話 翠 衝動
その日
空気が先に壊れた
音じゃない
揺れでもない
世界の“膜”が
外側から
ミシ……と押される感触
――ズン……
重く
嫌な沈み方だった
俺は伏したまま
反射で首を上げる
空が裂ける
裂け目の向こうは
夜でもない
星でもない
濁った黒
光を拒む層
ダーク星
近づくほど
灯りが灰色に沈んでいく
そこから
魔物が
ドロ……と流れ込んできた
裂け目から檻まで二十歩
影は十数体
まだ
増える
歩く影
定まらない輪郭
意思だけが鋭い
空間を踏み潰すように
ゴリ……
ゴリ……と数を増していく
――ヴィヴィが前に出た
黄金が
ギラ……と弾ける
魔物を押し返す
ジンの銀が
線を描く
ザシュ……と敵を裂く
だが
子どもの身体だ
数が違う
持久が違う
削られていく
ヴィヴィの足が止まる
膝が
ギシ……と沈む
その背後で
マリアは
動かない
逃げない
祈る
声もなく
ただ
胸の奥だけを澄ませ
祈り続ける
魔物が
飛び込んだ
(――間に合わない)
その瞬間
胸の奥で
何かが
ドクン……
とはじけた
折れた翼の根元
もう二度と
応えないはずの場所
そこが
ブル……と震えた
考える前に
身体が前へ出る
理由はない
命令もない
ただ――
ヴィヴィの前に立つ
それだけ――
――バサァッ!!
風が鳴る
ほんの一瞬
奇跡でもない
回復でもない
祈りと衝動が
ギリ……と繋がっただけ
俺は
飛んだ
黄金の前へ
魔物との境界へ
シューが
盾になる
次の瞬間
――ドォンッ!!
衝撃
世界が
ガクン……とひっくり返る
身体が吹き飛ぶ
地面を
ゴロ……と転がる
息が詰まる……
もう……
動けない……
翼は
完全に沈黙した
視界の端で
ヴィヴィが立っている
膝は震え
呼吸は荒い
それでも
立っている
「寝てろ
あとはオレが遊んでやる」
ジンは囲まれている
銀の線が
スゥ……と薄くなる
「……まだ終わらない」
「線は
繋がっている」
マリアは祈っている
声もなく
必死に
「大丈夫
私はここにいます」
誰も
次を持っていない
呼吸が
止まりかけた




