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【現世】第5章3話 黄金と蒼 結び

数日後


ヴィオは

外出許可をもらった


街に出ると

人の多さに

クラ……と酔う


ブランドショップ


照明が

ギラ……と眩しい


右腕は

まだ万全じゃない


無意識に

庇うように抱えたまま

店内を歩く


ショーケースの中で

金色が

キラ……と光った


ゴールドのブレスレット


怪我から戻るための

願掛けみたいなものだった


復帰した時

この右手に

これをつけていたい


なぜか

そう思った


その瞬間


視界の奥で

ほんの一瞬だけ

位置が

ズレた


ピシィ……


光と音が

噛み合わない


すぐに戻る


だが

その感覚だけが

妙に残る


会計を済ませたあと


隣の棚に

視線が止まった


サファイア――

蒼色のペンダント


深く

静かな色


覗き込むほど

底が見えなくなる


胸の奥が

ミシ……と軋む


(……茉莉奈)


名前を思い出した瞬間


ドクン……


胸の奥が

勝手に答えた


気づけば

手に取っていた


自然に

胸元へ落ちる形


守るように

寄り添う色だった


――夕方


実習帰りの茉莉奈は

大通り公園を歩いていた


足取りは軽い


だが

意識は

胸の奥にあった


このところ

祈るたびに

ヴィオの顔が浮かぶ


ベンチに

見覚えのある背中があった


「あ……」


小さく息を呑む


「ヴィオさん?」


振り返る


驚き


それから

小さく笑う


「……偶然ですね」


ヴィオも

短く頷いた


風が

木々を揺らす


夕方の公園は

騒がしいのに

どこか静かだった


並んで座る


街の音

風

葉擦れ


沈黙が

妙に心地いい


ヴィオは

小さな箱を取り出した


指先に

ギュ……と力が入る


本当は

もっと別の言葉を

用意していた


礼を言うだけでいい


無事でよかったと

笑えばいい


まだ早い


そう思った


だが

胸の奥の黄金が

それを許さなかった


――顔を上げる


「……これ

受け取ってくれ」


声は低い


だが

誤魔化していない


それでも

視線は逸らさない


喉が鳴る


「気づいたら

あんたを探してた」


「だから……

そばにいてほしい」


ヴィオが

箱を開く


蒼石が

夕光を受けて揺れた


ヴィオは

それをそっと取り出す


迷わない


唇が

わずかに動く


「……へのへの

宗神主(そしじ)」


声になったのかさえ

わからないほど

小さな呟きだった


ヴィオ自身も

口にしたことに

気づいていない


茉莉奈の耳には


何かを言った


その気配だけが

かすかに届く


「……今

何か言いました?」


ヴィオは

一瞬だけ目を瞬かせる


「……いや」


自分でも

なぜそう答えたのか

わからない


そのまま

茉莉奈の手に

触れるように渡した


その指先が

一瞬だけ

触れた


風が止まる


音が

一段遠くなる


茉莉奈の呼吸が

細くなる


「え……?」


蒼石が

掌の中で

かすかに光る


その瞬間


茉莉奈の背後に

蒼が重なる


巫女衣

静かな眼差し


世界から

一段浮いているような

澄んだ存在


――スゥ……


空気が澄む


ピシィ……


ほんの一瞬だけ

時間が

ズレた


音が消える


風が遅れる


ヴィオの喉が鳴る


(……今の……)


確かに見えた


幻じゃない


目の錯覚でもない


自分にだけ

起きた干渉


だが

茉莉奈は気づかない


気づかないまま

言葉を失っていた


胸が

強く締まる


(……だめ……)


胸が

苦しい


涙が

止まらない


どうしてなのか


わからない


なのに

心の奥の

知らない場所が

震えていた


涙が滲む


「……嬉しいです」


呼吸を整える


「私のなかでも

ずっと

ヴィオさんが消えなかった」


視線を逸らさない


「そばにいさせてください」


風が

静かに抜ける


茉莉奈は

蒼石を胸元へ抱いた


まるで

最初から

そこにあったみたいに……

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