【現世】第5章2話 黄金と翠 残響
一週間後
翔の退院日
検査結果は
異常なし
脳も
神経も
身体も問題ない
医師は
カルテを見ながら言った
「……現時点では
明確な異常は見られません」
「事故のショックで
記憶が混線することは
あります」
その声は
事務的だった
だが
わずかに止まる
「……ただ」
視線が
ほんの一瞬だけ止まる
「夢として処理するには
少し……」
言いかけて
止めた
カルテへ
視線が落ちる
「……いえ
経過観察で問題ないでしょう」
翔は
ポリ……と頭をかく
「まあ
そう言われると
そうなんだが」
納得したふりをしながら
視線は
フワ……と宙を彷徨う
口では流している
だが
流しきれていないのが
見てわかった
ぽつりと
続ける
「だが
本気で生々しかった」
視線が
少し落ちる
「シャレにならないくらい
リアルだった」
「目覚めても
まだ頭から離れない」
さらに
「一瞬だけ
現実の方がズレていると
錯覚する時がある」
ヴィオは
黙って聞いていた
翔は
笑うように息を吐く
「しかも
俺が竜だったらしい」
「……は?」
肩をすくめる
「守るのが
役目だった」
言葉を探すように
右手が開いて
閉じる
指先に
まだギュ……と
力が残っている
「空を飛んで
知らない戦場を
見下ろしていた」
「笑えるだろ?」
フッ……と笑う
だが
目だけは笑っていない
「そこに
金色の背中と
銀の気配があった」
少しだけ
遠くを見る
「なんつーか……」
「……二人の背中が
妙に大きく見えた」
ヴィオの視線が
ユラ……と揺れた
喉が締まる
胸の奥の黄金が
小さく鳴る
ドクン……
翔は
さらに続ける
「蒼い子もいた……」
「竜の俺に
優しく話しかけてくれてた」
ヴィオの呼吸が
わずかに乱れる
脳裏に
茉莉奈がよぎる
翔は
誤魔化すように笑った
「なんなんだろうなぁ……」
「ガキの頃でも
見たことない夢だった」
ヴィオは
黙ったまま
視線を落とした
胸の奥で
黄金が
鈍く脈を打つ
ドクン……
それから
静かに口を開いた
「……あの日の俺の態度
悪かった……」
一拍
「……翔が正しかった」
翔は
目を瞬かせる
次いで
肩をすくめた
「……でも」
「そんな顔はするな」
「俺だって
訳がわかっていないんだ」
少しだけ
沈黙が落ちる
「……でもよ」
視線が
まっすぐになる
「身体が先に動いて」
「――守るのが
当たり前みたいに」
沈黙が落ちる
だが
それは気まずさじゃない
張りつめていた糸が
キィ……と
緩む音だった
何かが
一段ほどける




