【前世】第4章1話 翠 欠落
「――処分対象です」
翼は
もう動かない……
軍用飼育区画
ワイバーンを
兵器として運用する区画
空を飛べない個体は
処分
それが
この区画の絶対だった
飛ぶために育て
飛べなくなれば捨てる
そこに
例外はない
はずだった……
――数週間前
すべては
ここから始まった
石造りの厩舎に
湿った冷気が沈んでいる
鉄と血の乾いた匂い
鎖に繋がれた個体たちが
黙って息をしていた
すべてが
“飛ぶための兵器”
翼が裂け
骨は歪み
死んでいく
ここでは
それが当然だった
その中で
ひとつだけ
基準から外れた個体があった
生まれた瞬間から
「104号」
名前はない
意味もない
ただ
番号だけが与えられた存在
呼ばれるたび
胸の奥が薄く削られる
104号
104号
104号
音としては届く
だが
そこに
自分はいない
感情はあるはずなのに
何かだけが
抜け落ちている
空腹はわかる
痛みもわかる
怒りもある
なのに
中心だけが
空白だった
欠けた番号があっても
誰も気にしない
昨日までいた個体が
今日いなくなっても
問題にはならない
ここでは
個体は
“交換可能な機構”だった
それでも
胸の奥にだけ
小さな欠落が残っていた
黒い針で
穿たれたみたいな
埋まらない穴
夜になると
そこへ
ひと筋の黄金が差し込む
紅い空を裂く
夕焼けの反射
厩舎の隙間から
短く射す光
その瞬間だけ
欠落が
少しだけ温度を持った
(……あの揺らぎだけは好きだ)
理由はない
意味もない
ただ
痛くなかった




