【現世】第3章3話 蒼 祈り
礼拝室
茉莉奈は
立ち止まっていた
廊下のテレビでは
まだ最終戦の映像が流れていた
担架で運ばれる選手を見た瞬間
胸の奥が
小さく軋んだ
理由は
わからない
――願い
「……どうか」
祈りを落とした瞬間だった
映像が脳裏に映る――
――空が近い
――冷たい
――誰かが落ちる
違う
――落としたくない
胸が
引き裂かれる
〈落とさない〉
――知らない声
なのに
涙だけが
先に零れた
――翼が裂ける
――巨大な翠の翼
血
抱き込む腕
――ドクンッ
その中心に
黄金の誰かがいた
なぜか
視線は黄金から
離れなかった
茉莉奈の呼吸が止まる
映像が砕ける
礼拝室へ
現実が戻った
肩が揺れる
息が浅い
なのに
胸の奥だけが
あたたかかった
まだ
名前のないもの
もっと古く
もっと深く
壊れる未来へ
手を伸ばそうとする
祈りだった
(……違う)
視線が合うたび
胸が軋む
息が乱れる
祈りの中に
その人の影が
静かに残る
ただの患者じゃない
会ったことない
はずなのに
なぜか
見失いたくない
胸の奥が
冷たく震えた
嫌な予感ではない
もっと確かなもの
記憶より先に
魂が知っている予兆
この人は
きっと
また
一人で
行ってしまう
そう思った瞬間
胸の奥の蒼が
静かに揺れた
生きていてほしい
ただ
それだけだった
礼拝室の窓から
夕陽が差し込む
蒼いステンドグラスの光が
床へ落ちる
茉莉奈は
その光の中で
そっと目を閉じた
指先を重ねる
祈りの形
誰に教わるでもなく
ずっと昔から
知っていたみたいに
「……どうか」
小さな声
風に溶けるほど
静かな願い
それでも
胸の奥の蒼だけは
確かに応えていた
ドクン……
遠く
病室のヴィオもまた
理由のわからない鼓動に
胸を押さえていた
まだ思い出していない
まだ知らない
けれど
蒼の祈りだけは
運命の糸となって
黄金へ届いていた




