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【現世】第3章2話 翠 予兆
ひと月が経った
右腕はまだ
思うように動かなかった
リハビリを終えても
指先の感覚は鈍いまま
それでも
夢の中でだけは
投げていた
目が覚めると
右腕は鉛だった
《ヴィヴィ》という名前が
眠るたびに近づく
知らないはずなのに
遠ざからない
天空病院 デイルーム
テレビでは
CCロッカーズの最終戦が
流れていた
実況
歓声
乾いた音
――シュッ
――ガンッ!!!
画面の中で
打球が
頭部へ当たる
翔が崩れた
〈……当たりました……〉
実況が
わずかに遅れて届く
担架
走るスタッフ
ざわめく観客席
その瞬間
ヴィオの右腕が
熱を帯びた
胸の奥の黄金が
ドクン……ッ
と跳ねる
ガタンッ
持っていた紙コップが
床へ落ちた
画面が
一拍
遅れた
いや
遅れたように見えた
倒れた翔の周囲に
何かがいた
翠
ふわり……
羽ばたく前の影みたいに
一瞬だけ形を持ち
――折れた
(……俺にしか見えていない)
呼吸が浅くなる
胸がざわつく……
(……翔……)
視線が凍る
担架
走るスタッフ
実況の声
何も変わらない
ただの事故
ただの映像
――のはずなのに
胸だけが
それを拒んでいた
(……違う)
ドクンッ
胸の奥が
もう一度鳴る
(……見た)
見たはずなのに
説明できない
右腕の奥だけが
嫌に熱かった




