表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桃ちゃんと一緒 召喚され世界の壁となった俺は、搾り滓として転生す  作者: @aozora


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/37

第36話 壊れる日常、悪夢の始まり

気が付いたのは教室であった。懐かしい制服、幼い顔立ちの友達、狂気に落とされる前のまだ純粋だったあの頃。

私は帰ってきた、零れ落ちる涙、いきなり泣き出した私に周囲の女子生徒たちが心配して集まってきたけれど、私は渦巻く感情の発露を止めることが出来ずにいた。


あれから三年、私は高校二年生になっていた。異世界の創造神との戦いに勝利し、元の世界へ帰ってきた当初は大変だった。中学二年生の時の記憶など遠い過去、壮絶過ぎる程濃厚な勇者時代の記憶が私の全てを塗りつぶし、まるでゲリラ戦の戦場から戻った兵士のように、私の行動は何から何まで異常を極めていた。

授業はまるで分らず、友人との会話もついていけない。家までの帰り道すらうろ覚えで、親しい友人(名前は思い出せなかったが)に送ってもらう始末。家族に再会した時は感情を抑えきれず、大泣きして抱き付いた事を今でも覚えている。


両親や姉はそんな私のことを心配し、学校でいじめに遭っているのではないかと方々連絡を取り学校にも訪れたもののそういった事実はなく、授業内容から友人の名前すら出てこない私の様子に何か重大な病気ではないかと医者に連れて行ったりもしてくれた。

精神科の医師の話では夢の中で何年もの時間を経験するという事はさほど珍しい事ではなく、実際にそうした偽覚醒状態の事例は多く発表されているとの事であった。

そしてその夢の中での体験が強烈であるほど目覚めた後でも現実との境界があいまいとなり、記憶障害のような症状も起こり得る。血液検査やMRI検査でも脳の異常は見られず、言語障害等も見られない事から要経過観察として帰宅を許されたことは不幸中の幸いであった。


異世界での最後の戦いが終わった時“均衡を司りし神アスラーダ”が言っていた通り、私の中の勇者の力はすべて失われていた。私の魂は川崎玲奈としての人生を取り戻す、あの忌まわしい記憶は徐々に失われ、中学二年生の川崎玲奈としての日々が帰ってきた。

両親と姉からは“あまり心配させないで”とお小言を貰ってしまったが、腫物として扱わず温かく見守り続けてくれた事には今でも感謝している。


「おはよう玲奈、昨日のカウントダウンTVライブ見た? マクスウェルの新しい楽曲、最高!! 私、速攻ファンクラブに入会しちゃったわよ」

「あっ、ごめん。私音楽番組はちょっと、昨日はネットチューブで“踊る大江戸捜査網”を見てたから。悪徳商人の桧家が南蛮から密貿易で手に入れたガトリング砲を使って隠密同心たちを苦しめてって、裕子聞いてる?」


「アハハハハ、ごめん、玲奈の趣味が独特だってのは分かっていたけど、普段はあまり口にしないから忘れてたわ。

でも玲奈って本当に変わってるよね、学校だといつも本を読んでる大人しめの文学少女って感じなのに、読んでる本は池波正太郎の時代物だし、休日何をしているかと思えば、スポーツチャンバラで身体を動かしてるかスポーツジムで鍛えてるかだし。磨けば光る逸材なのに勿体無い」

「う~ん、そう言われても周りに合わせて興味のないものを追い掛けるって、結構苦痛じゃないかな? 私はのんびりやりたい事をできればそれでいいかな」


あの世界での記憶は遠い過去の物語のように薄れてしまった。それは幼い子供の頃の日常を殆ど思い出せないような、実際に経験したのかも曖昧な夢の欠片。

でもあの体験は確実に私を変えてしまった。周りに対するものの見方や考え方、両親は大人びたことを言い始めた私に最初こそ驚いていたけれど、直ぐにそれは日常となり、私も周囲に埋もれるように目立たない存在へと変わっていった。


“ガラガラガラ”

「ほらお前たち、早く席に着け~。今朝のホームルームを始めるぞ~」

教室の引き戸が開き、担任教師が入ってくる。その後ろからは何故か学ランを着た男子生徒が一人。

ざわつく教室、隣の席の裕子はその男子生徒を値踏みし、「身長178、いや180。パッと見細身だけど私には分かる、アレは俗にいう細マッチョ、黒縁メガネは切れ長の鋭い目つきを隠す為のカモフラージュ? これは逸材、ぜひお友達にならねば!!」と呟いている。


「はいはい、静かにしろ。もったいぶっても仕方がないから紹介するぞ、加藤幸一君、今日からこのクラスで学ぶ転校生だ。ご両親の仕事の都合で引っ越してきたとの事だ、仲良くしてやってくれ。

加藤、自己紹介を頼む」

「はい、先生。加藤幸一です、前に住んでいた所は田舎なんでかなり戸惑っています。分からない事だらけでご迷惑をお掛けするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」


“パチパチパチパチパチ”

疎らに起きる拍手、加藤君は先生言われいつの間にか教室の後ろに用意されていた席に移動していく。


「え!? 勇者?」

加藤君が一瞬私の方を向いて、驚いたような顔をした後何かを呟いたみたいだけど、一体何だったんだろう? 裕子は裕子で「これはもしや恋の予感!?」とか呟いているし。


その後特に何があるという事もなく、加藤君は休み時間の度にクラスの男子生徒や女子生徒に囲まれ質問攻めに遭い、見かねた裕子が全体を仕切って代表答弁するという訳の分からない状況が展開されたけど、概ね平和そのもの。転校が急遽決まったので制服が間に合わなかったとか父親が転勤族とか好きな食べ物が茹で卵とかかなりプライベートな質問が飛び交っていたけど、加藤君はその辺大丈夫なんだろうか?

因みにメガネは伊達、目つきが悪くて中学生の頃は不良に絡まれまくったんだとか。当時の経験から逃げ足を鍛える為に今でもスポーツジムに通ってるとのこと。

「10時間追い回されても逃げ切る自信はある」って語る加藤君に、何とも言えない同情が集まったのは秘密だ。


それは昼休みの事、私がカバンからお弁当箱を取り出して“最近の冷食は秀逸だよな~”とか考えている時だった。


「あの、ちょっといいかな?」

駆けられた声に視線を向ければ、鼻の頭を掻きながら困ったような表情をする加藤君。


「えっと、どうしたの? あぁ、自己紹介がまだだったね。私は川崎玲奈、よろしく」

「あ、あぁ。俺は加藤幸一って言わなくても知ってるか。でも川崎玲奈って、これってただの偶然じゃないよな」

私の名前を聞いた途端、何やらブツブツと考え込む加藤君。その後ろでは裕子が「やっぱり!? 加藤君落ちちゃった? これって所謂一目惚れって奴? キャーーー♪」とか言って盛り上がってるし。

私は早くお弁当のおかずのカニクリームコロッケを・・・。


「ちょっと今から言う事は信じられないような事なんだが、確認だけさせて欲しいんだ。川崎さんは「はぁ? 何だこれ」・・・」

その声は教室の男子生徒のもの、視線の先は教室の床。


「えっ、何よこれ、何で床が光ってるのよ」

「ちょっと嘘だろう、扉が開いてるのに教室から出れないって、どうなってるんだよ!?」

それは摩訶不思議な現象、まるで見えない何かに閉じ込められているような、床に広がる光る模様が何かをしているような。


「これってもしかしなくてもアレだよな、昔深夜アニメでやっていた」

「嘘だろう~、今時こんな使い古されたネタ。でも現実ってそんなもんなのか? こんな事なら昨日回転寿司で腹いっぱいになるまで飯食っときゃよかった~」

慌てる者、嘆く者、ほくそ笑む者、クラスメートの反応はそれぞれ。そんな中加藤君は光る床を睨みつけながら「クソッたれ、ふざけんじゃねえぞ!!」と激しい怒りを露にしている。


「ねぇ加藤君、こんな時になんだけど、何か話があるんじゃないの?」

「・・・いや、すまん。川崎さんはやけに冷静だな、もしかしてこの事態を予測していたのか?」

加藤君が真剣な目で私を見つめてくる。私は肩を竦めながら言葉を返す。


「まさか、ただ中学二年の時にちょっと不思議な体験をしてね。今はよく覚えていないんだけど、何年何十年って長さの夢を見ていたみたいなの。

だからかな、それ以来あまり物事に動じなくなったというか、そんな事もあるのかなくらいにしか思えないんだよね。

裕子にはよく老成してるって言われるけど、別に困らないからいいかなって。加藤君はこの現象に何か心当たりがあるの?」

私からの質問に加藤君が大きくため息を吐いてから、「それはな」と言葉を発した時でした。


“ピカーーーーーーッ”

光る教室、床の模様が激しく光を発し、教室中が白色の光に包まれる。


「よくぞ我らの召還にお応えくださいました。私はパンテーン王国の司教ラデル・メルリック、神の思し召しによりこの地の危機を救うべく勇者様方の召還を行わせていただきました。

何卒勇者様方のお力をもちまして、この世界の平和と安寧を齎していただきたく、深く深くお願い申し上げます!!」

“““““ザッ”””””

そこはレンガ作りの薄暗い空間、部屋全体に反響するラデル司教の言葉に、クラスメートたちはざわつく暇もなく注意を引き付けられる。


“サッ”

「発言を宜しいでしょうか」

手を上げ許可を求めた者は、クラスでもリーダー的存在の男子生徒、名前は、名前は…多分斎藤…。


「うむ、どうぞ」

「はい、御許可をいただきありがとうございます。先ずは状況を確認させてください。先程ラデル司教様は「よくぞ我らの召還にお応えくださった」と仰られておりましたが、私たちは何らかの方法、神々の奇跡か、魔法か、星の導きかは分かりませんが、そうした手段によりこちらパンテーン王国に呼び出されたという認識で宜しいでしょうか?

仮にそうであれば具体的な目的や目標はあるのでしょうか、また送還の為の手段があるようでしたらお教え願いたいのですが」

それは理路整然としてとても分かり易い質問、クラスメートの誰しもが気にしていること。もしかして斎藤君は中学生の頃密かに患っていたとか? こうした状況は脳内学習済みとかそういう…。


「はい、一つずつお答えさせていただきます。先ず召喚の手段ですが、先程のお話の中にもありました神の奇跡になります。我々人類にはいくら頑張ったとしても勇者様方を召喚するような力はありません。この事は過去三千年の間に一度たりとも勇者召喚が成功していない事からも証明されております。

次に目的ですが、魔王の出現に備えてといったことになります。現在世界各地で魔物が活性化し大きな被害を出し始めています。これは我がパンテーン王国でも同様であり、世界は再びの魔王出現に怯えているといった状況です。

ではなぜ魔王が出現していないにもかかわらず勇者召喚を行ったのかといえば、魔王が出現してからでは遅いからです。勇者は確かに才能の塊です、我々がどれだけ努力しても辿り着けない領域に達する事の出来る人類最後の希望です。ですがそれは一朝一夕に叶うものではない、努力と経験によりなされるもの、共に作り上げるものなのです。

今より三千年以前、神代と呼ばれる時代には多くの魔王が発生し、人々は神と共に魔王に立ち向かってまいりました。その当時の記録から、勇者の事は広く世界に知れ渡っております。

そして最後のご質問ですが、送還の手段は分からないとしか言えません。勇者の記録には送還により異世界に帰されたという記載もあるにはあるのですが、勇者学の研究者からは歴史的整合性から捏造の可能性が高いと指摘されているからです。

ですが神代の終わり、勇者と魔王が絶対神グランドーラ様に戦いを挑んで以降勇者召喚が為されなかったことから最後の勇者は元の世界に帰ったのではないかとの憶測が残っていることは事実です。はっきりと送還できると明言できぬこと、お許しください」

そう言い深々と頭を下げるパンテーン王国の教会関係者らしき人たち。

静まり返った召喚の間、誰しもが元の世界に帰れないのではないかとの絶望に顔色を青ざめさせ、女子生徒は不安から近くの友人と手を握り合う。

そんな中、「あれから三千年だと!?」と言う加藤君の呟きが、やけに鮮明に私の耳へ飛び込んで来るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ