第37話 再びの悪夢、再びの異世界
嘗て大きな戦いがあった。それは召喚された勇者と召喚された魔王が手を組み、人々をもてあそぶ享楽にふける創造神と真っ向からぶつかり合った時代の転換点。
人々はその戦い以前を神代と呼び、世界が人々に委ねられて以降を人代と呼んだ。
それは今から三千年前の物語。
「おお、異世界の勇者様方よ、よくぞ我々の呼び掛けに応えてくださった。パンテーン王国国王ブルガリオス・パンテーンの名に於いて、勇者様方の来訪を心から歓迎しよう」
そこは真っ赤な絨毯の敷かれた煌びやかな謁見の間。召喚の儀式を行ったであろうレンガ造りの薄暗い空間とは対照的な光の輝きに、その場に連れてこられた私たちは言葉を失う。
私の個人的な感想を言わせてもらえれば、何とも言えないコレジャナイ感。普通異世界から勇者を召喚しようっていう状況って、相当に切羽詰まっているか召喚の儀式自体が常態化しているような場合だと思うんだけど、あの召喚の間でのラデル司教の話では異世界召喚に成功したのは三千年ぶりだとか。
って事は前者の相当に切羽詰まった追い詰められた状態のはずなんだけど、この謁見の間って。
私の中に薄っすらと残る異世界の記憶にある王宮も豪華ではあったけど、もっともっさりしていると言うか垢抜けてないと言うか、成金趣味でごてごてしていたような。それにこんなに周囲を眩しく照らす明かり自体がなかったような気がするんだけど。
「失礼いたします、発言をよろしいでしょうか」
私がそんなことを考えていると、我らが斎藤君が豪胆にも国王陛下に声を掛けています。何って怖いもの知らずなんだろうと思いつつ、“行け、斎藤君、もっとやれ!!”と思う私がいるこの矛盾。この場の者の全ての注目が斎藤君と国王陛下に注がれます。
「うむ、突然このような場所に呼び出されれば疑問も多い事だろう。発言を許そう、貴殿の名を教えてはくれまいか」
「はい、ご許可をいただき感謝いたします。私は三田村和彦と申します、どうぞよろしくお願いいたします。
国王陛下にお聞きしたいのは私たちの処遇です。異世界からの勇者召喚ということは、国王陛下に於かれましては私たちに戦力としての働きを期待されているものと愚考いたします。しかし残念ながら私たちは戦場に身を置いていた戦士ではなく、安穏と平和を享受していた日本国国民でございます。国王陛下に分かり易く申せば、文官見習いのようなものとお考えいただければよいかと。
そのような者たちをいきなり召し抱えられるということは、パンテーン王国としても負担でしかないかと愚考いたします。
戦いとは単に体格が良ければよいというものではなく、その力をいかに運用するかが重要でないかと考えます。それには力を振るう者の資質が問われるかと。
わが国には猫に小判ということわざがございます。いくら優れたものを持っていたとしても、その力を運用するに足りる者でなければ意味がないという寓話のようなものです。
聡明なる国王陛下には異世界人の運用を単なる兵器としてではなく、多角的な視点で考慮していただきますようお願い申し上げます」
・・・斎藤君じゃなかった、三田村君だったんだね、ごめんごめん。そんでもって三田村君って一体何者? 何か小難しい事をごちゃごちゃ言いながらも、自分たちの安全確保に必死なんですけど。
でもこれって理解できない男子とか多そうだな~、後から“俺たちがこんな目に遭ってるのは全部三田村のせいだ~!!”とか言い出したりね。
三田村君の発言を要約すれば“私たちは戦いとは無縁の人間だからいきなり戦場に連れていかれても死にます、それよりも別の活用法を考えませんか?”というもの。いくら凄い力を与えられていたとしても中身が伴わなければ宝の持ち腐れですとさりげなく伝えることで、時間稼ぎを狙っているところが憎い。
私の隣では加藤君が「アイツ、中々やるな」とか呟いています。でも今の会話を理解できるってだけで加藤君も相当だと思うよ? 私に代わってぜひ頑張っていただきたい。
「ふむ、確かに三田村殿の言うことも理解できよう。過去の文献においても召喚されし勇者が才能を発揮するには十分な訓練を行う必要があると記されておる。女神アスラーダより素晴らしきスキルを賜っているとはいえ、勇者様方をいきなり戦場に送り出すような真似はせぬことを国王ブルガリオス・パンテーンの名に於いて誓おう」
はい、ここにきて二人目の神様が登場です。ラデル司教が「勇者と魔王が絶対神グランドーラ様に戦いを挑んで以降勇者召喚が為されなかった」と言っていた事を考えると、絶対神グランドーラっていうのが所謂古の神とか旧神とか呼ばれる存在で、その神様が三千年前に敗れるか封印されるか引っ越すかしていなくなったところに女神アスラーダって神様がやってきて後を引き継いだと。
でもこの女神アスラーダって名前、何処かで聞いたことがあるような気がするんだよな~。何だったっけかな~。
「それでは勇者の皆様、こちらで皆様のお力を確認させていただきます。我々はこの女神様がお与えくださった力をスキルと呼んでおりますが、<鑑定>のスキルによってステータスを確認することで自身にどんなスキルに目覚めたのかを知る事が出来るのです」
声を上げたのはラデル司教、どうやらこの召喚の儀式に於いてラデル司教はかなりの発言権を有しているようです。
「ではお一人ずつこちらの水晶の前にいらしてください。私と一緒に水晶へ手を付けていただけますでしょうか?」
ラデル司教に促され、戸惑っていたクラスメートの中から一人の男子生徒が前に出た。
「“大いなる神よ、その慈悲を以って我に真実を教えたまえ、鑑定”」
ラデル司教が朗々と謳い上げる詠唱、水晶が淡い光を発すると謁見の間の壁に掛けられていた大きな白い布に文字が浮かび上がる。
<鑑定>
名前:後藤 雄一
種族:異世界人
年齢:十七歳
スキル 剣術 身体強化 収納 模倣
測定結果
魔力:八百六十二
闘気:千四百五十
「「「「「おぉ~~~~~~」」」」」
白い布に示されたものがステータスというものなのだろう。もっとゲームみたいに色々出てくるものと思っていたら以外にシンプル。隣では裕子が「レベルは? 魔力はMPとして闘気はHPかな? でもな~、字面から言うとSTRかDEFって可能性も。って言うかAGI極振りとか夢のキャラクリが出来ないじゃない!!」という謎の呪文を呟いている。
「これは凄い、スキルを四つもお持ちということもそうですが、魔力量が八百を超えているなど宮廷魔導士でもそうはいません。覇気が千を越えている者など騎士団長クラスの者でしかお目に掛かれない、後藤様は本当に素晴らしい!!」
ラデル司教絶賛、これは幸先がいいと言わんばかりの満面の笑みを浮かべています。後藤君も褒められてまんざらでもないのか、口元の笑いが止められないといった感じです。
その後次々と<鑑定>を行っていくクラスメートたち、謁見の間はさながらグループアイドルのお披露目会会場のように、大きな歓声に包まれていきます。
「次は三田村様ですね」
「はい、よろしくお願いします」
そして始まる我らが希望の星、三田村和彦君の鑑定です。
<鑑定>
名前:三田村 和彦
種族:異世界人
年齢:十七歳
スキル 聖剣術 複合魔術 身体強化 収納 自動回復
測定結果
魔力:千八百四十七
闘気:千七百六十
「「「「「おぉ~~~~~~、剣の勇者様だ、剣の勇者様がお越しくださった!!」」」」」
大歓声と共に羨望の目を向けるお城の皆様、三田村君はあまりの周囲の反応にドン引きといった表情をしています。
「加藤君、あれって何で大騒ぎしているのか分かる?」
「あぁ、三田村のスキル<聖剣術>のせいだろうな。異世界から召喚された者たちは一応全員勇者と呼ばれるが、その中にも優劣はある。あの聖剣術って奴は神が人類に与えた聖剣の力を十全に扱う為の必須スキルだ。あのスキルがないと聖剣はただ丈夫なだけの剣ってことになっちまう。
所謂主人公補正、チートキャラになれるってスキルだな」
お~、流石加藤君、所々に意味深な発言をする厨二病を拗らせただけの痛い男子高校生かと思いきや、何やらバックボーンのある不思議ちゃんキャラにクラスアップなさいました。
「・・・川崎、お前所々で俺のことを小馬鹿にしてるだろう?」
「そんなことないよ? と言うか今日初めて会ったばかりで、馬鹿に出来るほど加藤君の事よく知らないし。大体こんなとんでもない状況になってるのにそこまでの余裕なんかないよ~」
私は心の底からの純粋な気持ちを込めて、加藤君を見上げます。
「・・・嘘だな」
「嘘だね、玲奈がそんなか弱い女の子な訳ないじゃん」
加藤君、もうちょっと悩もう。そして裕子、何であなたが加藤君側に付くのよ、この裏切り者!!
「次の方、お願いします」
「は、はい」
そして次に水晶の前に向かったのは・・・誰だっけ?
「あっ、佐藤君だ。自称何のとりえもない平凡な高校生、でもなぜか美人で頭のいい幼馴染がいて、友人以上恋人未満のクラスメート女子がいるっていう奇跡の人」
「ブホッ、何だそのラノベ属性てんこ盛りみたいな奴は。もしかして鈍感系主人公キメてるとか言わないよな!?」
何故か突然盛り上がる裕子と加藤君。裕子が親指を立ててニヤリと笑うと「マジかよ、佐藤って奴半端ねえな」と言って戦慄する加藤君。
ごめん、私二人のノリについていけない。
<鑑定>
名前:佐藤 学
種族:異世界人
年齢:十七歳
スキル わらしべ長者 タワシ
測定結果
魔力:三十一
闘気:四十
“ザワザワザワザワ”
謁見の間にざわつきが広がり、悪い意味での注目が佐藤君に集まります。
「佐藤様、申し訳ありませんが佐藤様のスキルを再鑑定させていただいてもよろしいでしょうか? 再鑑定することで佐藤様の真のお力を知る事が出来るのですが」
「は、はい。よろしくお願いします」
ラデル司祭の言葉に了承の意を示す佐藤君。私の隣では裕子と加藤君が「これはもしや」とか「来るな。いや、ぜひ来ていただきたい!!」とか言って盛り上がっています。
<鑑定>
<わらしべ長者>
交換する事が出来る。交換には両者の合意が必要。
<タワシ>
魔力を消費してタワシを生み出す事が出来る。生み出せるタワシは魔力量に依存する。
「・・・これは何とも。生産系のスキルといったところでしょうか」
「そ、そうなんですか。ありがとうございます」
一礼をし、ラデル司教の前から下がる佐藤君。そんな佐藤君のことを蔑みの目で見る者、同情の視線を送る者、そして。
「加藤君、ついに現れましたね」
「あぁ、これはどっちに転ぶのか、追放系か復讐系か。今のところ禁断の洗脳スキルは現れていないが、十代後半のやりたい盛りの男子高校生の嫉妬は醜いからな~。城から追い出された後、スキルの真の力に覚醒してってパターンが濃厚とみた」
・・・う~ん、この二人、今の状況を完全に楽しんでるよね。なんやかんや言って最後まで生き残るのはこの二人なんじゃないかな?
私は・・・結構詰んだかも、自分がこの状況で生き残れるビジョンが浮かばないや。八十歳くらいまで生きて、静かに老衰する予定がなんだってこんなことに。私の穏やかなシルバーライフを返せ!!
「オホンッ、次の方、お願いします」
ラデル司教はわざとらしく咳ばらいをすると、まだ<鑑定>の終わっていない生徒に<鑑定>を行うよう促します。
・・・あっ、私たちのことじゃん。
「裕子、加藤君、<鑑定>を済ませていないのって私たちだけじゃないの?」
「「・・・あっ」」
周囲の視線が集まる中、私たちはそそくさとラデル司教の下に向かうのでした。
「それじゃ私から行くね」
サッと前に出たのは裕子、裕子は昔からこういう時の立ち回りが上手い。順番が最後になって変に注目されるのが嫌だったんだろう。
<鑑定>
名前:小林 裕子
種族:異世界人
年齢:十七歳
スキル 食材鑑定 料理 冷蔵庫
測定結果
魔力:百六十八
闘気:二百十五
「料理は戦いだ」
「私の包丁が火を噴くぜ!!」
「加藤君も玲奈も酷くない? えっとラデル司教様、私のスキルってのは・・・」
「・・・普通? でしょうか。一般的なパンテーン王国国民と然して変わらないくらいでしょうか」
あからさまに興味を失いながらも表面上笑顔を浮かべるラデル司祭。プロだ、流石はパンテーン王国御用達の宗教家、スルースキルが半端ない。
「あぁ~~!! 私のチート無双伝説が~」
「フッ、戦闘力たった五か、雑魚め。俺様の戦闘力は五十三万!!」
加藤君が盛大なフラグを立てながら水晶の前に歩み出る。
<鑑定>
名前:加藤 幸一
種族:異世界人
年齢:十六歳
スキル 小虫の心得 思い出アルバム 逃げ足
測定結果
魔力:百八十三
闘気:百七十五
「「「「・・・・・」」」」
一瞬の沈黙、裕子の「雑~魚、雑~魚、ねえ、どんな気持ち? 今どんな気持ち?」と言う煽り文句と「うっさい、生き残ってこその正義だろうが!!」と言う加藤君の反論の声が周囲に広がります。
「ささ、玲奈様、ここはバシッと決めちゃってください!!」
「川崎、舞台は温めておいたぞ?」
何かやたらと持ち上げてくる裕子と加藤君。あなたたち今日初めて会ったんだよね? コミュ力お化けなの? 私にはまねできないよ、パトラッシュ。
「それではよろしいでしょうか?」
「お騒がせして申し訳ありません。それと私で最後ですね、長い時間お疲れ様でした」
私はラデル司教に一礼すると、水晶に両手をつきます。
<鑑定>
名前:川崎 玲奈
種族:異世界人
年齢:十七歳
スキル 虫使い 召還(虫) 給餌
測定結果
魔力:百五十二
闘気:百六十八
「「仲間~♪」」
こうして私たち三人は謁見の間という大舞台で、落ちこぼれ三人衆として認識されることになったのでした。




