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スイッチ 〜前人未到の夢の道導〜  作者: はまちゃん


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24/26

強豪大京高校

三日後。


安条高校・グラウンド。


春季大会三回戦前日。


空気は一回戦とは違っていた。


「勝ち残ったチーム」の重さが、全員の肩に乗っている。


⸻


古田監督が、スタメン表を手にする。


一人ずつ、淡々と読み上げていく。


⸻


「一番、ショート 三谷碧(三年)」


「二番、レフト 柳田隼人(二年)」


「三番、セカンド 馬能龍太(三年)」


「四番、キャッチャー 飯塚義信(三年)」


「五番、ファースト 成宮要(三年)」


⸻


ここまでは変わらない。


だが次で、空気がわずかに動く。


⸻


「六番、サード 中尾銀(一年)」


⸻


中尾銀は一歩だけ前に出る。


表情は変えない。


でも、目の奥が少しだけ鋭くなる。


⸻


(下位じゃない)


(“中軸に近づいてきてる”)


⸻


「七番、ライト 矢部愛斗(二年)」


「八番、センター 米内舞(三年)」


⸻


そして——


⸻


監督は一瞬だけ間を置く。


視線が、少しだけベンチの奥へ向く。


⸻


「九番、DH 嶋口勝」


⸻


一瞬の静寂。


⸻


観客がいるわけではない。


それでも、空気が変わるのが分かる。


中尾銀の視線も、わずかに動く。


⸻


(来たか)


⸻


さらに続く言葉。


⸻


古田監督「そして」


⸻


「ピッチャー 最奥海斗」


⸻


ざわつきは起きない。


代わりに、納得の沈黙。


⸻


古田監督「連戦にはなるが頼んだぞ、エース」


⸻


最奥「……はい」


短く、低く。


⸻


ベンチの空気が締まる。


三谷が腕を組む。


三谷「DHか、嶋口」


米内「打撃だけで使うってことだな」


飯塚「試されてるな」


⸻


その少し離れた場所。


嶋口勝は、バットを握っていた。


何も言わない。


だが、内側でははっきりしている。


⸻


(打てるかどうかじゃない)


(使われるかどうかでもない)


⸻


(結果を出す場所が、変わっただけだ)


⸻


中尾銀が横目で見る。


中尾「おい」


嶋口「んだよ」


中尾「やっと“仕事”来たな」


⸻


嶋口は軽く笑う。


嶋口「ああ」


嶋口「待ってただけだ」


⸻


そのやり取りを見て、飯塚が小さく息を吐く。


飯塚「いいバッテリーじゃなくて」


飯塚「いい“二枚看板”だな、あいつら」


⸻


ベンチの外では風が吹く。


まだ春なのに、少しだけ熱い。


⸻


嶋口(DH)


嶋口(打つだけなら、シンプルだ)


⸻


嶋口(なら——)


⸻


嶋口(見せるだけだ)


⸻


試合前夜。


チームは静かに、次の一戦へと準備を進めていた。


三回戦。


対・大京高校。


スコアは三回裏。


0-0。


息の詰まる投手戦が続いていた。


⸻


そして——


三回裏。


安条高校の攻撃。


ツーアウト。


ランナー一塁。


⸻


球場の空気が、少しだけ重くなる。


観客席が静まり始める。


「ここ、動くぞ」

そんな予感だけが漂っていた。


⸻


アナウンスが響く。


「DH、嶋口くん」


⸻


一瞬、ざわつく。


観客A「また出た」

観客B「DHってことは……打つだけか」


⸻


嶋口はベンチから立ち上がる。


バットを握る手は、いつもより軽い。


(シンプルだな)


(打つか、終わるか)


⸻


ベンチでは飯塚が小さく声を出す。


飯塚「ランナーは動かすな。まず一本だ」


三谷「回せばいい。こいつならいける」


中尾銀は何も言わない。


ただ、打席を見ている。


⸻


嶋口がバッターボックスに入る。


対峙するのは大京高校のエース。


ゆっくりと投球動作に入る。


⸻


初球。


⸻


シュッ!!


速い。


外角高め。


嶋口は見送る。


⸻


審判「ストライク!」


⸻


観客「おお……」


空気が少しだけ引き締まる。


⸻


嶋口(速いな)


嶋口(でも——見える)


⸻


二球目。


内角低め。


⸻


振りかぶる。


嶋口(ここだ)


⸻


踏み込む。


バットを振る。


⸻


カァン!!


乾いた音。


打球は鋭く、三遊間へ。


⸻


ショートが飛びつく。


グラブに当てる。


しかし——弾く。


⸻


ランナー動く。


三塁コーチが腕を回す。


⸻


中継プレー。


一塁送球。


ギリギリのタイミング。


⸻


審判「セーフ!!」


⸻


一塁ベース上。


嶋口は静かにガッツポーズを小さく握る。


⸻


スタンドがざわつく。


観客A「今のうまいな……」

観客B「DHなのに守備崩すヒットかよ」


⸻


ベンチが一気に立つ。


飯塚「よし!繋いだ!」


三谷「ここからだ!」


中尾銀は、バットを軽く叩く。


中尾(やっぱ持ってるな)


⸻


そして嶋口は一塁上で空を見る。


嶋口(打てる)


嶋口(どっちでも、結果は出せる)


⸻


風が少しだけ強くなる。


試合は、まだ動き始めたばかりだった。

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