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スイッチ 〜前人未到の夢の道導〜  作者: はまちゃん


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22/26

存在感

試合当日。


春季大会・二回戦。


対戦相手は壁南高校。


球場には朝から独特の緊張感が漂っていた。


⸻


後攻・安条高校。


守備位置へ散る選手たち。


そして——スタメン発表。


「一番、ショート 三谷碧(三年)」


「二番、レフト 柳田隼人(二年)」


「三番、セカンド 馬能龍太(三年)」


「四番、キャッチャー 飯塚義信(三年)」


「五番、ファースト 成宮要(三年)」


「六番、センター 米内舞(二年)」


「七番、ライト 矢部愛斗(二年)」


「八番、ピッチャー 最奥海斗(三年)」


そして——


「九番、サード 中尾銀(一年)」


⸻


昨日の予告通りのオーダー。


それでも実際に放送されると、空気は変わった。


⸻


観客A「マジで一年入れてるじゃん」

観客B「しかもスタメン……9番とはいえヤバいな」


⸻


スタンドがざわつく。


スコアボードの前で、視線が一点に集まる。


中尾銀。


⸻


ベンチでは飯塚が腕を組む。


飯塚「いいか、最初は“空気”を作る」


最奥「俺が全部抑える。お前らは点取れ」


三谷「了解」


⸻


その中で、中尾は静かにグラブを握っていた。


中尾(来たな)


中尾(ここが序列の“現実”か)


⸻


一方、スタンドの一角。


凛は腕を組んで見ている。


凛「やっぱりこうなるか」


⸻


球場アナウンスが響く。


「プレイボール!」


⸻


一回表。


壁南高校の攻撃。


最奥海斗がマウンドに立つ。


初球。


シュッ!!


ズバン!!


ストライク。


観客がどよめく。


観客「速い……!」


⸻


その裏。


安条高校の攻撃へ。


ベンチの空気が少しだけ張る。


中尾がバットを肩に置く。


飯塚「まずは流れ作るぞ」


三谷「一発で崩す必要はない」


⸻


そして、打席へ向かう中尾銀。


九番打者。


一年。


それでも視線は集まっていた。


観客「ほんとに打たせるのかよ……」

観客「監督、何考えてんだ」


⸻


中尾は一度だけ空を見上げる。


そしてバットを握り直す。


中尾(ここだ)


中尾(“ただの一年”かどうか)


中尾(見せてやる)


⸻


バットを構える。


相手投手・最奥海斗。


冷たい視線。


初球。


振りかぶる。


⸻


試合は、静かに動き始めていた。


中尾銀の初打席は、空振り三振で終わった。


球場の空気は一瞬だけ揺れたが、すぐに戻る。


「まあ一年だしな」

「相手ピッチャーがいい」


そんな声が、観客席のあちこちから漏れていた。


⸻


それでも安条高校は崩れなかった。


むしろ、そこからだった。


守備が締まる。


内野が一歩もミスをしない。


外野が一歩も迷わない。


打線は派手ではないが、確実につないでいく。


⸻


6回終了。


スコアボードは静かに示していた。


6-0


完全に安条ペース。


⸻


ベンチでは飯塚が腕を組む。


飯塚「いいぞ、このまま終わらせる」


最奥「まだ投げられる」


三谷「守備は完璧だな」


米内「怖いくらいに噛み合ってる」


⸻


そして7回裏。


⸻


アナウンスが響く。


「サード、中尾銀くん」


⸻


一瞬、空気が変わる。


観客席がざわつく。


観客A「さっき三振の一年だろ」

観客B「また出すのか?」


⸻


中尾銀はバットを持って立ち上がる。


ゆっくりと打席へ向かう。


飯塚「気楽にいけ」


三谷「一本くらい当ててこい」


だが、中尾は何も返さない。


⸻


バッターボックスに入る。


砂を踏む音。


静寂。


⸻


相手投手が振りかぶる。


初球。


⸻


カキィン!!


⸻


一瞬だった。


誰も動けなかった。


打球は高く、高く舞い上がる。


左翼方向。


そのまま——


スタンドへ吸い込まれる。


⸻


静寂のあと、爆発。


観客「ええええええ!?」

観客「入った!?今の!?一年が!?」


⸻


審判の右手が上がる。


ホームラン。


スコアボードが動く。


7-0


⸻


ベンチが一気に立ち上がる。


飯塚「おいおい……!」


三谷「マジかよ」


米内「持ってるな、あいつ」


⸻


中尾銀は、ダイヤモンドをゆっくり回る。


顔は変わらない。


ただ一言だけ。


中尾(これでいい)


⸻


そして試合はそのまま動かない。


最奥海斗が最後を締める。


三者凡退。


⸻


審判の声。


「ゲームセット!」


⸻


7-0。


コールド勝ち。


⸻


歓声の中で、ベンチが揺れる。


飯塚「よし、まず一つだ」


三谷「危なげなし」


最奥「悪くない初戦だ」


⸻


その中心で、中尾銀はバットを握りしめていた。


嶋口がいなくても。


右がなくても。


⸻


中尾(俺はここにいる)


⸻


そしてその光景を、スタンドの凛が静かに見ていた。


凛「……面白くなってきたじゃん」


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