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スイッチ 〜前人未到の夢の道導〜  作者: はまちゃん


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21/26

評価

その日の帰り。


寮の廊下は、練習後の静けさに包まれていた。


スパイクの音も、掛け声もない。


ただ、遠くで誰かのシャワーの音が響くだけだった。


嶋口が部屋に向かって歩いていると、後ろから声がかかる。


「嶋口」


振り返ると、米内舞と三谷碧が立っていた。


ユニフォームのまま、軽く汗を拭っている。


米内「嶋口、ベンチ入りか。すごいな」


嶋口「……そうなんですか?」


三谷は少し笑う。


三谷「そうなんですか、じゃないだろ」


三谷「春大はベンチ入りすら一年が入らない年もある」


米内「普通は“練習要員”で終わる」


米内「そこで名前が呼ばれるってのは、それなりに評価されてるってことだ」


嶋口は少しだけ視線を落とす。


嶋口(評価、か)


だが、素直に喜べる感情でもなかった。


嶋口「でも試合には出ないです」


三谷「監督の判断だろ」


三谷「それも含めて“序列”だ」


米内は壁にもたれながら続ける。


米内「まあ、最奥が投げるしな」


米内「エース枠はあっちだ」


その名前に、嶋口の目がわずかに動く。


嶋口(最奥海斗)


嶋口(今の安条の“答え”か)


三谷は少しだけ嶋口を見た。


三谷「でもさ」


三谷「ベンチに入る1年ってのは、だいたい後で化けるやつだよ」


嶋口「根拠は?」


三谷「勘」


米内「軽いな」


三谷「でも当たる」


少しだけ空気が緩む。


嶋口は小さく息を吐いた。


嶋口「まぁ、出番ないならないでいいです」


米内「ふーん?」


嶋口「見てる方が学べることもあるんで」


その言葉に、三谷が少しだけ目を細める。


三谷「いい顔してるな」


嶋口「は?」


三谷「“出られないやつ”の顔じゃない」


米内「それはちょっと分かる」


嶋口「うるさいですね」


軽く返すが、どこか落ち着かない。


そのとき、廊下の奥から声がする。


凛「嶋口ー」


嶋口「……なんでいるんだよ」


凛「寮見学」


三谷「自由だなこの学校」


米内「関係者なのか?」


凛「未来の関係者」


嶋口「意味わかんねぇ」


凛は嶋口の横に並ぶ。


凛「ねえ」


嶋口「なんだよ」


凛「ベンチってさ」


凛「一番冷静に試合見れる場所だよね」


嶋口は一瞬だけ黙る。


嶋口「……それ慰め?」


凛「違う」


凛は少しだけ笑う。


凛「“準備席”」


その言葉が、少しだけ胸に残る。


三谷が廊下の先へ歩き出す。


三谷「じゃあな、準備席の一年」


米内「頑張れよ」


二人の背中が遠ざかる。


凛は小さく肩をすくめる。


凛「ほら、悪くないじゃん」


嶋口は廊下の窓の外を見る。


グラウンドのライトが遠くに見える。


嶋口ベンチか


嶋口いいじゃねぇか


嶋口(全部見える場所だ)


そして、ゆっくり歩き出す。


次に自分が立つ場所を、もう一度確かめるように。

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