ベンチ入り
数日後。
春季大会・二回戦前日。
安条高校グラウンド。
夕方の空気は冷たく、金属バットの音だけが遠く響いていた。
全員が整列する。
古田監督が、一枚の紙を手にする。
「スタメンを発表する」
一瞬で、空気が張り詰めた。
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「三年、1番ショート 三谷碧」
「二年、2番レフト 柳田隼人」
「三年、3番セカンド 馬能龍太」
「三年、4番キャッチャー 飯塚義信」
中尾銀の視線がわずかに動く。
(主将、4番か……)
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「三年、5番ファースト 成宮要」
「二年、6番センター 米内舞」
「二年、7番ライト 矢部愛斗」
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ここまで来て、空気がさらに重くなる。
そして——
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「三年、8番ピッチャー 最奥海斗」
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ピッチャーの名前が呼ばれた瞬間、数人が息を呑む。
(エースは最奥か……)
(嶋口じゃない)
中尾の拳が少しだけ握られる。
そして最後。
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「一年、9番サード 中尾銀」
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一瞬、静寂。
そのあと、小さなざわめき。
「1年でスタメン……?」
「でも9番か」
中尾銀は一歩前に出る。
中尾「はい!」
声はまっすぐだった。
だが内心は違う。
中尾
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古田監督は視線を外さない。
古田「いいか」
古田「春大は“育成の場”じゃない」
古田「勝つための場だ」
古田「使えるやつだけが残る」
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その言葉のあと、少しだけ間が空く。
そして——
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古田「嶋口」
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空気が変わる。
中尾の視線も上がる。
嶋口「はい」
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古田「お前は今回はベンチだ」
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ざわっ。
明確な反応がグラウンドに広がる。
「え、あの嶋口が?」
「スイッチピッチャーだろ?」
中尾は一瞬だけ監督を見る。
だが、何も言わない。
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古田「理由は分かるな」
嶋口「……はい」
嶋口(右は封印)
嶋口(左はまだ“完成扱いじゃない”)
古田「以上だ」
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解散。
それでも誰もすぐには動かなかった。
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中尾が近づく。
中尾「おい」
嶋口「気にすんな」
中尾「気にするだろ普通」
嶋口は軽くグローブを持ち上げる。
嶋口「別に終わってねぇし」
中尾「……だよな」
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少し離れた場所で、凛が腕を組んで見ている。
凛「なるほどね」
小さく笑う。
凛「監督、わかりやすく試してきてるじゃん」
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嶋口は空を見た。
嶋口
嶋口(じゃあ見てろ)
嶋口(“左だけの俺”を)
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春の空は、静かに広がっていた。




