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スイッチ 〜前人未到の夢の道導〜  作者: はまちゃん


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20/26

ベンチ入り

数日後。


春季大会・二回戦前日。


安条高校グラウンド。


夕方の空気は冷たく、金属バットの音だけが遠く響いていた。


全員が整列する。


古田監督が、一枚の紙を手にする。


「スタメンを発表する」


一瞬で、空気が張り詰めた。


⸻


「三年、1番ショート 三谷碧」


「二年、2番レフト 柳田隼人」


「三年、3番セカンド 馬能龍太」


「三年、4番キャッチャー 飯塚義信」


中尾銀の視線がわずかに動く。


(主将、4番か……)


⸻


「三年、5番ファースト 成宮要」


「二年、6番センター 米内舞」


「二年、7番ライト 矢部愛斗」


⸻


ここまで来て、空気がさらに重くなる。


そして——


⸻


「三年、8番ピッチャー 最奥海斗」


⸻


ピッチャーの名前が呼ばれた瞬間、数人が息を呑む。


(エースは最奥か……)


(嶋口じゃない)


中尾の拳が少しだけ握られる。


そして最後。


⸻


「一年、9番サード 中尾銀」


⸻


一瞬、静寂。


そのあと、小さなざわめき。


「1年でスタメン……?」

「でも9番か」


中尾銀は一歩前に出る。


中尾「はい!」


声はまっすぐだった。


だが内心は違う。


中尾(ここからだな)


⸻


古田監督は視線を外さない。


古田「いいか」


古田「春大は“育成の場”じゃない」


古田「勝つための場だ」


古田「使えるやつだけが残る」


⸻


その言葉のあと、少しだけ間が空く。


そして——


⸻


古田「嶋口」


⸻


空気が変わる。


中尾の視線も上がる。


嶋口「はい」


⸻


古田「お前は今回はベンチだ」


⸻


ざわっ。


明確な反応がグラウンドに広がる。


「え、あの嶋口が?」

「スイッチピッチャーだろ?」


中尾は一瞬だけ監督を見る。


だが、何も言わない。


⸻


古田「理由は分かるな」


嶋口「……はい」


嶋口(右は封印)


嶋口(左はまだ“完成扱いじゃない”)


古田「以上だ」


⸻


解散。


それでも誰もすぐには動かなかった。


⸻


中尾が近づく。


中尾「おい」


嶋口「気にすんな」


中尾「気にするだろ普通」


嶋口は軽くグローブを持ち上げる。


嶋口「別に終わってねぇし」


中尾「……だよな」


⸻


少し離れた場所で、凛が腕を組んで見ている。


凛「なるほどね」


小さく笑う。


凛「監督、わかりやすく試してきてるじゃん」


⸻


嶋口は空を見た。


嶋口(ベンチか)


嶋口(じゃあ見てろ)


嶋口(“左だけの俺”を)


⸻


春の空は、静かに広がっていた。

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