表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された宮廷菓子師は、辺境の厨房で幸せを焼く  作者: 歩人
王都の毒と蜜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/42

第25話: 話にならん

 あの人が——歩いている。


 王都の菓子店街、通称「甘味小路」の石畳の上を。擦り切れた伯爵服の背筋をぴんと伸ばして、まるで今も自分の領地を歩いているかのような足取りで。


 リゼットは思わず、荷物を抱えたまま立ち止まった。




 予選から一夜が明けていた。


 結果は通過——だが、順位は低かった。「技術は認めるが、素材が貧弱」。審査員の講評が、まだ耳の奥にこびりついている。


 悔しい。悔しいけれど、反論の言葉が見つからない。辺境の霜花蜜も、焙煎黒胡桃も、王都の審査員には「聞いたこともない素材」でしかなかった。


 本選に向けて改良しなければならない。そのためにまず、王都の菓子を知る必要があった。敵を知らなければ、勝ちようがない。


 だから今日、一人で菓子店街に来た。


 セドリックは辺境伯としての公務——王都の役人への表敬訪問——があると言っていた。「面倒だが、仕方がない」と、あの仏頂面で出かけていった。


 一人の方が、気楽に歩ける。菓子師の目で店を一軒一軒見て回りたかったから。


 甘味小路は、リゼットの記憶よりもさらに華やかになっていた。


 色とりどりのショーウインドウ。砂糖細工の花が飾られた店先。焼きたてのマドレーヌの香りが路地に漂い、ボンボンの箱を抱えた令嬢たちが笑い合っている。


 王都の菓子文化は——やはり、圧倒的だった。


 素材の種類が違う。砂糖の等級だけで五種類。バターは北部産と南部産を使い分け、卵は鶏の品種まで指定する。辺境では想像もつかない贅沢が、ここでは「当たり前」だった。


 リゼットは一つ一つの店を覗きながら、頭の中でレシピを組み立てていた。あの焼き色の出し方、このクリームの質感、生地の層の厚み——菓子師の目は、ショーウインドウ越しでも多くのことを読み取る。


 三軒目の角を曲がったとき——見覚えのある背中が、目に入った。




 ギルベール・フォン・メルヴェーユ。


 元メルヴェーユ伯爵。リゼットの父。


 昨日の予選でも顔を合わせた。相変わらずの毒舌で、リゼットの菓子をこき下ろして去っていった。


 今——父は、一軒の菓子店の前に立っていた。


 小さな店だった。甘味小路の中でも端の方、路地裏に近い場所。派手な看板もなく、ショーウインドウの飾りも控えめ。だが、店先から漂う香りが——違った。


 バターと卵の、素朴だが確かな香り。焼きたての菓子が持つ、飾りようのない本物の匂い。


 リゼットの鼻が——反応した。


 いい香りだ。砂糖細工で飾り立てた宮廷菓子とは違う。素材そのものの香りが、真っ直ぐに届いてくる。


 父は店の扉を開けて中に入った。


 リゼットは——迷った。


 追いかけるべきか。それとも、見なかったことにして立ち去るべきか。


 足が——動いた。


 店の前まで近づいて、窓越しに中を覗く。覗き見なんて、伯爵令嬢の——いや、元伯爵令嬢のすることではない。分かっている。でも、足が止まらなかった。


 店の中は狭かった。木のカウンターが一つ。椅子が四つ。壁には古い焼き型が飾られている。


 父は——カウンターの前に座っていた。


 背筋は伸びている。擦り切れた伯爵服の襟を正し、袖口のほつれを隠すように腕を組んでいる。どれだけ落ちぶれても——あの姿勢だけは、変わらない。


 白髪交じりの店主が、皿を差し出した。


 小さなフィナンシェが一つ。焼き色は濃い目の金色。シンプルな、何の飾りもない焼き菓子。


 父がそれを手に取った。


 そして——食べた。


 リゼットは息を詰めた。


 父の目が——変わった。


 普段の皮肉げな細目ではない。瞳が開いて、光を受けて、琥珀色が深くなる。口の中で菓子を転がし、噛み、味を解き、飲み込むまでの一連の動作に——一切の無駄がない。


 批評家の目だ。


 リゼットは菓子師として、何百人もの人が菓子を食べる姿を見てきた。喜ぶ顔、微妙な顔、お世辞の笑顔——全部見てきた。


 父の食べ方は、そのどれとも違った。


 味を「聴いている」。そうとしか表現できない真剣さで、一つの小さなフィナンシェと向き合っている。


「——いかがですか、伯爵」


 店主が訊いた。「伯爵」。爵位はもうないのに、この店主は父をそう呼んでいる。


 父が口を開いた。


「焦がしバターの香りは良い。だが焼き時間が二十秒ほど長い。中心のなま残りが消えている。フィナンシェの命は外の殻と中の半生はんなまの境界線だ。それが——ない」


 辛辣。いつもの父だ。


 だが店主は——怒らなかった。むしろ、身を乗り出した。


「やはりそうですか。実は先月から窯を替えまして、火の回りが変わったんです。何度調整しても以前の焼き上がりにならなくて」


「窯を替えた? 馬鹿なことを。窯は道具ではない、相棒だ。付き合い方を一から覚え直せ」


「はは……伯爵は手厳しい。でもありがたい。ここまではっきり言ってくれる方は、もう伯爵くらいですよ」


 店主が笑った。温かい笑みだった。


 リゼットは窓の外で——唇を噛んでいた。


 落ちぶれて、爵位を失って、修道院からも飛び出して。金もなく、住む場所もなく、旧知の食客として暮らしている男。


 なのに——菓子を食べるときだけは、あんな目をする。


 あんな真剣な、あんな鋭い目を。


 呆れる。呆れるけれど——少しだけ、胸の底が温かくなった。


 生きている。あの人は、ちゃんと生きている。




 もう一軒。


 父はさらに奥の路地の菓子店に入った。リゼットは少し距離を置いて、後を追った。自分でも何をしているのか分からなかった。父の食べ歩きを尾行する娘。間抜けだ。


 二軒目は少し大きな店だった。ここでも店主が父を迎えた。


「メルヴェーユ伯爵、お待ちしておりました。今日は新作をお持ちしたんですよ」


 白い皿に載せられた菓子は、洋梨のタルトだった。表面に薄いカラメルの膜がかかり、スライスされた洋梨が扇のように並んでいる。


 父が一口食べて——目を閉じた。


「カラメルの火入れは悪くない。だが洋梨が負けている。カラメルの苦味が果実の甘味を殺している。順番が逆だ。先に洋梨を食べさせてから、カラメルで締めろ」


「なるほど……層の順序を変えるということですね」


「当たり前だ。味は音楽と同じだ。序奏と終曲を間違えれば台無しになる」


 店主が嬉しそうにメモを取っている。


 リゼットは——驚いていた。


 父の批評は、辛辣だが——的確だ。昨日の予選の感想と同じだ。言い方は最悪。でも中身は——正しい。


 あの人は、菓子を「作れない」。包丁も持てない。卵も割れない。自分で一つの菓子も焼けない人間だ。


 なのに——菓子の欠点を言語化する能力は、リゼットが知るどんな菓子師よりも優れている。


 食べることだけは一流。食べることだけで生きている男。


 呆れる。本当に、呆れる。


 でも——。


「伯爵夫人がご存命の頃は、よく奥様の菓子をお持ちいただきましたね」


 店主が——何気なく言った。


 リゼットの足が——止まった。


 伯爵夫人。母——エレーヌ。


「伯爵夫人の焼き菓子は格別でした。特にあの焼きりんごは、うちの店でも真似しようとしましたが、どうしても同じ味が出なくて」


 父の手が——止まった。


 タルトを持つ手が、ほんの一瞬だけ——震えた。


「……昔の話だ」


 声が——低かった。いつもの尊大な調子ではない。押し殺したような、硬い声。


「そうですね、もう五年……」


「昔の話だと言っている」


 遮った。鋭く、短く。


 店主は口を閉じた。


 沈黙が流れた。


 父はタルトの残りを口に運んだ。だが——さっきまでの真剣な目は、消えていた。味を聴いているのではなく——ただ、食べている。何かを振り払うように。


 リゼットは窓の外で——動けなかった。


 母のこと。


 母の菓子のこと。


 父がどんな顔をしているか、窓越しでは見えなかった。見えなくて——よかった。見てしまったら、きっと——何か、壊れてしまいそうだった。


 父は——母の味を、まだ覚えている。


 五年経っても。爵位を失っても。修道院を飛び出しても。菓子店を食べ歩いて、辛辣な批評を振りまいて、食客として転がり込んで——それでも。


 あの人は、母の味を探している。


 リゼットの目の奥が、じんと熱くなった。


 同時に——気づいた。


 父の「批評舌」。味の欠点を一瞬で見抜き、言葉にする能力。


 わたしの「絶対味覚」。素材の品質、火加減の微差を舌で読み取る能力。


 似ている。


 形は違うけれど——根は、同じだ。


 父から——受け継いだものが、ある。認めたくないけれど。あの偏屈で口うるさくて、一度も「美味しい」と言ってくれなかった人から——わたしは、舌を受け継いでいる。


 その事実が——複雑で、苦くて、でもどこか——温かかった。




「——お前」


 声が降ってきた。


 リゼットは飛び上がった。


 父が——店の前に立っていた。いつの間に出てきたのか。琥珀色の目が、リゼットを見下ろしている。皮肉げに細められた、いつものあの目。


「な——」


「何をしている。人の食事を覗き見とは、品性が知れるな」


 顔が熱くなった。見つかった。完全に、見つかった。


「べ、別に覗き見なんて——たまたま通りかかっただけで——」


「たまたま二軒続けて、偶然にも私の後ろを歩いていたと?」


「……」


 反論できない。


 父が鼻を鳴らした。


「まあいい。ちょうど良い。お前に言うことがある」


「言うこと?」


「昨日の予選の菓子の話だ」


 リゼットは身構えた。また批判だ。分かっている。あの人の口から出てくるのは、いつだって——


「話にならん」


 来た。


「あの霜花蜜のマドレーヌ——素材は悪くない。私が知る限り、あの蜂蜜の香りは王都のどの蜜にも勝る。だがお前はそれを殺している」


「殺して……?」


「蜂蜜の使い方が素人だ。生地に練り込んでどうする。あの蜜は加熱すると香りが立つ特性があるだろう。なぜ焼成後に使わない。仕上げのグラサージュに、温めた蜜をひと刷毛。それだけで香りが二倍になる」


 リゼットは——言葉を失った。


 正しい。


 霜花蜜の特性を、父は一口食べただけで見抜いている。加熱で香りが立つ。それはリゼットも知っていた。でも、マドレーヌの生地に練り込む以外の方法を——考えていなかった。


 グラサージュ。焼き上がりの表面に薄く蜜を塗る仕上げ。そうすれば、焼成の熱で蜜の香りが表面に閉じ込められる。食べた瞬間にまず蜜の香りが鼻を抜けて、次に生地の甘味が追いかけてくる。


 二段構え。


「それから黒胡桃だ。焙煎が浅い。お前は胡桃の香ばしさを出そうとしているのだろうが、浅煎りでは油が出きらない。深煎りにして油を出し切れ。そうすれば——」


「砕いたときに粉末状になって、生地に均一に散る……」


 父が——止まった。


 リゼットの口から続きが出てきたことに、一瞬だけ目を見開いた。


「……ふん。分かっているなら最初からやれ」


「分かっていませんでした。今——お父様の話を聞いて、初めて」


 口が滑った。


 「お父様」。


 三年ぶりに、その言葉を口にした。王都を追放されてから一度も——呼んでいなかった。


 父の眉がぴくりと動いた。


 だが——何事もなかったかのように、続けた。


「素材は認めてやる。あの蜂蜜と胡桃は、王都にはないものだ。だが素材が良いだけでは菓子にはならん。素材の声を聴け。お前にはその耳があるはずだ——」


 言いかけて——止まった。


 自分が何を言ったか、気づいたような顔だった。


「……いや。私は菓子の批評をしているだけだ。お前の心配などしていない」


 早口だった。


 動揺すると早口になる。父のその癖を、リゼットは知っている。幼い頃から、ずっと知っている。


「お前のためではない。あの品評会に出された菓子があの程度では、審査員の舌が腐る。観客の一人として、最低限の水準を求めているだけだ」


 言い訳が長い。言い訳が長いのも、父の癖だ。


 リゼットは——笑いそうになった。


 笑ってはいけない。笑ったら父は怒る。怒って二度と口を利いてくれなくなるかもしれない。


「……ありがとうございます」


「礼など言うな。私は批評をしただけだ」


「はい。批評を——参考にさせていただきます」


 父が鼻を鳴らした。


「参考にする程度では話にならん。完璧に仕上げろ。メルヴェーユの名を背負っている以上——」


 また——止まった。


 メルヴェーユの名。もう意味のない、剥奪された家の名。それを口にした自分に気づいて、父の口が硬く閉じられた。


「……もう行く。食べ歩きの予定が詰まっている」


 背を向けた。


 擦り切れた伯爵服の背中。でも——姿勢は崩れない。くすんだ金髪が秋風に揺れている。


 あの背中を見送りながら——リゼットの頭の中では、もうレシピが動き始めていた。


 霜花蜜のグラサージュ。深煎りの黒胡桃。素材の声を聴け——。


 悔しい。悔しいけれど、頭の中で菓子が形を変えていく。父の言葉が触媒になって、新しいレシピが組み上がっていく。


 あの人の舌は——確かだ。




「——遅かったな」


 宿に戻ると、セドリックが食堂にいた。


 公務から戻っていたらしい。質素な革鎧の上に外套を羽織ったまま、不機嫌そうな顔で椅子に座っている。王都の役人との面会は、よほど疲れたのだろう。


「すみません。菓子店街を歩いていたら遅くなって」


「……ああ」


 セドリックの青灰色の目が——リゼットの顔をじっと見た。


「何かあったか」


「え?」


「目が赤い」


 リゼットは慌てて目元に触れた。泣いてはいない——はずだ。でも、目の奥の熱は残っている。


「いえ、何も——」


「嘘だな」


 短い。でも確信に満ちた声だった。


 リゼットは——諦めた。この人は、ごまかしが利かない。


「……お父様に、会いました」


「あの男か」


 セドリックの目が鋭くなった。予選の後、ギルベールがリゼットの菓子を酷評した場面を、この人も見ていた。


「あの男は——お前の父だと言ったな」


「はい」


「お前が菓子を作るのを反対していたのか」


 リゼットは頷いた。


「『伯爵令嬢が厨房に立つなど』と。小さい頃から——ずっと」


 沈黙が流れた。


 セドリックは何も言わなかった。ただ——じっと、リゼットを見ていた。


「……でも今は関係ありません。わたしはもう伯爵令嬢ではないし、父に反対されても——菓子を作るのをやめるつもりはありませんから」


 リゼットの声は——自分でも驚くほど、強かった。


 セドリックが黙って頷いた。


 小さな頷き。一度だけ。


 その頷きの中に——何があるのか、リゼットには分かるような気がした。


 この人も——父を失っている。三年前の戦いで。


 父を失った者と、父に裏切られた者。事情は全く違う。でも——「父」という存在の重さを知っている者同士の、言葉にならない共鳴が——そこにあった。


「……あの男の批評は」


 セドリックが口を開いた。


「当たっているのか」


 リゼットは——少し笑った。


「悔しいですけど——はい。的確です。素材の使い方について、とても具体的な指摘をもらいました」


「そうか」


「蜂蜜の塗り方と、胡桃の焙煎を変えてみます。本選までに——」


「……やれ」


 短い。いつもの、ぶっきらぼうな声。


 でも——「やれ」の中に、信頼が含まれていた。お前ならできる、と言外に言っている。あの焼きりんごの時と同じ温度が——あの一語に、詰まっていた。


「はい」


 リゼットは頷いた。


 宿の窓から、甘味小路の方角に夕日が落ちていくのが見えた。菓子店の看板が、茜色の光に照らされている。


 どこかの店で——父は、まだ菓子を食べ歩いているのだろうか。


 あの真剣な目で。あの批評家の舌で。亡き妻の味を、どこかに探しながら。




 夜。


 宿の小さな机に向かって、レシピ帳を開いた。


 ペンを持つ指に、火傷の跡が光っている。菓子師の勲章。母にもあった。母の指にも、小さな火傷の跡がいくつもあった。


 書き始めた。


『改良案——霜花蜜のマドレーヌ(本選用)』


 一、霜花蜜は生地に練り込まない。焼成後、温めた蜜で表面をグラサージュ。

 二、黒胡桃は深煎り。油を出し切り、粉末にして生地に均一に散らす。

 三、焼き時間を十秒短縮。中心部の半生感を残す。


 ペンが止まらなかった。


 父の批評が——正確すぎるのだ。言われてみれば、全て「そうだ」と思うことばかり。なぜ気づかなかったのか。自分で作っているからだ。作り手の思い入れが邪魔をして、客観的に見られなくなっていた。


 父は——作れない。でも、食べることができる。食べて、味を分解して、言葉にすることができる。


 それは——菓子師とは違う種類の才能だ。


 わたしの絶対味覚は、素材の声を聴く力。父の批評舌は、菓子の欠点を聴く力。聴くものが違うだけで——根は、同じ。


 母は——両方を持っていたのかもしれない。素材の声を聴き、自分の菓子の欠点にも気づける人。だから父の舌を満足させる唯一の人だった。


 わたしも——なれるだろうか。


 レシピ帳に視線を落とした。改良案がびっしりと並んでいる。父の批評から導き出した、具体的で実践的な改善の数々。


 悔しい。


 素直に「ありがとう」と思えない自分が、悔しい。あの人はリゼットのために言ったのではない。「審査員の舌が腐る」から——つまり、自分の美食家としてのプライドのために批評しただけだ。


 でも——結果として、リゼットの菓子は良くなる。


 あの人は、そういう人だ。


 口は最悪。態度は最悪。娘への愛情表現は壊滅的に下手。


 でも——舌だけは、嘘をつかない。


 レシピ帳を閉じた。


 明日から——改良に取りかかる。本選まで時間はない。霜花蜜のグラサージュ。深煎り黒胡桃。素材の声を聴いて、菓子の欠点に耳を澄ませて。


 父が教えてくれたこと——いや、批評してくれたことを、全部、菓子に注ぎ込む。


 窓の外で、王都の夜が静かに更けていく。秋の風が、かすかに甘い匂いを運んでくる。どこかの菓子店の、焼き残しの香りだろうか。


 辺境の風とは違う。でも——菓子の香りは、どこにいても同じだ。焼きたての香りは、人を幸せにする。父の舌を満足させた母の菓子も、きっと——こんな香りがしたのだろう。


 ペンを置いて、目を閉じた。


 明日は——早い。

ギルベール回! 修道院の質素な食事に耐えられず飛び出した経緯、書きながら「この人どこまで食い意地張ってるんだ」と笑いました。でも娘への不器用な関心も見えてきましたね。「誰がお前の心配などするものか」——もうバレバレです(笑)。

下にある☆☆☆☆☆をクリックして★★★★★にしてくれたら作者が喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ