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隣のOLが、俺の部屋で宅飲みしている  作者: 白い彗星
第二章 甘い生活と、揺らぐ想い

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第7話 好きぃ、えへへへ



 詩乃さんのおかげで、弁当の中身は豪華になった。要はそういうことだ。


「そっかぁ、甲斐が料理の良さに目覚めちまったってことか」


 弁当の中身が以前と変わった経緯を思い出していると、空光 空也(からみつ くうや)がうんうんとうなずいていた。

 料理の良さと言うか、誰かのために良いものを作りたい……という気持ちが強くなったという話だよな。


「私も自分で料理してみようかなぁ」


 自分の弁当箱を見つめる築野 浪(つくの なみ)さんが、ぼそっと呟いた。

 彼女の弁当は、母親が作っていると聞いた。本人は、料理が苦手なのだとか。


 作りたい気持ちがあるなら、俺は応援する。


「そうだよなー、女の子の手作り弁当とか憧れるし。浪ももうちょい女らしくしないとな」


「うっさいな」


 ニヤニヤと笑う空光が、築野さんをからかう。

 むっとしながらも、築野さんはなぜか俺を見て……


「……白鳥も、女の子の手作り弁当、食べたいとか、思う……?」


「へ?」


 なぜ俺に、聞くのだろう。話の流れ的に空光ではないのか?


 ……正直に答えるなら、イエスだ。

 だって憧れるじゃん、女の子の手作り弁当。男の子としてはやっぱり、ね。


 だが……料理が苦手と言う築野さんに、本心を答えるのは正解なのか?


「俺は……」


「嘘はつかないでね」


「……憧れます」


 なんか、視線が怖かった。

 それに、正直に答えるべき場面だと、本能が告げていた。


「そっか……そっか。

 私、頑張る」


「?」


 彼女は何度かうなずき、自分に言い聞かせるようにつぶやいていた。

 さらに、両の手を拳にしているのは、まるで気合いを入れているかのよう。


 その言葉は、俺にもしっかり届いたが……彼女がやる気になったらしい理由が、わからなかった。


「なあ空光。築野さん、頑張るって言ったんだけど……なんか、心境の変化でもあったのかな」


 俺は、空光に耳打ちをする。空気が読めないが、人の感情の変化に機敏なこの男に。

 空気を読まないのは、その場の空気を変えようと意図的にやっている節がある。一割くらいは。


 なので、聞いてみたのだが……返ってきたのは、あからさまなため息と……


「……なあ甲斐。お前って結構、ちゃらんぽらんな男だったんだな」


「どういう意味だ!?」


 俺はなぜ、この男に呆れられているのか。そして答えを教えてくれない。

 多分空光は、答えを知っているのだろうが……これ以上聞いても、明確な答えはくれないだろう。


「ふふ、まあせいぜい悩め、罪な男よ」


「明日……いや、今日からお母さんに、本気で料理を教わって……」


 友人たちとの、食事の時間……それは俺にとって、楽しい時間であるはずなのだが。

 このときばかりは、俺一人だけ置いていかれたような気持ちにさせられた。



 ――――――



 その晩。缶ビールを豪快に飲んでいく詩乃さんは、「ぷはぁ!」と声を漏らす。

 共に食卓を囲んでいるが、普段の姿はどこにいったんだと思いたくなるくらいの豪快っぷりだ。


「料理もおいしい! このもやし炒め、さいっこう!」


「はは、それはどうも」


 高校入学から、すでに三ヶ月が経っていた。……たった三ヶ月で、これほど生活スタイルが変貌するとは。嫌ではないが。


 十何年分抱いていた詩乃さん像は、たった数日で崩された。とてつもない変化だが、結果彼女との距離を縮めるに至った。

 俺のイメージと、本来の姿。そのギャップに、驚きこそあったが……それで彼女への熱が冷めるはずもない。


「おいしー! 幸せだよー!」


 俺の作った料理を頬張り、とろけるような表情を見せてくれると、胸の奥が熱くなる。


 だらしないと思っていた一面は、今ではかわいらしくすら思ってしまう。無条件に全部受け止める……わけではないけども。

 我ながら重症だな、こりゃ。


「ん、なんでにこにこしてるの?」


「今の詩乃さん、新鮮で良いな……と」


「ぬぐ」


 俺の部屋に、酔っ払い突撃してきたあの日……あんな姿を晒してしまい、詩乃さんの中では『もういっかぁ』と思ってしまったらしい。

 つまり、自分を取り繕う意味はなくなったのだ。


「……誰かと一緒に、ご飯食べるの、嬉しくてぇ」


「それは俺も同感ですよ」


「それにぃ、甲斐くんはおつまみも作ってくれてぇ、好きぃ、えへへへ……」


 ……こ、この人は……恥ずかしげもなく!


 酔っていると、こうだもんな。油断して話をしていたら、こちらが大ダメージを受けてしまう。

 今のだって、『俺が』好きなのではなく『おつまみが』好きなだけだ。そうに決まってる。


「はい、今日はこれでおしまいです」


「えー」


 空き缶を転がして遊んでいた詩乃さんが、席を立とうとする……それを見て、止める。彼女の行動の先がわかったからだ。

 そして、これには理由がある。


「決めましたよね、一日三本って」


「えぇー。いいじゃん、明日休みなんだよ?」


「休みでもだめです」


 俺たちの間で取り決めたことの一つが、一日に飲んでいい缶ビールの本数だ。

 ほぼ一方的に決めたようなものだが。納得はしてくれたのだ。


「約束を破るんですか?」


「あぅ……」


 これは、健康管理も兼ねている。酒ばかり飲んでいては、体に悪い。

 酒は飲んでも飲まれるなって言うし。


 ……こういう時に使う言葉だっけ?


「ぶー、ケチー」


「水ならいくらでも飲んでいいですよ。はい」


「あうあー、味がしないー」


 不服そうだが、ちびちびと水を飲んでいく。

 俺に隠れて、お酒を飲んでいる様子もない。そのあたり、やっぱり真面目だよなぁ。


 ……詩乃さんは、明日は休みだ。俺も本来であれば休みだったが……


「そういえば、明日はバイトの面接だっけ?」


「はい」


 そう、明日は用事がある。

 近くのファミレスでバイト募集をしており、応募したのだ。

 もし受かったら、土日は基本的にバイトに出ようと思う。週末は時給がいいようだ。


 ちなみに学生時代、詩乃さんはコンビニでレジ打ちをしていたらしい。

 遠くても、毎日通う自信あるわ俺。


「困ったことがあったら、私に聞いて! アルバイトのノウハウを教えてあげる!」


「受かったらお願いしますよ」


 先輩風吹かせたいんだな……かわいい。


 バイトをするため、部活動には入ってない。どうしても入りたいものもないし、中学で経験しているし。

 高校で経験できるアルバイトが、優先だ。


「受かるといいね。応援してるよ、陰ながらね!」


「そこは堂々と応援してください」


 食卓に、明るい笑い声が響く。やっぱりいいなぁ、この生活。

 ずっと詩乃さんと一緒に居たいと思ってしまう。とはいえ、そんなわけにもいかない。


 矛盾した考えばかりだが……ともあれ、明日は頑張るぞ!

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