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隣のOLが、俺の部屋で宅飲みしている  作者: 白い彗星
第二章 甘い生活と、揺らぐ想い

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第6話 至れり尽くせりで、お姉ちゃん泣いちゃう



「おー、今日の弁当もうまそうじゃん、甲斐!」


 明るい声が飛ぶ。俺に声をかけるのは、正面の席に座っている空光 空也(からみつ くうや)だ。

 髪を金色に染め、耳にはピアスまでしている。一見不良で最初は怖かったのだが、付き合ってみると気のいい奴だとわかった。


 ここは学校で、今は昼休み。みなそれぞれの時間を過ごしている中で、俺たちは一緒に昼食を取っている。


「なに物欲しそうな顔してるのよ。白鳥のお弁当じっと見つめて、いやらしい」


「そこまで言う!?」


 俺と空光の他にもう一人、女子生徒がいる。短めにしてある赤茶色のポニーテールを揺らす、築野 浪(つくの なみ)さんだ。

 彼女の睨みつけるような視線が、空光を刺す。この二人、幼なじみらしい。


 気兼ねない関係だが、それゆえか築野さんの対応は雑だ。


「でもうまそうなのは事実だからしゃあないだろ、その唐揚げとか」


「……一つ食うか?」


「マジ!? ちょうだい!」


 俺は唐揚げを箸でつまみ、まるで餌を待つ雛のごとく口を開けている空光に食べさせる。

 ぱくっと食べ、頬を緩ませもぐもぐしている姿は、まるでリスだ。


「んー、うめー! ほい、お返し!」


「じゃ、遠慮なく」


 空光はサンドウィッチを差し出してくる。その端に、かじりつく。

 この三人は、一緒に昼飯を食べることが多い。唯一空光は、購買で買ってくることが主だ。


 なので、手作り弁当が恋しいのだろう。


「ん、どうかした? 築野さん」


 ふと、築野さんからの視線を感じた。


 ……クラスの中で、彼女は四、五番目にかわいい、という評価だ。

 本人は、その評価を知らない。俺はたまたま、男子たちが陰で話しているのを聞いてしまった。


 ランク付け……と言うのか。あまりよくないと思うんだがな。

 しかも、順位が……微妙だ。


「……空光の意見に乗っかるわけじゃないけど、白鳥のお弁当おいしそうだなって、そう思っただけよ」


 築野さんも弁当持参だが、女子においしそうと言われるのは気分がいいものだ。おかずをあげたくなる。

 そして評価を聞きたい。


「この卵焼き食べる?」


「え、本当に……いや、やっぱりいい」


 箸で摘まんだ卵焼きを、築野さんは目をキラキラさせて見ていたが……急に落ち着いてしまった。

 どうしたのだろう。


「だってその箸であーんしてもらったら……空光と間接キスになっちゃうじゃん……」


「?」


「あぁでも、貰うだけなら自分の箸で取れば……でも断った手前、やっぱり欲しいなんて食い意地張ってると思われる……そもそもなんでナチュラルにあーんしようとしてくるのよぉ……!」


 よく聞こえないが……今彼女の中で、なにが起こっているのだろう。

 聞くのも怖いので、そっとしておこう。


「それにしても、ここ最近の甲斐の弁当は、いっそううまいよな!」


「……そんなおだててもなにも出ねえぞ。ウインナーやるよ」


「お前のちょろいところ嫌いじゃないぜ」


 確かに以前より、気合いの入ったラインナップが並んでいる。

 それにはもちろん、理由がある。


「心境の変化でもあったのか?」


「……やっぱり食事は、気合い入れてこそ、だよな」


「?」



 ――――――



 それは、詩乃さんが「味噌汁食べたい」発言をした日の晩のこと。


 俺はいつも七時前後に晩ご飯を食べる。一人暮らしを始める前からそのスタイルなので、時間が近づくと腹が減る。

 それを確認した詩乃さんは、自分も同じ時間にここに来ると言うのだ。


「俺は構いませんけど……時間通り来れるもんなんですか?」


「大丈夫!」


 疑問はあったが、自信満々に問題ないと返ってきた。

 仕事を定時で上がり、真っ直ぐ帰ってきたら六時くらいになる。諸々の準備をすれば、七時くらいに来られるらしい。


 もちろん、自信満々であっても……予定通りに行く保証なんて、どこにもない。

 そのため、帰れそうになければ、あらかじめ連絡をすることになった。


 ただ、どうせ二人分作ろうと思っているのだ。

 間に合わなかったら、保存しておけばいい。一緒に食べられないのは残念だが、帰ってきたら詩乃さんの分を渡すだけだ。


「逆に、甲斐くんがその時間帯に居ない時は……同じように、連絡してくれると嬉しいな」


 俺にも用事がある場合、それを優先してくれと言ってくれる。俺にとっては、詩乃さんとの食事会が最優先事項だが……そういうわけにもいかないよな。


 高校生になったら、バイトを始めたいと思っていた。そうなれば、毎日同じ時間に帰れるかはわからない。

 その旨を伝えると……


「申し訳なさそうにすることないよ。むしろ、喜ばしいことじゃない。やりたいことはやらなくちゃ!」


 親指を立て、笑って言ってくれた。


 結局、時間についてはこまめに連絡をすることに落ち着いた。

 当たり前のことかもしれないが、ちゃんと決めておくことが大事だ。


 大事と言えば……


「材料費なんかは、折半でいきましょう」


「え? でも……料理だけじゃなくお買い物もほとんど任せちゃうから、手間賃も兼ねて私が多めに出すよ?」


 これは切っても切り離せないことだ。

 二人分作る以上、材料費は増える。だが、詩乃さんは自分が多めに出すと言うだろう。


 そしてそれは、現実になった。そのため俺は、首を横に振る。


「いえ、手間って言っても買い物とか、俺は楽しんでやってますから。苦だと思ったことはないので、気にしないでください。

 むしろ多めに出されるとこっちが申し訳なく思いますから。いいですね?」


「は、はい」


 少し強めに言う。こうでも言わないと、延々巡りだ。

 お金の問題は大事だ。この辺はしっかり線引きしておかないとな。


 ……まだ納得しきっていない顔をしているが、このまま押し進めてしまおう。


「ところで詩乃さん、実は考えていることがあるんです。

 お昼ですけど、前日の晩御飯の残りを、お弁当に入れて渡すのはどうでしょう」


「お、お弁当?」


 きょとん、と目を丸くしている。かわいい。


「俺はいつもそうやって、翌日の昼飯として学校に持って行ってるんです。詩乃さんの分も用意するのは、どうかなと。

 一人増えてもたいした手間にはなりませんし」


「一度は言ってみたいその台詞」


 ただ、この場合温め直したおかずを入れることはできても、作り立てではないのが残念だ。

 一応、保温効果はあるが。


「そっかぁ、お弁当かぁ……えへへ、嬉しいなぁ」


 手作り弁当。その響きに、詩乃さんは震えている。

 そこまで喜んでもらえると、嬉しいな。


「じゃあ、早速明日の分から渡しちゃいますね」


「え、い、いいの!? いいんですか!?」


「もちろん。これ、詩乃さんのです」


 俺は、空の弁当箱を持ってくる。

 ご飯を食べに来たいと言った時から予想していたため、用意していたのだ。


 今日の帰り道、急遽弁当箱を買ってきたわけで。


「わ、ピンク色のお弁当箱。かわいい」


「え、えぇと……姉ちゃんの、です」


「楓ちゃんのがなぜここに」


 詩乃さんのために弁当箱を買った、なんて言ったら、弁当箱代を払おうとするだろう。

 俺が勝手に買ったものだし、受け取るわけにいかない。気にさせないため、ちょっとした嘘だ。


 ……まさか、誰かのために弁当の用意をするなんて、思いもしなかったな。


「至れり尽くせりで、お姉ちゃん泣いちゃう……してほしいことがあったら、なんでも言ってね。今はとりあえず、これくらいしかできないけど」


 ふと、頭の上が温かくなる。柔らかく、安心する手だ。

 ……頭、撫でられてる。


「い、いいですから……というか、"なんでも"なんて軽々しく言うもんじゃないです」


「?」


 髪をかき分け頭を撫でる……その仕草が心地良い。

 それはそれとして、恥ずかしさでいっぱいになってしまう。そんな複雑な男心だ。




 ――――――



 これが、俺の弁当の中身が豪華になっている理由である。

 一人だった以前より、詩乃さんと食事をする今のほうが豪華に決まっている。

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