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隣のOLが、俺の部屋で宅飲みしている  作者: 白い彗星
第六章 初恋と、これから

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第53話 飲んでないと、恥ずかしくて



 二人で揃って、ご飯を食べる。

 たったこれだけのことが、こんなに幸せなんだと……改めて、実感した。

 

 味噌汁を飲んだ詩乃さんは、笑みを浮かべる。


「おいしー、それにあったかぁい」


「よかった。おかわりありますからね」


 その感想に、自然と笑みがこぼれる。


 ずっと外で待っていたんだ、身体を冷やしてしまっただろう。

 温かい味噌汁を飲むことで、身体の内から温かくなってもらえればいいな。


 目玉焼きを割って食べ、ご飯を食べる。美味しいと、箸が進んでいる。

 そして缶ビールに手を伸ばして……


「っ、ぷっはぁー!」


 まさに『この一杯のために生きている』だった。


「おいしそうに飲みますねぇ」


「だっておいしいんだもん。あ、甲斐くんはまだ飲んじゃだめだよー?」


「わかってますよ」


 俺の料理を食べ、大好きなお酒を飲む。

 目の前で好きな人が宅飲みしている光景に、すっかり慣れたな。


「甲斐くんがお酒飲める年になったら、一緒に飲みたいよね」


 ふとつぶやくその言葉は、いったいどんな気持ちからだったのだろうか。

 その時になっても、詩乃さんは隣に居てくれる……ってことかな。


 お茶を飲みつつ、未来予想図に微笑ましくなり……


「そういえば……浪ちゃんに告白されたんだよね?」


「っ、くっ、ごほっ!?」


 予想もしていなかった言葉に驚き、むせてしまう。

 それでも、吹き出すのは堪えた。


 ……そういえば築野さんと話したと言っていたっけ。

 だからって、このタイミングで話すことか……!?


「文化祭の日、私に告白する前にそういうやり取りがあったって……本人から聞いた」


「……そう、なんですね」


 別に、聞かれて困る問題でもないけど……ちょっと気まずい。

 俺が告白したわけではないし、ちゃんとお断りしたとはいえ……


 しかも、築野さん本人からなんて。


「正直ね、二人はお似合いかもって思ってたんだ」


「えっ」


「海や夏祭りで、二人だけになった時あったでしょ? 特に夏祭り、戻ってきた時の二人を見て、お似合いだな……って」


 夏祭り……忘れもしない。

 初めて女の子に告白されて、舞い上がってしまっていた。


 でも、それはそれだ。好きな人がいて、想いがあることは変わらない。築野さんの想いを受け入れることはできない。

 だけど……それがきっかけで、俺も詩乃さんに告白しようと思えた。


「同じ学生で、クラスも同じで、話も合って、私なんかよりよっぽどお似合いだって。でも……少し、もやっとしたんだ」


 ……俺と築野さんが二人で居て……もやっと、したのか。

 単なる弟しか見られてないのかと思ってたから。ちょっと嬉しいかも。


 ……それってつまり、嫉妬だよな?


「あの、詩乃さんって……いつから、俺のことを好きだったんですか?」


 思わず聞いてしまった。

 詩乃さんにとって、俺は九つも年下のガキだ。そんな俺のことを、いつから?


 詩乃さんは「んー……」と考えたあと……指先を立てて、口元へと持ってくる。


「なーいしょ」


 そして、口角を上げて笑うのだ。その仕草に、胸が高鳴る。

 なんかずるい……でもそういうところも、好き。


 それから俺たちは、他愛もない話を続けていく。話せなかった時間を、埋めるかのように。


「……ねーぇ、甲斐くん」


「はい、なんです?」


「好ーき」


「! し、詩乃さん……飲むペース早くありません? 酔ってますよね」


 いきなり、ドキッとするじゃないか……

 さっきからにこにこと笑っているかと思えば、身体が揺れている。


 シラフでこんなこと言える人じゃないもんな……


「えー、酔ってないよー。

 でも……今日は恋人になった日じゃない? だから……飲んでないと、恥ずかしくて」


 だぁー! またこの人はこんなことを言うー!

 俺を萌え殺すつもりか!?


 ……ただ、ちょっとしたいたずら心も芽生えてくる。

 今なら本音を聞き出せるのでは、と。


「詩乃さん」


「なあにー?」


 酔うとガードが甘くなるため、質問にも答えやすくなる……と思う。

 若干、卑怯なのではないかとも思うけど……


「詩乃さんは、いつから俺のことを好きだったんですか?」


 先ほどははぐらかされてしまった質問を……もう一度、問いかけた。


「ふふー、知りたい?」


「は、はい」


 お、なんか良い感じ?

 よし、この様子なら聞き出せるか……?


「……あの?」


 ふと、いきなり詩乃さんが立ち上がった。

 そのまま……俺の隣に移動し、腰を下ろしたではないか。


 しかも椅子を動かし、距離を近くする。


「甲斐くん絶対引くもん。言いたくない」


 詩乃さんが隣に来たことで、ふわっ……といいにおいが香る。

 シャンプーのにおい……かな。若干お酒臭いけど。


 いや、それよりも……


「引くって、どういう意味です?」


 俺が詩乃さんを? そんなことは絶対にない。

 でも、不安な気持ちがあるってことだ。


 ……もしかして、俺を好きになった時期によっては変態みたいに思われるんじゃないか……という悩みか?

 仮に、だ。詩乃さんが十六歳の高校生だとして……その九つ下の俺は、七歳だ。


 そう聞くと……気持ちはわからんでもない。七歳にガチ恋の女子高生はどうだって話だ。

 極端な想像だが。


「俺は、気にしませんけど……」


「私が気にするのー」


「わ、わかりましたよ」


 無理に聞き出すのはやめよう。本気で嫌なら問い詰めない。


「……ねえ甲斐くん。私の話、聞いてくれる?」


 唐突に、詩乃さんはじっと俺を見る。

 酔っていても、その目が真剣だとわかった。


 だから俺は、うなずいた。


「私ね……昔、付き合っている人がいたんだ」


 ……それから、昔の話を聞いた。俺も知らなかった、詩乃さんの話。


 付き合ってる相手……先ほど、そんなことを言っていた。

 その話を、詳しく……俺に話してくれた。


「それからずっと、男の人が怖くて……

 でもね、甲斐くんは怖くなかったの」


 その心配を吹き飛ばすかのように、詩乃さんは首を振る。


「私のことを、見てくれていたことが……すごく嬉しかったの。

 だから……私……」


 その身体が、ふらふらと揺れて……倒れ込んでくる。

 きれいな顔が近づいてきて、咄嗟に身構えるが……


 ……華奢な肩を、そっと掴む。密着する形になった、俺の耳に届いたのは……


「……すぅ」


 詩乃さんの寝息だった。


「……ぷっ」


 あれだけのハイペースで飲んだんだ、こうなっても無理はない。

 まったく……なにか大切なことを言おうとしていたのに。締まらないな。


 ……詩乃さんが自分のことを話してくれて、嬉しかった。


「あぁー……好きだな」


 無防備に眠る年上のお姉さんが、どうしようもなくかわいくて。手を、背中へと回していく。

 その身体をそっと、抱きしめた。我慢できなかった。


 これくらい……いいよな?

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