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隣のOLが、俺の部屋で宅飲みしている  作者: 白い彗星
第六章 初恋と、これから

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第52話 これって……初めての時の……



 ――――――



 誰かを本気で好きになって、想いを伝えて……その気持ちを断られてしまうのは、想像していたよりもずっとつらい。

 でも、相手のことを思って断った人も、きっと同じくらいにつらくて。


 ……彼女が会いに来てくれて。話をして。やっぱり、この気持ちは諦めきれなくて。


「俺と、付き合ってください」


 不思議だ……昨日は、なかなか言葉が出てこなかったのに。

 詩乃さんの気持ちを聞いたからだろうか……自分の気持ちに素直にという思いで、いっぱいだった。


「……っ、は、はい……」


 消え入りそうな……しかし自分の意思を示す声で、詩乃さんはうなずいた。

 明かりがなくてもわかるほどに、その顔を真っ赤に染めて。


 その言葉を聞いて……全身の力が抜けていくのを感じた。


「はぁー……」


「! ど、どうしたの!?」


 その場に立っていられず、鉄柵に手を添え、膝を折ってしゃがみ込む。

 張り詰めていた糸が、ぷつんと切れた気分だ。


 飛び上がってしまいたいほど嬉しいのに、そんな気力が出ない。


「詩乃さん、ちょっと俺のこと叩いてもらっていいですか?」


「え……目覚めたの?」


「違いますけど!?」


 これが夢でないのか、自分でも信じられていない。


「……大丈夫。夢じゃないよ」


 クスクスと笑い、詩乃さんは俺の頭をぽんぽんと叩いた。

 優しく、そして……少し冷たい手だった。


 俺が帰ってくるまで、夜風の中ずっと待たせてしまったんだ。


「すみません、こんなに冷たくなるまで……」


 詩乃さんの手を、そっと握りしめて。

 小さい頃は、よく繋いでいた手。けれど大きくなるにつれて、それはなくなっていった。


 ただ手を握っているだけで、心臓がドキドキと暴れ出す。


「ううん、私が待ちたくて待ってたんだから。……甲斐くんの手は、あったかいね」


 あぁ、どうしよう。せっかく想いを伝えあったのに……言いたいことがいっぱいあるのに、言葉が出てこない……



 くぅ〜……



「はぅっ」


 急に、かわいらしい音が鳴った。これはおそらく、お腹の音だろう。

 緊張の空間が、一瞬で和んだ。


「ぷっ……あはははっ、なにか食べましょうか」


「う、うん……でも、材料とか……」


「……二人分、買ってきました」


 手に持つ袋を見せる。その中には、買ってきた食材が入っている。

 今夜はどうするか……いろいろ考えていたが、結局二人分を買ってきたのだ。


 自分でも、どうしてだろうと思う。


「ご飯、食べていきますか?」


「……うん」


 詩乃さんはシャワーを浴びるため、自室に戻る。

 ひとまずは解散。俺もシャワーを浴びたいしな。


 部屋に入り、荷物を置いて準備を始める。


「……よかった」


 たった一日のことなのに、とても懐かしい気持ちだ。

 丸一日会わなかったのは、今日が初めてだ。


 シャワーを浴び終え、脱衣室で着替える。

 一応、念入りに身体は洗っておいた。別に、変な意味じゃない。せっかく恋人になったんだ……最初くらいは、きれいにしておきたいじゃんか。


「さて、作りますか」


 その後しばらくして、詩乃さんが「おじゃましまーす」と少し遠慮がちに入ってくる。


 サラッとした肌触りの良さそうな、ワッフル素材のルームウェア。

 きっちりとしたスーツ姿とは反対の、無防備な寝間着にギャップを感じて……なんか、良いな。


「いらっしゃい。もうすぐできますからね」


「はーい」


 詩乃さんはまるで導かれるように冷蔵庫へと向かい、その扉を開け……「あ」と声を漏らす。


「ご、ごめんね」


「いえ、いつものことですから」


 流れるような動作は、きっとそれだけ俺の部屋での行動が日常になってきているんだ。


 冷蔵庫の中には、缶ビールが数本置いてある。

 もしこのまま部屋に来なければ、缶ビールの運命はどうなっていたか。


「……んん、いいにおい」


「においで味は保証できませんよ?」


「ふふ。甲斐くんの料理がおいしいことは、もう知ってるもの」


 ……やっぱり楽しいな。話をしているだけで、胸の中が満たされていく。

 俺って案外ちょろいな。


 さて……そろそろかな。

 俺が食器によそっているのを確認した詩乃さんは、並行して食事の準備を始めてくれる。テーブルを拭き、箸に飲み物などを用意して……


 いつからか……詩乃さんは、自分の分の食器をウチに置いていった。

 それが、なんだか嬉しくて。


「はい、どうぞ」


「わぁ……」


 味噌汁は豆腐やナスを入れていて、出来立てほやほや湯気が立っている。

 目玉焼きは半熟が好きな詩乃さんに合わせている。ちなみに俺も半熟派だ。


 ほかほかのご飯も提供し、準備は完了だ。


「これって……初めての時の……」


 メニューを見て、詩乃さんが呟いた。

 初めて、酔っぱらって突入してきたあの日。その翌朝に出したメニューが、味噌汁に目玉焼き。そしてご飯だ。


 元々、今日の献立はこれにするつもりだった。だけど、なんの因果か……詩乃さんと恋人になった日に、詩乃さんに初めて朝ご飯を提供したものと同じものを出すことになるとは。


「さあ、冷めないうちに食べましょう」


「うん!」


 俺と詩乃さんは、それぞれ席に着く。

 お互いに向かい合うように……これはすっかり、定位置になった。


 出来立ての料理を前に、二人どちらともなく手を合わせて……


「「いただきます」」


 食事を、開始した。

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