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隣のOLが、俺の部屋で宅飲みしている  作者: 白い彗星
第六章 初恋と、これから

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第50話 私ね、伝えたいことがあるの



 ――――――



 詩乃さんに告白して、フラれて。まだ一日と経ってないのが信じられない。

 でも、これから会いに行く。ダメならダメで、理由くらい確かめたい。


 一日会わないだけで、こんなに寂しい気持ちになるなんて。このままさよならは、嫌だ。


「……よしっ」


 バイト後悶々考えたりして、帰る時間が遅くなってしまった。

 ただ、心の準備はできた。はず。今から詩乃さんの部屋に行くぞ。


 昨日のように、頭が真っ白にならないように。自分の初恋に、きっちりと決着をつけるんだ。


「……あれ?」


 アパートの階段を上り終えると……部屋の前には、人が立っていた。


「! 甲斐くん」


 こちらに気づいた詩乃さんは、ゆっくり顔を上げて……柔らかく微笑んだ。


 詩乃さんがいることに不思議はない。彼女の部屋は隣なのだから

 疑問なのは、なんで俺の部屋の前にいるのか。


 しかも、スーツ姿で。鞄を持ち、壁に寄りかかっていた。


「……もしかして……会社が終わってから、ずっと……?」


 着替えもせず、部屋に戻らず、俺を待っていた……でなければ、この状況の説明がつかない。

 いつ帰ってくるかも、わからないのに。


「……私ね、伝えたいことがあるの」


 俺から話をしに行こうと思っていたのに、口火を切ったのは詩乃さんだった。


 俺と向かい合う。

 普段よりもびしっとした姿に、こんな状況でも高鳴ってしまう。


「あの、俺も話したいことが……」


「ごめん……私から先に、伝えてもいいかな」


 珍しく、引かない。お互いに話があるなら、いつもなら譲ってくれるのに。そんな様子はない。

 俺をじっと見つめる目は、強い光を放っていた。


「……はい」


 それだけの意思を持って、伝えたいことって?


 ……昨日のことだろうか。告白の答えはもらった……だけど、その後俺は放心していた。

 あの時なにか言っていた。もう一度伝えようとしているのか?


「あのね、甲斐くん」


 この場から逃げ出したい気持ち……聞かなければならない気持ち、両方がある。


 空は暗く、電灯が辺りを照らしている。夜風が肌寒く、けれど身体は熱い。

 車が通る音が響く。それ以上に、心臓の音がうるさい。


 軽く深呼吸をする彼女は、覚悟を決めている……そんな気がした。


「昨日の告白ね……私、嬉しかったの」


 小さな唇がゆっくりと動き……言葉を、紡いでいく。


「同時に、驚いた。ううん、怖かったの。私は年上で……キミには私よりも、ふさわしい子がいる。そう思ったの」


「! そんなの……」


「うん。……勝手な思い込みを押し付けてただけ、だよね。でも、そんなの失礼だって、気付いたの。

 甲斐くんはきっと、考えて考えて……自分の気持ちに正直になってくれた。なら、私も正直にならないと、だよね」


「……正直?」


「私は……白鳥 甲斐くん、キミのことが好き。異性として、大好きです」


 ……一瞬、言葉が理解できなかった。これは本当に、現実なのか?


 目の前の女性は緊張した面持ちでその場に立ち、ぐっと唇を横一線に結んで。

 電灯のおかげで照らされている表情は、とても赤くなっていた。


 その赤い顔が、真剣な瞳が……今の言葉が真実だと、証明していた。


「ぇ……」


 それを理解した瞬間……急激に、顔が熱くなっていく。


「っ……俺の告白……断ったじゃないですか」


 わけがわからなくて、つい蒸し返してしまう。

 まるで、責めてるみたいじゃないか。


 そんなつもりはないのに。


「……昨日は本当に、ごめんね。私、甲斐くんのことを思って断った……つもりだった。

 でも、それは『告白する』って選択をしてくれた甲斐くんの気持ちを、無視してたんだよね」


 俺の告白を断ったのは、俺のことを考えて?

 聞きたいことが山ほどある。でも、今は……


「さっきも少し言ったけど、私と甲斐くんには、年の差がある。

 社会人と、高校生……甲斐くんにはこれから、いろんな出会いがある。学生のうちにしかできない恋もあるし、きっと私よりも素敵な人と会う。だから私と付き合うのは、甲斐くんのためにならないって……」


 あれが正しかったのだと、詩乃さんは思っていて。


「私が甲斐くんのこれからを奪ってしまうのが、申し訳なくて、怖かった。でもね……楓ちゃんや浪ちゃんにも、怒られちゃった」


「……姉ちゃんと築野さん?」


「楓ちゃんに『自分の気持ちに素直に』って言われて……浪ちゃんと会って、気持ちに整理がついたの」


 まだ緊張しているのだろう。そっと胸元に手を当てて。

 一つ一つ……なにを言うべきか、まとめている。


「私も、甲斐くんのことが好き。多分、ずっと前から。

 ……なるべく甲斐くんを傷つけない言葉を選んだつもりだったけど、全然そんなことなかった。言葉を選んでも、傷つけたことに変わりはない」


 ……記憶が飛んでた時、そんなことを言っていたのか。残念ながら届いていなかったわけだが。


「……私ね、男の人が苦手だったの」


「苦手?」


「中学の時、先輩に告白されて……楽しかったんだけど、ある時いきなりキスされそうになって。怖くなって逃げたの。

 それ以来、男の人から告白されても断ってたし……積極的に関わろうとはしなかった」


 ……初めて聞く話だった。別に、彼氏が居たことにショックはない。全くなくはないけど。

 むしろ詩乃さんに居ない方が不思議だ。


 まさか、男が苦手になった経緯があったなんて……


「でも、甲斐くんは……一緒にいると、安心できるの。もっと一緒にいたいと、思わせてくれるの」


 一歩、また一歩……手を伸ばせば触れられる距離まで歩き、詩乃さんは足を止めた。


「……俺も、もっと詩乃さんと一緒にいたい、料理を食べてほしい。詩乃さんがいない夜は……寂しいです」


 自分でも恥ずかしいことを言っているが……止められなかった。

 すると、詩乃さんは「ふふっ」と笑って。


「うん……私も、寂しかった」


 そっと手を伸ばして……俺の頬に、触れた。柔らかくて少し冷たい手のひらが、頬を撫でる。

 少しくすぐったくて……それ以上に、気持ちいい。


「甲斐くん……一回断っておいて、虫がいいってわかってる。でも……もしよかったら、私と……」


「ここからは、俺に言わせてください」


 詩乃さんは俺の告白を受けて……いろいろ考えて、一度は断った。でも、正直な気持ちを伝えてくれた。

 それがとても嬉しくて……だからこそ、俺から言いたい。


 頬に触れる手に、自分の手を重ねて。


「詩乃さん、好きです。……俺と、付き合ってください」


 もっとしゃれた言い回しがあるのかもしれない。

 でも……自分の気持ちを伝えることが、今の俺にできる精一杯だった。

ここまで読んでくれて、ありがとうございます!

ぜひ応援などくださると、とても嬉しいです!

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