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隣のOLが、俺の部屋で宅飲みしている  作者: 白い彗星
第五章 文化祭と、告白の答え

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第46話 ずっと前からあなたのことが……



 ――――――



『頑張ってね』



 教室を出る直前の、築野さんの言葉は……俺を励ます、エールだった。


 告白した相手に、気持ちを断られて……それでも、相手のことを応援する。

 それは、とてもすごいことだと思う。俺には真似できないほどに、つらいことだと思う。


「っ、しっかりしろ俺」


 両手で、頬を叩く。

 築野さんの想いを断ったのは、他ならない俺だ。俺だけは、そんなこと思っちゃいけない。


「……ふぅ……はは、すげー心臓バクバク」


 指定した教室に近づく度、心臓がうるさいくらいに騒いでいるのを感じる。

 その理由は、当然わかっている。


 これから、詩乃さんに告白する……今まで好きだった人に、自分の気持ちを伝える。そのために、彼女を呼び出した。


「……築野さん、やっぱすごいな」


 好きな人に告白しようって考えただけで、こんなにも……胸が張り裂けそうになる。気持ちを口にしようなんて、これ以上の勇気が必要だ。


 築野さんは……その気持ちを俺にぶつけてくれた。俺に好きな人がいると知っていて。

 告白するだけでなく、返事を保留に相手との関係を続ける……すごいとしか言えない自分の語彙力が、恨めしい。


「……ここか」


 目的の教室の前にたどり着き、足を止める。プレートを確認。

 スマホを取り出し、メッセージ画面を表示する。


 そこには、詩乃さんとのやり取りが表示されていて……教室で待っているという言葉を確認する。


「……詩乃さん、いますか?」


 中に声をかけ、扉をノックする。

 すると、「いるよー」と言葉が返ってきた。心臓が、どくんと跳ねた気がした。


 深く息を吸い込み、吐き出す。扉に手をかけ……横へと動かす。


「! 甲斐くん、やっほ」


「すみません、呼び出しちゃったりして」


「全然いいよ」


 ……窓際に立つ、詩乃さんがいた。


 ほとんど暗くなっている空をバックに、そこに立つ詩乃さんは……すごく幻想的に見えた。

 落ち着いたロングスカートに、薄手のジャケットを羽織っている。


「……執事姿じゃないんだね?」


「! も、もう文化祭は終わったので、制服です」


「えー、残念」


 くすくす、と詩乃さんは笑う。あぁ、やっぱかわいいな。


 それに……教室に、詩乃さんがいる。

 普段はあり得ない光景に、感動すらしている。


「それで、お話ってなにかな」


「!」


 早速……か。それは、そうだよな。

 前から、キャンプファイヤーが始まる頃に待ち合わせを決めていて。話があるとだけ伝えておいた。


 俺は一歩、足を踏み出す。


「し、詩乃さん!」


「はい」


 名前を呼ぶ。応えてくれる。それだけのことが、ただ嬉しい。

 だけど、それだけで満足するな。覚悟を決めてきたんだろう!


 もう一度、深く息を吸う。そして、吐き出す。


「ふぅ……

 あの、伝えたいことが、あります」


「うん?」


 やばい、すげー緊張する。手汗もすげー出てる!


「あの、俺……」


 これまでのことが、よみがえる。俺が物心ついた頃……いや、おそらくその前から詩乃さんは一緒にいてくれた。

 俺より九歳も年上で。姉ちゃんの友達でなかったら、多分関わらなかった人だ。それだけの年の差が、俺たちの間にはある。


 だから、その点じゃ姉ちゃんに感謝している。学生の頃からずっと友達で、社会人になってからも関係が続いていて。

 それが、どれだけすごいことか。


「俺、ずっと前から……」


 恋心を自覚したのは、いつだっただろうか。中学生か、小学生か。それよりも前からか。

 ……自覚してからずっと、好きだった。これまでに告白されたことも、一度を除けばなかった。だから誰かに心揺れることもなかった。


 もし、築野さんの告白や空光の後押しがなければ、俺は今も行動を起こせなかっただろう。

 そして、知らないうちに詩乃さんに彼氏ができて……遠くに、行ってしまう。


 ……そんなのは、嫌だ。誰にも取られたくはない。


「ふぅ……っ、俺、ずっと前からあなたのことが……詩乃さんのことが、好きでした! よければ、付き合ってください!」


 言いたいことを、一気に口に出す。言い切った後に頭を下げ、手を差し出した。

 同時に、窓の外からは炎が燃え上がる音と、軽快な音楽……そしてみんなの笑い声が聞こえてきた。キャンプファイヤーが始まったのだ。


 手が、震える。つい勢いで手を差し出してしまったが、今手汗がやばいんだった。

 とはいえ、今から引っ込めるわけにもいかないし……


 返事を待つのが、とても長く感じた。気になって、顔を上げてしまいたくなる。


「……甲斐くん、顔を上げて」


「……はい」


 その言葉に、ゆっくりと顔を上げる。

 俺の告白に、詩乃さんはどんな表情を浮かべているだろうか。もし、照れてくれていたら。


 そんなわずかな期待を込め、俺の目に映ったのは……頭を下げた、詩乃さんの姿だった。


「……えっ、と……」


「ごめんなさい。甲斐くんの気持ちは、嬉しいんだけど……私は、キミとは付き合えません」


 ……その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になるのを感じた。


 告白だ。成功する可能性もあれば、当然失敗する可能性もある。それは、当たり前の事だ。

 それがわかって、覚悟を決めて来たんじゃないか。それなのに……



『……でも、ごめんなさい。俺には好きな人が居ます。だから、あなたの気持ちには答えられません』



 告白を断られるのって……こんなに、キツい、のか……


「本当に、ありがとう。私なんかを好きになってくれて。でも、甲斐くんは……」


 その後、顔を上げた詩乃さんがどんな表情をしていたのかも、なにを言っていたのかも、覚えていない。


 後夜祭が終わっても……自分がどうやって家に帰ったのかも、覚えていなかった。

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