第46話 ずっと前からあなたのことが……
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『頑張ってね』
教室を出る直前の、築野さんの言葉は……俺を励ます、エールだった。
告白した相手に、気持ちを断られて……それでも、相手のことを応援する。
それは、とてもすごいことだと思う。俺には真似できないほどに、つらいことだと思う。
「っ、しっかりしろ俺」
両手で、頬を叩く。
築野さんの想いを断ったのは、他ならない俺だ。俺だけは、そんなこと思っちゃいけない。
「……ふぅ……はは、すげー心臓バクバク」
指定した教室に近づく度、心臓がうるさいくらいに騒いでいるのを感じる。
その理由は、当然わかっている。
これから、詩乃さんに告白する……今まで好きだった人に、自分の気持ちを伝える。そのために、彼女を呼び出した。
「……築野さん、やっぱすごいな」
好きな人に告白しようって考えただけで、こんなにも……胸が張り裂けそうになる。気持ちを口にしようなんて、これ以上の勇気が必要だ。
築野さんは……その気持ちを俺にぶつけてくれた。俺に好きな人がいると知っていて。
告白するだけでなく、返事を保留に相手との関係を続ける……すごいとしか言えない自分の語彙力が、恨めしい。
「……ここか」
目的の教室の前にたどり着き、足を止める。プレートを確認。
スマホを取り出し、メッセージ画面を表示する。
そこには、詩乃さんとのやり取りが表示されていて……教室で待っているという言葉を確認する。
「……詩乃さん、いますか?」
中に声をかけ、扉をノックする。
すると、「いるよー」と言葉が返ってきた。心臓が、どくんと跳ねた気がした。
深く息を吸い込み、吐き出す。扉に手をかけ……横へと動かす。
「! 甲斐くん、やっほ」
「すみません、呼び出しちゃったりして」
「全然いいよ」
……窓際に立つ、詩乃さんがいた。
ほとんど暗くなっている空をバックに、そこに立つ詩乃さんは……すごく幻想的に見えた。
落ち着いたロングスカートに、薄手のジャケットを羽織っている。
「……執事姿じゃないんだね?」
「! も、もう文化祭は終わったので、制服です」
「えー、残念」
くすくす、と詩乃さんは笑う。あぁ、やっぱかわいいな。
それに……教室に、詩乃さんがいる。
普段はあり得ない光景に、感動すらしている。
「それで、お話ってなにかな」
「!」
早速……か。それは、そうだよな。
前から、キャンプファイヤーが始まる頃に待ち合わせを決めていて。話があるとだけ伝えておいた。
俺は一歩、足を踏み出す。
「し、詩乃さん!」
「はい」
名前を呼ぶ。応えてくれる。それだけのことが、ただ嬉しい。
だけど、それだけで満足するな。覚悟を決めてきたんだろう!
もう一度、深く息を吸う。そして、吐き出す。
「ふぅ……
あの、伝えたいことが、あります」
「うん?」
やばい、すげー緊張する。手汗もすげー出てる!
「あの、俺……」
これまでのことが、よみがえる。俺が物心ついた頃……いや、おそらくその前から詩乃さんは一緒にいてくれた。
俺より九歳も年上で。姉ちゃんの友達でなかったら、多分関わらなかった人だ。それだけの年の差が、俺たちの間にはある。
だから、その点じゃ姉ちゃんに感謝している。学生の頃からずっと友達で、社会人になってからも関係が続いていて。
それが、どれだけすごいことか。
「俺、ずっと前から……」
恋心を自覚したのは、いつだっただろうか。中学生か、小学生か。それよりも前からか。
……自覚してからずっと、好きだった。これまでに告白されたことも、一度を除けばなかった。だから誰かに心揺れることもなかった。
もし、築野さんの告白や空光の後押しがなければ、俺は今も行動を起こせなかっただろう。
そして、知らないうちに詩乃さんに彼氏ができて……遠くに、行ってしまう。
……そんなのは、嫌だ。誰にも取られたくはない。
「ふぅ……っ、俺、ずっと前からあなたのことが……詩乃さんのことが、好きでした! よければ、付き合ってください!」
言いたいことを、一気に口に出す。言い切った後に頭を下げ、手を差し出した。
同時に、窓の外からは炎が燃え上がる音と、軽快な音楽……そしてみんなの笑い声が聞こえてきた。キャンプファイヤーが始まったのだ。
手が、震える。つい勢いで手を差し出してしまったが、今手汗がやばいんだった。
とはいえ、今から引っ込めるわけにもいかないし……
返事を待つのが、とても長く感じた。気になって、顔を上げてしまいたくなる。
「……甲斐くん、顔を上げて」
「……はい」
その言葉に、ゆっくりと顔を上げる。
俺の告白に、詩乃さんはどんな表情を浮かべているだろうか。もし、照れてくれていたら。
そんなわずかな期待を込め、俺の目に映ったのは……頭を下げた、詩乃さんの姿だった。
「……えっ、と……」
「ごめんなさい。甲斐くんの気持ちは、嬉しいんだけど……私は、キミとは付き合えません」
……その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になるのを感じた。
告白だ。成功する可能性もあれば、当然失敗する可能性もある。それは、当たり前の事だ。
それがわかって、覚悟を決めて来たんじゃないか。それなのに……
『……でも、ごめんなさい。俺には好きな人が居ます。だから、あなたの気持ちには答えられません』
告白を断られるのって……こんなに、キツい、のか……
「本当に、ありがとう。私なんかを好きになってくれて。でも、甲斐くんは……」
その後、顔を上げた詩乃さんがどんな表情をしていたのかも、なにを言っていたのかも、覚えていない。
後夜祭が終わっても……自分がどうやって家に帰ったのかも、覚えていなかった。




