第44話 俺には好きな人が居ます
……接客を続け、時間が過ぎるのも忘れて作業に没頭していった。
気づいた時には、文化祭の終わりを告げる校内放送があった。
その瞬間、教室内からはどっとため息が漏れ……次第に、歓声へと変わる。
文化祭をやり切ったことへの達成感が、爆発したのだ。
「あぁー、終わっちまったー!」
「結構売上とか出たんじゃないか?」
口々にそんなことを言いながら、まずは着替えに向かう。
男子はそそくさと着替え、着替え用の空き教室に移動した女子が戻ってくるまでの間、簡単な片付けをする。
本格的な片付けは、後日だ。この後は、後夜祭を楽しむ。
「……いよいよ、か」
戻ってきた築野さんと、目が合った。なんとなく気恥ずかしくなる。
それから、先生の話があり……解散となる。キャンプファイヤーは自由参加で、踊る人もいれば観察する人、帰る人もいる。
俺は……
「……白鳥」
約束していた空き教室に、呼び出した築野さんが訪れる。
静かな教室に、二人だけの音があった。扉を閉めると、外の空間と隔たれたよう。
「それで……話が、あるって」
「あぁ」
彼女を呼び出した理由……それは、告白の返事をすること。
「……あの……」
「楽しかったね、文化祭」
話を切り出す……その前に。
言葉が被った……と言うよりは、言葉を被せてきた……?
築野さんは、俺を見ているようで……見ていない。多分見ているのは俺の背後……窓の外だ。
「……そうだね、楽しかった」
「大変だし、忙しかったけど。それ以上にみんなと……白鳥と一緒に、できてよかった」
「……俺もだよ」
「……ここに呼んだのは、告白の返事?」
本題に入ったのも、築野さんからだった。
やっぱり……気づいていたのか。
「うん」
「すぐに返事はいらないって、言ったのに」
「そういうわけにもいかないよ。わりと時間も経っちゃってるし。
……待たせちゃった気はする」
「……白鳥はそういうやつだよね」
築野さんは俺に、好きだと伝えてくれた。
きっと、すぐに返事が欲しかったはず。でも、彼女はそう言わなかった。
……それでも、結論を出さなくてはいけない。それが……築野さんに対する、俺の誠意だ。
「……築野さん、あの時告白してくれてありがとう。正直、誰かに告白されるなんて、考えたこともなかった。……すごく嬉しかったんだ」
「うん」
「……でも、ごめんなさい。俺には好きな人が居ます。だから、あなたの気持ちには答えられません」
「……うん」
誠心誠意、告白してくれたことに対するお礼と謝罪を口にし、頭を下げる。
……俺の答えを受け、続けて「知ってた」と口にする彼女の顔を見上げると……
……その目に涙をためて、笑っていた。
「……」
正直、築野さんからの告白はめちゃくちゃドキドキした。気持ちが揺らぐことだってあった。
だが……最終的に出した結論。これが、そうだ。
「てか……告白したとき、白鳥が詩乃さんのことを好きだって知ってる、って言ったじゃん。なのに、好きな人がいる……なんて、改めて言われなくても、わかってるよ」
「……そう、なんだけど。……ケジメ的な? 俺から改めて、言っておこうと」
「……改めて、か」
その瞳は潤んでいる。でも、その表情には笑顔が浮かんでいる。必死に、涙がこぼれないようにしているよう。
強がっているようにも見える姿に、彼女の優しさを感じた。
……俺も、きちんと……伝えなければいけない。
「……うん。俺は……詩乃さんが好きだ」
「……知ってる」
自分から、誰かに話すのは……初めてだ。
「ずっと前から、好きだった。気づいた時には、もう。
……この後、俺は詩乃さんに告白するつもりだ」
「……そっか。
……あーあ、それじゃあ私は、前座でフラれたってわけだ」
築野さんは、天井を見上げて……壁際に、寄りかかる。
「! そ、それは違うよ! それは……」
「ふふっ……わかってる。ケジメ、なんでしょ?」
からかうように、築野さんは笑う。
とはいえ、言い方が違うだけで、似たような意味なのかもしれない。ケジメなんて、かっこいい言葉を使っているけど。
それでも、半端な気持ちで答えを出したわけではない。
「うん。……築野さんは、勇気を持って告白してくれた。だから、俺も勇気を出さなきゃって……そう思った。そうしないと詩乃さんにも、築野さんにも失礼だから」
「……うん。……もし、詩乃さんにフラれても、付き合ってあげないからね。私、そこまで軽い女じゃないから。自分のことを好きな保険がいる、なんて考えは持たないでね」
「も、持ってないよそんな考え! ……想いが届かなかったからって、築野さんの気持ちに甘えることはしないよ」
「……そうだね、そういうやつだよね」
もしもこの後フラれて……築野さんから「じゃあ私と付き合おうよ」と言ってきたら……きっと、俺は応えない。
応えてしまえば、それこそ築野さんに失礼だ。
そして、築野さんはそんなことを言わないだろうことも、わかっている。
「じゃあ、さっさと愛しの詩乃さんの所に行っちゃいなー? 待たせたら悪いよ」
築野さんは、俺に背を向ける。
彼女がどんな顔をしているのか、わからない。見てやろうとも思わない。
でも、声色はいつものままで。気丈な彼女らしいと、思えた。
正直、時間までこの部屋に残ることはできる。
……残って、どうするんだ。自分がフッた相手を、慰めでもするつもりか?
「……そうする。俺は行くよ。築野さんは……」
「……もう少し、ここにいようかな」
「そっか。……じゃあ……」
出口に向けて、足を進める。
そして、扉に手をかけたところで……「白鳥」と声がかかった。
「頑張ってね」
「……ありがとう」
彼女からの精一杯のエールを受けて……俺は、扉を開いた。
いろんな意味のこもった「ありがとう」を伝えて、教室を出た。




