第42話 詩乃さんと居る時より、楽しんでくれたらな……なんて
今日は文化祭二日目。
そして、俺にとって重大な決断の日だ。
「……前に進むためにも、決着つけないとな」
……と覚悟を決めたはいいが、クラスでの当番はしっかり担当しないと。
その後知り合いが来ることはなく、忙しい時間帯を乗り越え……自由時間となった。
すると、同じく自由時間となった築野さんが近寄ってくる。
……今更だけど、俺は執事服、それに築野さんはメイド服のままだ。
「あの、服はこのまま……なのかな」
「着替える時間がもったいないし。白鳥が嫌じゃなければ、だけど」
「……嫌ではないけど」
昨日から見慣れたはずのメイド服。なぜかとても、目のやり場に困る。
「……もしかして、この姿にドキドキしてる?」
「!」
築野さんは、にやりと笑っていた。
なんか俺、最近からかわれてばっかりだな。
「せっかくだもん、このまま回ろうよ」
「そうだね」
断る理由もない、か。
俺たちは並んで歩き始め、あちこちの出し物を見て回る。
……やっぱり、注目されてるなぁ。
「とりあえず、なにか食べる?
喫茶店、結構お客さんは来てくれるから嬉しいんだけど、お腹も空いちゃうんだよね」
「わかる。料理運ぶときとか、つまみ食いしたくなる」
クラスもバイトも同じで。一番仲のいい女子でもあるし、会話は弾んでいく。
話していると、楽しく感じるのは……やっぱり築野さんが相手だからだろうか。
……周りの視線が、築野さんを見ているのがわかる。
やっぱり、かわいいもんな。
「あ、白鳥。あれ食べよ」
本人は気づいていないのか、前方を指さしていた。
その先には、クレープ屋さんがあった。
キラキラ……と瞳を輝かせている。よほど食べたいのだろうが……
「お昼ご飯にクレープ……?」
食後のデザートに食べるなら、わかるのだが。
そんな俺の疑問を察したのか、築野さんは指を立てて片目を閉じる。
「大丈夫、甘いものは別腹って言うでしょ。デザートの後だってお昼ご飯も、食べられるって」
「それ逆じゃない?」
結局、先に昼飯を軽く済ませた後、クレープ店へ。
少し目を離しただけで結構人が並んでいた。……女性が多いな。
それに……
「ねー、あの子たちカップルかなー」
「ね、かわいー」
通り過ぎる女性二人の会話が聞こえた。
列に並んでいるのは、女性のみか……恋人と思われる男女ばかりだ。そこに並ぶなんて、自分たちもそうだと言うようなもの。
しかし、クレープを前に目を輝かせる築野さんを見ては、今更やめようなんて言えない。
「わぁ、おいしそう!」
俺はバナナとチョコレートを、築野さんはイチゴとホイップクリームを組み合わせたものを頼む。
空いているベンチを見つけ、座る。
「しっかしすごいな、名前の通り本当に花束の形してる」
見映えもきれいだ。これは花束クレープと言うらしい。
すれ違った女子たちが「マジバえるわ」とか言っていたもんな。
一口食べると、ほどよい甘みが口の中に広がる。
「うん、うまい」
「おいしー!
……あ、チョコついてるよ」
指摘され、確認しようとするが……それよりも先に、築野さんの手が伸びてきた。
そして彼女の指が、頰を撫でた。
指先には、チョコがついていて……自分の口元へ運んだではないか。
「ぱくっ」
「えっ……!?」
「いーじゃん、もったいないし。んー、チョコもおいしっ」
な、なんか今日……いろいろ、積極的じゃないか?
終始翻弄されっぱなしだ。
お腹も膨れたし、次はどこへ行こう。
「あ、ここ面白そうじゃない?」
それは、謎解きスタンプラリー。
指定場所にて、謎を解き正解すればスタンプを押してもらえる、というもの。
これならば、移動中も学内を効率的に回れる。
制限時間はないし、不正解でも罰があるわけでもない。
ちなみに、スタンプを全て集めれば、商品が貰えるのだとか。
難しい謎が出てきても、二人で力を合わせれば解くことができた。
「なんか楽しーね、こういうの」
スタンプは全部で七つ。七つ集めれば願いが叶うどら……スタンプラリー。
その最中、楽しそうに笑う築野さんを見て、俺も自然と頬が緩んだ。
「……詩乃さんと居る時より、楽しんでくれたらな……なんて」
「え、なにか言った?」
「なんでもなーい」
その後も、スタンプを集めていく……残り一つとなった所で、知った顔を見つけた。
「おー、お二人さんじゃん」
それは、バイト先の先輩椎名 太郎さんだ。
彼女は友達と一緒らしく、同じくスタンプカードを持っていた。
そんな彼女は俺たちを見て、ニマニマと笑う。
「なるほどデートか……やるねぇ築野ちゃん」
「ち、違うよ!」
……そんな一幕がありつつ、二人で協力したおかげで無事ゴール。
賞品であるお菓子をもらい、記念に写真も撮ってくれるというのだ。
築野さんに押し切られ、ツーショット写真を撮ることに。
なんとなくピースとかしてみたけど……は、恥ずかしいなこれ。
「わぁ……!」
その場で現像してくれた写真を受け取り、嬉しそうに笑っている。
それぞれに一枚ずつ……執事服姿の俺とメイド服姿の築野さんが、笑っている。
こんなの、もう二度と撮れないだろうな。
なんか、恥ずかしさも吹き飛んでしまったな。
そんな時、誰かから電話が来たようだ。
俺に一言断ってから、電話に出る。
「もしもし。……うん……えっ」
その表情は、どんどん渋いものになっていった。
眉を寄せ、明らかに『イヤそう』だ。
「……わかったよぉ。今度なんか奢ってよ」
電話を切り、どっとため息を漏らしていた。
「……ごめん白鳥」
真っ先に、俺に謝った。
その姿に、目を丸くしてしまう。
「クラスの方でトラブルが起きちゃったみたいで。呼ばれたから、戻らないと」
相手はクラスの友達か。対応のため、呼ばれたと。
接客リーダーとはいえ、こんな時にまで頼りにされているなんて。尊敬するけど、大変だ。
「謝ることないよ。でも、自由時間なのに……」
「……まあ、対価は後でちゃあんといただくから」
ふふふふ……と笑う築野さん。
少し怖いが、自由時間中に呼び出されたのだ。少しは無理を言ってもバチは当たらないだろう。
「白鳥は……」
「俺も戻るよ。昨日今日回ったから、見るとこないし」
「……そう。私、先に戻るから」
あ、これはまずったかな。詩乃さんと一緒だと、示唆する形になってしまった。
ともあれ、築野さんは駆け足で一足先に戻ってしまった。
俺は、客として自分のクラスに行ってみるか。それも問題はないわけだし。
教室に向かい、扉を開ける。俺を出迎えてくれたのは……
「おかえりなさいませ、ご主人様」
……到底、信じられない人だった。




