第39話 全然、お化けが苦手じゃないから!
念願の、詩乃さんとの文化祭デート。
確認したわけではないが、いいよなデートで。文化祭を一緒に回るんだもの。
パンフレットを取り出し、一覧を確認する。
「気になる所はありますか?」
「うーん……甲斐くん、まだお昼食べてないよね? どこかで食べる?」
確かに……朝から働きづめで、今はお昼時。なにか腹に入れたいが……
俺のことを考えてくれてる……そして感激。
「じゃ、その辺で買いましょう」
夏祭りを思い出すが、食べ歩きならばその間も回れるから、時間を無駄にしなくて済む。近くで売っているたこ焼きを購入した。
六個入りで、一つ一つが結構大きい。
付属の爪楊枝をたこ焼きに差し、口へと運ぶ。
「はふっ、はふ」
充分に息を吹きかけたはずだったが、口の中で割れると熱く、息を吸い込んでは吐きだす。
なんとか適温になったので、咀嚼してから飲み込む。
たこは結構大きく、生地とソースの味が絶妙に絡み合っている。
「んー、うまい」
「じー……」
隣から視線を感じた。
……詩乃さんが、俺の手元のたこ焼きを、見ているのだ。
「……あの、食べます?」
「え、いいの?」
その瞳は、輝いていた。
「じゃあ……あーん」
「!?」
それから詩乃さんは、口を大きく開けたではないか。
目を閉じている表情はとても無防備で、ドキドキしてしまう。
しかも、爪楊枝は一本だけ。
ということは、あーんするしないに関わらず、彼女が食べれば間接キスになる。
「はやくー」
キス待ち、あるいは餌待ちのひな鳥……
ええい、俺ばかり意識していて、カッコ悪い!
やってやろうじゃないか!
「あ。熱いんだったら、ふーふーしてね?」
……わざとからかって楽しんでないだろうな?
「ふー、ふー。……あ、あーん」
熱々のたこ焼きを冷まし、口の中へと運ぶ。
「もぐもぐ……んんー、おいしい!」
「そ、それはよかったです」
あー……恥ずかしいが、幸せすぎる!
夏祭りとは違い学内での行為……微妙な背徳感があるような。
だが、もう割り切る! 存分に楽しんでやる!
「よし、行きますよ詩乃さん!」
「えっ、う、うんっ」
たこ焼き片手に、歩き出す。
俺も、文化祭自体は初めてだ。ワクワクしている。
それから、様々な所を回った。模擬店や、部活動の展示。体育館ではステージもあり、見に行った。
特に、吹奏楽部の演奏やダンス部のパフォーマンスは目を見張るものがあった。
「……お化け屋敷?」
校舎の一角を歩いていると、詩乃さんが足を止める。看板が立てかけてあった。
「気になるなら、入ってみます?」
「へ!? いや、私は……」
「苦手なんですか?」
「! そ、そんなわけないよ!」
図星だったのか? 肩を震わせた詩乃さんは、全力で首を振る。
初めて知ったな。苦手なものでも、嬉しい。
「隠さなくていいですよ。じゃあここはスルーして……」
「……勘違いしてるよ。全然、お化けが苦手じゃないから! 行くよ!」
手を引っ張り、入り口へと歩いていく。
いやいや、お化け苦手なんじゃないの!?
先ほどの反応を見るに、勘違いとは思えない。ってことは、今のやり取りで変なスイッチが入ったな。
「わっ、暗いっ。雰囲気は、あるね」
「あれっ?」
いつの間にか、お化け屋敷の中に足を踏み入れていた。暗く、ひんやりする。
ただ、右腕は温かった。そう、詩乃さんが抱きつき……胸が押し付けられているから!
や、柔らか……じゃなくて、ドキドキ……じゃなくて!
「よ、よぉし甲斐くん。怖がらなくて大丈夫だよ。お、お姉さんについてきて」
……腕を思い切り抱きしめたままお姉さんぶられても。
このままはまずい。俺の理性的な意味で。
さっさとクリアして、ここから出よう……
「ばぁー!」
……足を進めていく中、いきなり飛び出してきたゾンビメイクの生徒。
学生の作り物だ、そこまでクオリティが高いわけでもないはず。それでも、本能的に驚いてしまっても仕方ない部分はある。
だが……
「ひゃああああ!?」
聞いたことのない絶叫が、詩乃さんの口から出てきたのだった。
……その後、数分と経っていないのに、すでに詩乃さんが限界に近い。
脚は小鹿のように震えている。
「あ、あの……」
「ぜ、全然怖くないけど!?」
暗がりの中に、静かな、それでいて不気味なBGMが流れている。
なにより……
「ぐぉおおおおお!」
「ひゃああああ!?」
井戸から飛び出してくる、全身ミイラ男。
はじめこそ、たいしたクオリティではないと思っていた。だが、作り具合の手の込んでいること。
ミイラ男は、生々しく血のような液体が滲んでいる。
「は、離れないで甲斐くん! ……はぐれたら危ないから! ね?」
ぎゅ……腕に力が込められる。
柔らかいものが押し付けられる嬉しさを感じていたのも、最初だけ。今は少し痛いくらいだ。
どんだけの力でしがみついてるんだ。
「た、助けてくれぇえ……」
「ひぃいいいいい!」
……自分より驚いている人が居ると、不思議と落ち着くなぁ。
「あ、あた……あの人、頭に、包丁が、刺さって……」
「お、落ち着いてください!」
正直な話、弱った姿の詩乃さんにそそられるものを感じたが、そんなことを言っている場合ではないか。
お化けにびくつき、自分の足音にびくつき、進む。
着実に出口には向かっていた。
「詩乃さん、もう少しで出口ですから(多分)。頑張ってください」
「はー、はー……え? もう出口なんだ? ふ、ふーん……ざ、残念だなぁ」
今更取り繕って挽回できるものなどない。
出口が近い……それが、少しの油断を誘った。
「っ!? っ、ひゃあぁぁあ!?
く、首っ……ぬめって……」
「首?」
おそらく、こんにゃくだろう。
お化け屋敷とこんにゃく……定番の組み合わせだ。周囲を警戒してる中で、死角から狙ってくるのだ。
まさか、終盤で出してくるとは。
「あ……」
「え」
すると詩乃さんは、その場に膝から崩れ落ちる。
「どうしよ……力、抜けちゃった」
「……」
限界が訪れた詩乃さんは、弱々しく笑う。自虐気味に。
このまま放置できるわけもなく……俺は詩乃さんをおんぶして、出口を目指した。
背中が、とても温かった。




