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隣のOLが、俺の部屋で宅飲みしている  作者: 白い彗星
第五章 文化祭と、告白の答え

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第39話 全然、お化けが苦手じゃないから!



 念願の、詩乃さんとの文化祭デート。

 確認したわけではないが、いいよなデートで。文化祭を一緒に回るんだもの。


 パンフレットを取り出し、一覧を確認する。


「気になる所はありますか?」


「うーん……甲斐くん、まだお昼食べてないよね? どこかで食べる?」


 確かに……朝から働きづめで、今はお昼時。なにか腹に入れたいが……

 俺のことを考えてくれてる……そして感激。


「じゃ、その辺で買いましょう」


 夏祭りを思い出すが、食べ歩きならばその間も回れるから、時間を無駄にしなくて済む。近くで売っているたこ焼きを購入した。

 六個入りで、一つ一つが結構大きい。


 付属の爪楊枝をたこ焼きに差し、口へと運ぶ。


「はふっ、はふ」


 充分に息を吹きかけたはずだったが、口の中で割れると熱く、息を吸い込んでは吐きだす。


 なんとか適温になったので、咀嚼してから飲み込む。

 たこは結構大きく、生地とソースの味が絶妙に絡み合っている。


「んー、うまい」


「じー……」


 隣から視線を感じた。

 ……詩乃さんが、俺の手元のたこ焼きを、見ているのだ。


「……あの、食べます?」


「え、いいの?」


 その瞳は、輝いていた。


「じゃあ……あーん」


「!?」


 それから詩乃さんは、口を大きく開けたではないか。

 目を閉じている表情はとても無防備で、ドキドキしてしまう。


 しかも、爪楊枝は一本だけ。

 ということは、あーんするしないに関わらず、彼女が食べれば間接キスになる。


「はやくー」


 キス待ち、あるいは餌待ちのひな鳥……


 ええい、俺ばかり意識していて、カッコ悪い!

 やってやろうじゃないか!


「あ。熱いんだったら、ふーふーしてね?」


 ……わざとからかって楽しんでないだろうな?


「ふー、ふー。……あ、あーん」


 熱々のたこ焼きを冷まし、口の中へと運ぶ。


「もぐもぐ……んんー、おいしい!」


「そ、それはよかったです」


 あー……恥ずかしいが、幸せすぎる!

 夏祭りとは違い学内での行為……微妙な背徳感があるような。


 だが、もう割り切る! 存分に楽しんでやる!


「よし、行きますよ詩乃さん!」


「えっ、う、うんっ」


 たこ焼き片手に、歩き出す。

 俺も、文化祭自体は初めてだ。ワクワクしている。


 それから、様々な所を回った。模擬店や、部活動の展示。体育館ではステージもあり、見に行った。

 特に、吹奏楽部の演奏やダンス部のパフォーマンスは目を見張るものがあった。


「……お化け屋敷?」


 校舎の一角を歩いていると、詩乃さんが足を止める。看板が立てかけてあった。


「気になるなら、入ってみます?」


「へ!? いや、私は……」


「苦手なんですか?」


「! そ、そんなわけないよ!」


 図星だったのか? 肩を震わせた詩乃さんは、全力で首を振る。

 初めて知ったな。苦手なものでも、嬉しい。


「隠さなくていいですよ。じゃあここはスルーして……」


「……勘違いしてるよ。全然、お化けが苦手じゃないから! 行くよ!」


 手を引っ張り、入り口へと歩いていく。

 いやいや、お化け苦手なんじゃないの!?


 先ほどの反応を見るに、勘違いとは思えない。ってことは、今のやり取りで変なスイッチが入ったな。


「わっ、暗いっ。雰囲気は、あるね」


「あれっ?」


 いつの間にか、お化け屋敷の中に足を踏み入れていた。暗く、ひんやりする。

 ただ、右腕は温かった。そう、詩乃さんが抱きつき……胸が押し付けられているから!


 や、柔らか……じゃなくて、ドキドキ……じゃなくて!


「よ、よぉし甲斐くん。怖がらなくて大丈夫だよ。お、お姉さんについてきて」


 ……腕を思い切り抱きしめたままお姉さんぶられても。


 このままはまずい。俺の理性的な意味で。

 さっさとクリアして、ここから出よう……


「ばぁー!」


 ……足を進めていく中、いきなり飛び出してきたゾンビメイクの生徒。

 学生の作り物だ、そこまでクオリティが高いわけでもないはず。それでも、本能的に驚いてしまっても仕方ない部分はある。


 だが……


「ひゃああああ!?」


 聞いたことのない絶叫が、詩乃さんの口から出てきたのだった。


 ……その後、数分と経っていないのに、すでに詩乃さんが限界に近い。

 脚は小鹿のように震えている。


「あ、あの……」


「ぜ、全然怖くないけど!?」


 暗がりの中に、静かな、それでいて不気味なBGMが流れている。

 なにより……


「ぐぉおおおおお!」


「ひゃああああ!?」


 井戸から飛び出してくる、全身ミイラ男。

 はじめこそ、たいしたクオリティではないと思っていた。だが、作り具合の手の込んでいること。


 ミイラ男は、生々しく血のような液体が滲んでいる。


「は、離れないで甲斐くん! ……はぐれたら危ないから! ね?」


 ぎゅ……腕に力が込められる。

 柔らかいものが押し付けられる嬉しさを感じていたのも、最初だけ。今は少し痛いくらいだ。

 どんだけの力でしがみついてるんだ。


「た、助けてくれぇえ……」


「ひぃいいいいい!」


 ……自分より驚いている人が居ると、不思議と落ち着くなぁ。


「あ、あた……あの人、頭に、包丁が、刺さって……」


「お、落ち着いてください!」


 正直な話、弱った姿の詩乃さんにそそられるものを感じたが、そんなことを言っている場合ではないか。


 お化けにびくつき、自分の足音にびくつき、進む。

 着実に出口には向かっていた。


「詩乃さん、もう少しで出口ですから(多分)。頑張ってください」


「はー、はー……え? もう出口なんだ? ふ、ふーん……ざ、残念だなぁ」


 今更取り繕って挽回できるものなどない。


 出口が近い……それが、少しの油断を誘った。


「っ!? っ、ひゃあぁぁあ!?

 く、首っ……ぬめって……」


「首?」


 おそらく、こんにゃくだろう。

 お化け屋敷とこんにゃく……定番の組み合わせだ。周囲を警戒してる中で、死角から狙ってくるのだ。


 まさか、終盤で出してくるとは。


「あ……」


「え」


 すると詩乃さんは、その場に膝から崩れ落ちる。


「どうしよ……力、抜けちゃった」


「……」


 限界が訪れた詩乃さんは、弱々しく笑う。自虐気味に。


 このまま放置できるわけもなく……俺は詩乃さんをおんぶして、出口を目指した。

 背中が、とても温かった。

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