第38話 執事服だ。かっこいいー
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「いよいよ文化祭よ。みんな、気合い入れて行くわよ!」
教卓の前に立つ築野さんは、張り切った様子で士気を上げていた。
文化祭実行委員かつ接客係のリーダー。そんな彼女と女子数人は、メイド服を着ている。
「ふんす!」
黒を基調とした服に、白いエプロンやカチューシャ。ひらひらした膝下のスカート……野郎共のテンションが異様に高い理由が、これだ。
女子は人前でメイド服を着ることに葛藤もあったようだが、いざこうして着てみると……楽しさのほうが上回るのだろう。
「な、俺結構イケてね?」
「どうよバッチシだろ」
男子は、俺含め執事服だ。白いシャツに黒いジャケットを羽織り、首には蝶ネクタイ。
一人だと恥ずかしいが、他にも居るおかげだろう。案外平気だ。
ウチの文化祭は、週末二日にかけて行われる。
そして、二日目……後夜祭のキャンプファイヤーが行われる時間帯に、俺は詩乃さんに告白するつもりだ。
そして、その前に築野さんへの返事もする。
自分で決めたことだが、緊張して仕方ない。
「ファイトー!」
「「「おー!」」」
各々盛り上がる中、文化祭がスタートした。
――――――
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
さて、客足もちらほら。
築野さんの提案で、男性客は「ご主人様」、女性客は「お嬢様」と呼ぶことに。
来店時は「おかえりなさい」、帰宅時は「いってらっしゃいませ」とパターンも変えている。
せっかくなら、とことんなりきろうというもの。
「いい感じじゃん」
普段教室内は、机が列ごと並べられているが、配置を変えて二人用、四人用の席を作っている。
料理も、高評価をいただいている。
まあ、一番目を引くのは……
「お嬢様方、こちらへどうぞ」
女性客二人を案内している、空光だ。
接客スキル自体は、築野さんには遠く及ばない。だが、持ち前の明るさでカバーしている。
客だって、学校の文化祭に完璧な接客なんて求めていない。
特に女性客への接客がうまい空光を褒める声は、聞こえるのだ。
……恋愛アドバイスといい、女性への対応は思いのほか良い。なんで彼女いないんだろう。
「! おかえりなさいませ、お嬢さ……」
負けてられない。
気合いを入れ、来店したお客様に元気よく声をかける……
が、その人物の顔を見て言葉が止まった。
「っ、ぷ、ふふ……は、はい。お嬢様が、帰りましたよ……」
「や、やっほー」
口と腹に手を当て、笑いを堪えている姉ちゃんがそこにいた。
……いや耐えられてないなこれ。
そして、後ろにいる詩乃さん。水色のスウェットトップスに、白のタイトスカートを着用。髪は結ばずストレートに下ろしている。
いつもより大人っぽい雰囲気だ。
それにもう一人、女性が。黒髪をセミロングにしていて、赤縁のメガネをかけている。紺色のデニムワンピースを着用。
詩乃さんの友達……かな?
「……お席の方、ご案内しますね」
「ぶっふ! ……は、はひ、お願いしま……ぐふふっ」
執事状態がそんなに似合いませんかね。丁寧口調がそんなにおかしいですかね。
落ち着け俺。役目を果たせ。
席に案内し、メニューを渡す。
「ふぅん、なかなか様になってるじゃ……ぶふほ!」
「からかい目的なら帰ってくれませんかねぇ」
「いやそんなつもりないって。でもさ、おかしくって。
甲斐だって、アタシがメイド服着て接客してたら爆笑するでしょ」
「……」
「なんでそんな渋い顔になるのよ」
あぁー、最悪だ。姉のメイド服姿とか、嫌なもん想像した。
詩乃さんなら大歓迎なのに。
かといって、妄想するのはイケない気分が……
「! お姉ちゃん?」
「え?」
そこに、副実行委員で接客もしている三田さんが、驚いたように近寄ってきた。お姉ちゃん?
「あ、陽ちゃん」
赤縁メガネの女性は、三田さんを見て親しげに手を振る。
この二人、姉妹なのか。
以前詩乃さんに聞いたな。同僚に三田って人が居て、彼女には高校生の妹がいると。同じ名字だと盛り上がったものだが……
世間は狭いな。
「似合ってるじゃない」
「は、恥ずかしいから」
三田さんとは最近よく話すようになったが、実に新鮮な表情だ。
「甲斐くん執事服だ。かっこいいー」
「……ご注文は、なにになさいますか……お、お嬢様」
恥ずかしさを押し殺せ。
……けど、他のお客さんと詩乃さん相手じゃ全然違う。
「このオムライスケチャップサービスつきって、まさか……」
「ケチャップをかけてあげるだけだが?」
割り込んできた姉ちゃんが、なぜか期待の眼差しを向ける。
だが残念、メイド喫茶みたいに「萌え萌えきゅん」はやらない。
「ちぇっ。甲斐にやってほしかったのに」
「なんでだよ!」
結局三人は、それぞれデザート類を注文。
注文を受けた俺は、調理担当のスペースへと歩いていく。
三田さんも隣に並ぶ。
「ねえ、あの人白鳥のお姉さん? もう一人は……」
「……姉ちゃんの友達で、俺も仲良くさせてもらってる人だよ」
「そっか。不思議な偶然だね」
話が弾む。
身内の繋がりで、クラスメイトと不思議な縁ができるとはな。
注文を伝え終えると、服の袖を引っ張られた。
「むー」
そこにいた築野さんはなぜか頬を膨らませて、俺を睨みつけていた。
「三田ちゃんと、ずいぶん仲が良さそうだね」
なぜだろう、少しだけ不機嫌に見える。
もしや、変な誤解を?
「身内が知り合いだったのがわかったから、その関係で話してただけ。
それより、明日時間を作って欲しいんだけど……後夜祭の前に、いいかな?」
「……わかった……空けておくね。
白鳥。この後休憩だよね。本当なら文化祭、一緒に回りたいんだけど……」
「築野ちゃーん、悪いけどこっち手伝ってー!」
「……」
忙しい築野さんは、とても悲しそうな顔をして行ってしまった。まさか誘ってくれるつもりだったのか。
その後、休憩の時間になった俺は着替え、教室の外に出る。そして携帯を開く。
「休憩になりました、と」
メッセージを送った相手は、詩乃さんだ。
実は一緒に回ろうと、勇気を出して誘っていたのだ。
それから、何度かやり取りをして……校門前にいる彼女を迎えに行く。
ちなみに姉ちゃんは先に帰ったらしい。三田さんのお姉さんは、妹と一緒に回るようだ。
「……お、いた」
駆け足で向かうと、風になびく茶髪が美しく映る女性が立っていた。
賑やかな校内を眺めている姿は、一枚の絵画のように美しかった。
「お待たせしました」
「ううん、眺めてるの楽しかったから。
……着替えたんだ?」
「さすがにあれは恥ずいです」
くすくす、と楽しそうに笑う姿に、胸の奥が温かくなる。
ともあれ……こっから文化祭巡りスタートだ!




