第36話 現役女子校生のミニスカメイド姿なんて興奮するよね
「なっ……!?」
それは、誰の声だったのだろう。
築野さんは、メイド喫茶の制服を着用していた。黒を基調とした生地に、白いエプロンやカチューシャ……ひらひらのスカートは、膝上ほどの長さ。
白いニーハイソックスとスカートの間に見える絶対領域が、いかがわしい雰囲気を漂わせている。
クラスメイトのメイド服姿って……店員さんよりも、刺激が強く感じる。
しかも相手は、俺を好きと言ってくれた女の子だ。
「わー、浪ちゃんかわいい!」
「あ、ありがとうございます」
姉ちゃんはメイド築野さんに目を輝かせ、身を乗り出し、ジロジロ見ていた。
それどころかスマホを構えていた。
「あ、あの、写真は規定に従ってもらって……」
「はあ、はあ、お嬢ちゃんホントかわいいねぇ」
変態おじさんみたいだ。
「どうして浪ちゃんがここに?」
続けて詩乃さんが聞く。俺も気になっていた。
すでに俺と同じくファミレスでバイトをしている彼女が、この店の制服を着ている理由を。
「実は友達が風邪で寝込んじゃって、その代役で」
「なるほどね。……でも、よくメイド喫茶を引き受けたね」
「同じ接客業だし、頼ってくれたんだから応えたいと思ったんだけど。
……まさかスカートがこんなひらひらだとは思わなかった」
メイド喫茶って言ったって、要は喫茶店だ。
ファミレスで接客をやっている築野さんなら、できると判断してのものだろう。
それはそうと、スカートを気にする仕草が……直視できない。
学校のスカートよりひらひらしてるもんな。
「ただ、チャンスかなとも思って。ほら、文化祭の経験に活かせるかもしれないでしょ」
俺たちがここに来たのは、接客のなんたるかを探るため……
その点で、築野さんと姉ちゃんの考えていることは同じだ。
「そっかぁ、話はわかったよ!
……そんじゃ、浪ちゃん、こ、れ」
姉ちゃんは、テーブルの上の『萌え萌えオムライス』を指さす。
「お料理がおいしくなる魔法、かけてほしいなぁー? 素敵な接客見せてよ」
「ぁぐ……」
出来立てとはいえ、話し込んでいては冷めてしまう。
料理を持ってきたメイドさんが、魔法をかけてくれるようだ。代役なのに、大変だ。
この姉、絶対からかってやがる。
築野さんは顔を赤らめて、チラチラと俺を見ているし。
「っ……わ、わかりました。こ、これからこのオムライスに、魔法をかけます!」
何度か深呼吸をしたあと、築野さんはにこっと笑っていた。顔は真っ赤だ。
なんかもう、やけくそ気味って感じだ。
それから、彼女の後に続いて俺たちも真似をするようことに。
「こほんっ。も、萌え萌えきゅーん!」
手でハートを作り、魔法を放った。やり方は習ったのだろう、素晴らしい動きだ。
これを真似するのか、正直恥ずかしい。だが、築野さんがあれだけ必死にやっているんだ。俺も続かなければ失礼だ。
なので必死にやった。
「は、はい! これで、とってもおいしくなりましたよ!」
彼女は涙目だった。よく頑張ったよ、ホントに。
「すっごくおいしそうだよ! あー、お腹すいた!」
「……あっちの猫耳さんは『にゃあ』、熊耳さんは『べあ』だけど、浪ちゃんにそういうのはないの?」
「あくまで代役なので。『来てくれてるだけで助かってるから』って店長は言ってくれて」
だったら魔法もパスさせてあげればいいのに。接客である以上そうもいかないんだろうか。
それから築野さんは別の客に呼ばれて行ってしまう。最後まで恥ずかしそうにしていた。
それを見届け、食事を始める。
「うーん、やっぱり美味しい! 浪ちゃんの愛がこもってるね!」
「あーん。……うん、確かにおいしいね。でも、味自体は甲斐くんが作ってくれる方がおいしいかなー」
……詩乃さんったら、めちゃくちゃ嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
今度、とびっきりのオムライス作ってあげよう。
「はぁー、食った食った」
「楓ちゃん、お行儀が悪いよ」
その後、食事を終えた姉ちゃんはお腹を叩き、水を飲んで喉を潤していた。
こういうのって、萌え萌えオプションで値段が高いのだと思っていたけど……結構な量があったな。満足だ。
「姉ちゃん、この店いつから通ってんだよ」
「へへー、いいでしょ。ご飯はおいしいし、女の子かわいいし。あと、指名した子と写真を撮れるサービスもあるんだよ。あとで浪ちゃんと撮ってもーらお」
めちゃくちゃ満喫してるなぁ。
俺はただメイド喫茶を楽しみに来たわけじゃない。ウチのクラスで役立てるものがないか、学びに来たんだ。
今のところ、築野さんが居たことで全部持っていかれているが。
「お、どうした甲斐。お目当てのメイドさんでも見つけたのかな」
従業員の動きを見ていた俺に、姉ちゃんは驚くべき言葉をぶつける。
メイドさん漁りをしていると思ったようだ、失礼な。
「みんなかわいいもんねー、でもネネちゃんは渡さないからね」
「取らねえし」
「あんたのタイプはどの子かなー?」
弟をメイド喫茶に連れてきて、その好みを聞こうとするなんて……どんな姉だよ。
「甲斐的には、やっぱ浪ちゃんかな?」
「なにを……」
「や、わかる。現役女子校生のミニスカメイド姿なんて興奮するよね。しかもクラスメイト!」
話聞けよ。
姉ちゃんの与太話はさておき……従業員の中で築野さんが一番印象深に残っているのは確かだけど。
クラスメイトだからって意味もなくはないが……実際に、かわいいし。
……あの告白以来、築野さんのことはこれまで以上に気になる存在になった。俺は詩乃さん一筋だと言うのに。
その詩乃さんはと言うと……さっきから、黙ったままだ。視線を感じるから、見つめ返すと……そっぽを向かれる。
なぜ……?
「あ、浪ちゃーん、写真撮ってー!」
帰る前、姉ちゃんはネネちゃんさんや築野さんと、写真を撮っていた。
俺は……遠慮しておいた。




