第34話 文化祭かぁ……懐かしいなぁ
「へー、今度文化祭やるんだ?」
「はい、そうなんですよ」
いつものように、詩乃さんと一緒に晩ご飯を食べている。
だが、なぜか姉ちゃんもいる。たまに部屋に来るんだよな。
二人の手には、当然のように缶ビールが握られている。
「ほら、これがパンフレットよ」
「なんで姉ちゃんが持ってんだよ。俺渡してないぞ」
「さあ、なんででしょー?」
バイト先の店長と懇意にしてたり、なぜかパンフレットを持ってたり……謎だ。
深く追求する気もないけど。
それにしても俺の部屋は、すっかり飲んべえたちのたまり場だな。
「ふぁあ……」
大あくびしてるな。……なんとなく、姉ちゃんとは気まずい。俺が勝手にそう感じてるだけなんだが。
なんせ、夏祭りの日に……彼氏と、多分キスをしていたのだ。
それを本人に言えるはずもなく、俺の心にあるのは人のキスシーンを目撃したことへの高揚感……ではない。
「はぁー……」
「ちょっと、なんで人の顔見て大きなため息つくのよ」
あの光景を思い出すと、背筋には悪寒が走る。
なんでかって? だって姉ちゃんの……身内のキスだぞ。暗闇で遠くだったからよく見えなかったが。
見て気持ちいいものではない。
「別に。姉ちゃんは夏祭り楽しんだんだろうなって話」
「藪から棒に夏祭りの話? あんたたちも、楽しんだんでしょうが」
「……あの日はごめんね甲斐くん、最後酔って寝ちゃって……」
「いいですよ、詩乃さん。正直予想してました」
「……それはそれで、情けないなぁ」
なんだかんだあって、楽しかったのは事実だ。
雨の花火や、酔った詩乃さんを介抱したのもいい思い出だ。
だが、一番印象に残っているのは……築野さんからの、告白だ。
『……ぁ』
夏休みが終わり……学校に登校した俺は、築野さんと会って言葉が出てこなかった。
運良くか悪くか、バイト先では夏祭り以降会わなかった。なので、"告白"以降初めて会ったのが学校だ。
俺は情けなくも、言葉を探していたのに……
『お、おはよう、白鳥』
築野さんの方から、挨拶をしてくれたのだ。ありがたかった。
彼女が歩み寄ってくれたのに、俺がぎこちないままなのは情けない。
教室では空光もいるおかげで、以前のように話すことができた。
「文化祭かぁ……懐かしいなぁ」
詩乃さんは、テーブルに置かれたパンフレットを手に取っていた。
姉ちゃんも、横から覗き込む。
「あんたのクラスは……喫茶店か」
文化祭ではそれぞれのクラスがやりたいものを集め、クラスの代表が話し合い出し物を決める。
そのため全く同じものが被ることはなく、ウチはなんと人気である喫茶店を勝ち取ることができた。
だが、ただの喫茶店というわけではない。このあたり工夫したおかげで、勝ち取れたのだ。
「ね、どんな喫茶店すんの? まさか普通の店ってことはないでしょ!」
……姉ちゃんめ、鋭いな。
「内緒」
「なによー、どうせ行ったらわかるんだし、言いなさいよー」
……やっぱり来るつもりか。ニマニマ笑うのやめろ!
「……なんだよその顔」
「いやー、その反応……なにか面白いことが待ってると見たね!」
……またも鋭い。変に興味を持たせてしまった……まずったな。
俺としては、"あの格好"を見られるのは、恥ずかしい。なんとか見られずに済むには、どうしたらいいか。
今更来るなと言っても聞かないだろうし……無理かなぁ。
「甲斐くん、私も行ってみていいかな?」
「いいですよ」
あ……詩乃さんからの頼みに、つい即答してしまった。「やったー」と喜んでいる姿を見ていると、やっぱり来るなとは言えない。
「よーし、じゃあその日は私と詩乃とで、あんたの教室行くから。サービスしなさいよ、タダで!」
「俺にそんな権限はない」
ケラケラと笑う姉ちゃんが、肩を組んでくる。うっ、酒くさい……
高校の文化祭なんて、二人にとってはかなり久しぶりだろう。だからか、こんなにはしゃいでいるのは。
「そういうわけで、つまみ出しなさいよー」
「どういうわけだよ」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ姉ちゃんに、ため息を漏らしつつ立ち上がる。
冷蔵庫に向かい、つまみになりそうなものがないか確認。
「ごめんね、甲斐くん。任せきりで」
いつの間にか後ろにいた詩乃さんが、軽く謝る。
……いきなり後ろに立たれると、ドキドキするな。恐怖じゃない方の意味で。
「いえ、もう慣れてますから」
お、枝豆を見っけ。最近、これが好評だから買っておいたんだよな。
「楽しみだなぁ」
「おつまみが?」
「文化祭が」
そんなに楽しみにされると、ちょっとハードルが……
……文化祭での出し物を決めるにあたって、男子から多くの声が上がった。
それが『メイド喫茶』だ。しかし、そんなもの女子に受け入れられるはずもない。
だからといって、ただの喫茶店ではインパクトに欠ける。
接客自体については、築野さんがリーダーになってみんなに教えることになった。バイト先で頼れる接客係であることは俺も知っている。
おかげで、完璧とはいかなくてもかなり上達した接客を見せることができるはず。
『なんで私たちだけ』
『不公平よ』
『男子もなにかやって』
そして、話し合った結果として……女子はメイド、男子は執事のコスプレに扮することになった。
女子がメイド服に否定的だったのは、恥ずかしいから……という理由ではなかった。メイド服に関しては、思いのほか乗り気だった。
ただ、自分たちだけがそんな格好をするのは不公平だ……それが、彼女たちの不満だったわけだ。
ということで、メイドと執事を混ぜた喫茶店となった。




